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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2026.9.
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2523/2532

一世一代の大勝負

「『カクヨム』の自主企画「こんなシチュエーションの出だし

(「主人公は30過ぎのおっさん。舞台は田舎町。おっさんは車で帰宅途中、信号待ちをしていた。

 と、突然後部のドアが開けられて小学生(5年生くらい?)が乗ってきた。驚いたが相手も戸惑っている様子。

 外の道路沿いには、学習塾と書かれた出入り口から光がこぼれている。おそらく塾の帰りで、家族の迎えの車が来たと勘違いしたらしい)

から書いてみませんか」参加作品です」






 おっす、俺の名前は、手嶋てし夛尼たに

 とある組織の下っ端要員で、何とか手柄を立てて上へと駆け上がりたいお年頃(三十歳)の男だ。

 アニキを家まで送り届けた俺は車で帰宅途中、信号待ちをしていた。

 と、突然後部のドアが開けられて、小学校五年生ぐらいの白のオカッパ頭で三百眼の坊主が乗って来た。

 俺はもう、それはもう、驚いた。心臓が止まるくらいに驚いた。

 坊主も戸惑っている。ようだ。多分。いや、勘違いかなどうかな。

 外の道路沿いには、学習塾と書かれた出入り口から光がこぼれていた。おそらく、塾の帰りでファミリーの迎えの車が来たと勘違いしたらしい。

 坊主は、いや、怪しい薬を飲まされてしまい、頭脳は大人、身体は小学校五年生になってしまった俺が属する組織と対立する組織のボス、御所瓦重光ごしょがわらしげみつは俺を見た。確かに見た。ガッツリ見た。食い入るように見た。見たくせに、出せと言いやがった。

 いやいやいやこれはこれはこれはいけませんなあ。

 御所瓦重光は運転手の顔を覚えていない模様。

 いやいやいやこれはこれはこれはいけません。いけませんね。上に立つ身としては。

 しかし、これは絶好の機会。チャンスですよ。手嶋夛尼。

 このまま車に乗せて、どうにかして御所瓦重光を寝かせて、俺たちの本部に連れて行けば。

 げへへへへ。

 おっと、想像しただけで、鼻水が出ちまった。いっけねいけね。


「おい。早く出せ」

「ああ。へい」

「おかしな返事をするな。イエッサー、ボスだろうが。それ以外の言葉を発するな」

「イエッサー、ボス」


 なるべく真面目っぽい顔になった俺は車を動かした。時速三十キロを心がけて。


「おい。いつもの流せ」

「イエッサー、ボス」


 おいおいおい、いつものって何だよ。俺は心なんて読めないんだぞ。いつものって言われても分からねえよ。っく。だが。俺には俺の武器がある。それは何だって。そう。それは。


「ねんねん、ころおおおおおりよおおお。ねんねえええええしなあああああ」


 そう、俺の武器。それは。美声だ。美歌だ。俺の歌にかかれば、機嫌の悪いアニキもほんのちょっぴり機嫌をよくするのである。


「あねんねん、あころおおおおおりよおおお。あねんねんしなああああああああ」

「………おい」


 あやべっ。声がこええ。やっぱ、組織が違ったら俺の美声美歌も通用しねえのか。くう。俺もここまでか。


「着いたら起こせ」

「イエッサー、ボス」


 やっふぅうううううう。

 やりました。

 やりました、手嶋夛尼。

 ゴールまで三十キロを心がけて車を走らせます。

















(………知らない人を乗せるなってあれほど言ったんだがなあ)


 手嶋夛尼が属する組織のボスにして、御所瓦重光と同じく怪しい薬を飲まされてしまい、頭脳は大人、身体は小学校五年生になってしまった武者小路武蔵むしゃのこうじむさし。最近になって漸く昇進して運転手になる事ができた手嶋夛尼がお約束を実行しているか試すべく、敵対するボス、御所瓦重光に扮して接近したのだが。


(………仕方ない)


 いつもながらに素晴らしい子守唄に耳を傾けつつ、武者小路武蔵は呟いたのであった。




「降格だな」











(2026.9.9)





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