第19話:不動の門、鋼の旋風
秋吉道場は、今や巨大な「マブイの墓場」と化していた。
中央に立つ遠野の纏う重装甲『クロオビ・岩鉄』は、最新の環境補正をかけてなお、ノリスの放つ「絶対零度の静寂」に装甲がパキパキと凍てついている。対角のノリス――黄金の『コブラ・ゴールド』が、予備動作ゼロの等速加速で消失した。
――ガヂッ!
遠野のガードを貫くノリスの連撃。マブイの燃焼波を完全に閉鎖したその拳は、排出すべき波形を持たない純粋な破壊振動だ。遠野の『岩鉄』の内側でエネルギーが乱反射し、装甲の隙間から「沸騰した血液」が霧となって噴き出した。
「不動とは停滞。流転を拒む物質は、いつか脆く砕ける」
ノリスが右拳を引き絞る。冷却ガスが冬の霧となって道場を覆う。
(読めぬなら、大地ごと砕くのみ――!)
遠野が『岩鉄』のリミッターを自ら引きちぎり、地脈の反動を拳に乗せた。洪家拳奥義『地脈粉砕』。
ドォォォォォォォォォォォォンッ!!
正面衝突。衝撃波で道場の屋根瓦が数枚剥がれ落ちる。爆煙の中、遠野は一歩も退かなかったが、その右拳はノリスの「芯」を捉えきれず、虚空を掴んでいた。
「そこまでだ、ノリス。道場が壊れたら寿司を食いに行けん」
シャオロンの冷徹な一言。ノリスは黄金のマブイを閉じたまま、音もなく下がった。遠野は痺れた拳を震わせ、自分が見上げた「底なしの虚無」に戦慄していた。
「さて、本命の『嵐』を頂こうか」
シャオロンの指先が、その男を指した。
「アブダビブル。お前の『暴力』に、空手が何秒耐えられるか計れ」
二メートルを超える巨躯。装甲など必要としない、からくり筋肉と生身が醜悪に融合した「人間戦車」が前に出た。
その瞬間、嵐の『昇龍』の重力センサーが狂い、アラートが悲鳴を上げた。
アブダビブルの周囲では、空気が物理的に圧縮され、一呼吸ごとに肺を鉄のヤスリで擦られるような激痛が走る。彼には武人の熱も孤独もない。ただ「潰すべき物質」を検品するような無機質な破壊。
「――十秒で、スクラップにする」
アブダビブルの宣言と同時に、嵐の視界の隅でデジタルの秒読みが始まった。
だが、嵐の右腕――有機組織の継ぎ目が、その絶望的な重圧に呼応し、歓喜するようにドクンドクンと脈打つ。
「十秒……。最高だ、アンタ」
嵐の口元が、狂気に満ちた笑みを刻んだ。
安道流・空。地獄の中堅戦、開始。
少年の魂が、世界の理を壊す「嵐」となって再び吹き荒れる。




