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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2026.5.
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2381/2456

フラワーレメディエーション




 今日は西暦〇〇〇〇年〇月〇日。

 汚染された廃工場で見つけたんだ。

 コールドスリープされている君を。

 君はすぐには目覚めなかった。

 君を見つけてから十年後。

 コールドスリープに設定されたタイマー通りに目を覚ました。

 君は誰だい。

 何故この工場は汚染されているんだい。

 この工場は何を製造していたんだい。

 何故汚染された廃工場内でコールドスリープされていたんだい。


 何も。

 三十代女性は尋ねて来た二十代男性、とおるに言った。

 何も覚えていない。

 かおるという名前以外は何も。






 南の土地にて。

 五月の下旬。

 涼風が吹き、黄、橙、紅と、時間が経つにつれて花の色を変化させ、細長い筒状の花(小花)が密集して丸いボンボンのような形の花の紅花が咲き溢れる中。

 病院内での検査が済み、記憶喪失に関してはコールドスリープによる弊害か、それともコールドスリープに入る前にすでに記憶喪失に遭う何か危機的状況があったのか、何とも言えないものの、身体に関しては体調万全との診断をされては、一か月間、身体機能の回復に努めつつ現在の社会状況などの教えてもらってのち、今現在、薫は透に廃工場があった場所へと連れて来てもらったのである。


「フラワーレメディエーション。観賞価値の高い花卉を利用して環境を美化しながら土壌汚染を除去する手法の事を言うんだ。何種類か植えていたんだけど、紅花以外は枯れてしまったんだ」

「はい」

「茎、葉、根は汚染物を蓄えていて使えないけど、花と種は使えるんだ。化粧品、染色、茶、酒、薬用、加工食品、油に利用できる」

「はい」

「今は少人数で、あの住宅みたいに小さな作業場で加工しているんだけど。いつかは大きな工場を作りたいって思っている。安全安心健康を第一にしながら、みんなが自分の手で稼げるようにしたいんだ。もう。無理をして、死んでいく人を見たくない。見ているだけにしたくない」

「はい」


 透が話を続ける中、薫は下げていた手を上げては、持っていた一枚の写真を見つめた。

 透からもらった廃工場の写真である。

 写真を注視したが、何も思い出せなかった。

 紅花の花畑を注視しても、残像すら思い浮かばなかった。


(薫っていう名前も私の名前かどうか分からない。ただ名前がないと不便だからって、私の名前に使わせてもらっただけ。私は何も覚えていない。これからどうすれば。透さんは一緒に働こうって言ってくれるけど………一体何の工場だったんだろう。記録も機械も何も残っていない、ただ、工場と書かれた大きくて朽ちかけたコンクリートの建物があったって。私は工場と関係があったのか。土壌汚染していたって事は。化学工場。だめ。何も思い出せない。でも。思い出せない事に焦りがない。むしろ、気分が爽快している。この紅花の花畑を見ていると、すごく、嬉しい気持ちになる。花畑に癒されているのか。紅花が好きだったのか)


 薫は写真を折り畳んでポケットに入れてのち、思いっきり空気を吸い込んで、紅花の花畑を見つめた。


(うん。コールドスリープの中で死んでいたかもしれないのに、生きてた。こうして、生きている)


 薫は横に立つ透へ身体を向けると深く頭を下げた。


「透さん。紅花についてもっと教えてください。私を透さんたちの作業場で働かせてください」

「うん。僕こそ、よろしくお願いします」

「あと、もう一つ、お願いがあります」

「はい」

「環境汚染は限りなくゼロに近い方針でよろしくお願いします」


 薫はやおら顔を上げると、透の瞳を直視して言った。

 うん。

 透は小さく頷いたのち、大きく頷いては、言った。


「前々世界の時のような過ちを犯さないために。過去から学ぼう。未来のために学ぼう。今、新たな環境汚染を生み出さないように、環境を回復できるように、みんなで生きて行けるように、みんなで頭を絞ろう」

「はい」

「じゃあ、まずは作業場の中を案内するよ」

「紅花はまだ摘まないんですか?」

「うん。紅花の鋭い棘は早朝の朝露でやわらかくなるから、紅花摘みは明け方から始めるんだ」

「分かりました。早起き頑張ります」

「よろしくお願いします。じゃあ、行こうか」

「はい」


 ふと、誰かに呼び止められたような気がして、作業場へと向かう透に背を向けた薫。もう一度、紅花の花畑を見つめていると、不意に自分の口から言葉が飛び出していたが、聞き取る事はできず。

 首を傾げながらも、透の後を追ったのであった。





















 あ。

 はは。

 ざまあみろ。

 ざまあみろ。

 ざまあみろっ! 

 ぜんぶぜんぶぜんぶ、ぶっ壊れちまえ!

 こんな殺人工場なんか、

 私たち貧乏人に押し付けんじゃねえっ!

 ああ、そうだよ私たちも人殺しだ。

 金に釣られた大罪人だ。

 だから、私たちも、




 高笑いと共に劈く声音が聞こえるが、いともたやすく涼風に攫われて、紅花の花畑の吐息に吹き飛ばされて、何も残らなかった。











(2026.5.30)




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