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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2021.4.
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170/2532

かえでかあめのいたずら




 新緑の楓は日光をすべて受け留めて、魅力が増す。

 もともと備わっていた、やわらかさや清涼さがもっともっと鮮やかになる。


 新緑の楓は雨をすべて受け流して、魅力が増す。

 もともと備わっていた、やわらかさや清涼さがもっともっと匂い立つ。






 

 雨の重みにしだれる楓で狭められた道を、身をかがめて進もうとした時だった。

 行く先にはない感触を足元で感じて、よくよく目を凝らして見れば、こぎつねが目を回して倒れているのに気付き、思わず舌打ちをしながらも、狐の首根っこを掴んでその場を後にした。




「死にかけた」

「感謝の礼が先だろうが莫迦狐が」

「死にかけた」

「莫迦に礼を求めたのが浅慮だった。じゃあな」

「待てい!」

「っち。莫迦は回復が速くて本当に嫌になる」

「気絶したもんをいきなり温泉に放り投げるか普通!?」

「普通じゃないんでな」

「普通じゃなくてもするな!助けるなら適切に助けろ莫迦!」

「あんなうっすい結界では雨も防げず弱った身体は冷えてそのまま死に絶えていたはずだ。それを助けようとして優しくも薬湯に入れてやったというに。まったく。親と同じで恩知らずが」

「なに?おまえ。俺の親を知っているのか?」

「…遠い昔の話だ。今は知らん」


 しゃらり。

 乱暴な腕の振り上げとは裏腹に、美しい音を立てながら、こぎつねが張った結界を破って、烏天狗はそのまま飛び立っていった。

 文句を言おうと思っていたこぎつねは、次に行うべきだった動作を止めて、怒りを忘れて、ただ黙って空を見上げていた。  

 未だ降り注ぐ霧雨に目もくれずに。

 ただ、だまって。







「あーあーあー。目を奪われちゃったかな」


 こぎつねを迎えに来た親である九尾は、少しだけ寂しげに、けれど満足げに笑ったのち、元気よく帰るぞとこぎつねに向かって言ったのであった。











(2021.4.12)




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