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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2021.4.
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知っているけど知らない




 相部屋のやつと一緒に過ごし始めて一週間が経った。

 まだまだ知らないことばかりだが、やつが好きな映画はわかる。

 よく役者名を口にするのだ。

 詳しくは知らないが、確か結構昔の外国映画と日本映画だったはず。

 あんまり興味はないが、これから一年間は一緒に過ごすんだ。

 会話のネタになればと、風呂も入ってさあ自由時間だという時に話しかけてみた。




「おまえさあ。よくエイドリアンとすけきよって名前連呼してるからよっぽど好きなんだな。なんて映画なんだ?」

「え?いや。別に好きじゃないし。内容も覚えてない」

「え?じゃあ、おまえ。何であんなに名前口にしてんだ?」

「え?俺、口にしてたか?」

「無意識かよ。なんか、朝起きようとする時とか、勉強している時とか、寝ようとしてる時は、ぶつくさぶつくさ何回か言ってるぞ」

「あー。そうか。うるさくして悪い」

「いや。別に相部屋だからそんくらいは覚悟してたからいいけどよ。大声出すとか暴れ回るとかじゃねえし」

「いや。これからは気を付ける」

「あー。まあ、おまえが気にするならいいけど。で」

「で?ああ。あー。なんか、がんばろっかなーって時に、口にしてたら、くせになっちまったみたいで。ただ、なんで、口にしてんのか、よくわかんねんだよな」

「がんばろう。じゃなくて、エイドリアンって?」

「そうそう。あと、すけきよ。なんだろうな。主人公がエイドリアンって叫んでる。いや、そんな場面があるのかどうかさえ忘れたけど。とにかく、その場面と、すけきよってやつが、泉、湖、の真ん中で逆さになって浮かんでる場面が強烈に焼き付いてて。なんか。なんだろうな。力を入れなきゃいかん時に、出てきちまうんだよなー」

「へー」

「別に好きじゃないのになー」

「へー」

「あー。変な話聞かせて悪い。好きで口にするならわかる話なのにな。そうじゃないのになんで口にするんだか。家族にも変だってよく言われたんだけどよ。変える気がしなくて」

「おまえにとっての頑張る呪文みたいなもんか」

「あー。まー。そーゆーもん。かねえ」

「ふーん。でも、なんか、いいんじゃね。なんか。俺も口癖にしたくなってきた。けど、俺はそーゆー強烈な印象のもんってまだないな」

「いや。羨ましく思うもんじゃねえぞ。一つは死体だからな。どーっちかってーと早く忘れたい。のになー」

「あー。それはごしゅうしょう、さま?」

「首傾げんなよ」

「悪い悪い。でもやっぱ、俺もほしいかも」

「そーか?」

「自分の一頁って感じでいいじゃん。俺、なんもねーし」

「真っ白だから何でも書き込めますよ」

「わーすてきなことばー」

「はいはい、ぼうよみ」

「……あー。まー。一週間経つけど。こんな、話したことなかったな」

「お互い、やることで精いっぱいだったしな」

「気楽によ。これからよろしくな」

「おー。じゃあ。俺。課題すっから。わかんないときはよろしく」

「学部ちげーから無理だっての」

「つかえねー」

「わるうごぜーました」




 まあ、今はこんなもんだろう。

 一年後に部屋がわかれても、親交があるかどうかわからない程度。

 緊張もまだほどほどにある程度。


 嫌に感じなかったのは何よりで。

 こいつもそうならいいとは思うわけです。





(2021.4.13)




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