風邪の日限定悪魔の実
風邪の日限定でこいつは悪魔の実になる。
口をぎゅっと閉じた。
多分変な顔をしている。
見なくてもわかる。
いつもなら大笑いしただろうけど、喉が痛いからできなかった。
「もー。お薬はちゃんと飲んだのに、どうしてこれは飲めないの?」
どうして飲めないかって?
なんでそんな簡単な理由がおとなのくせにわからないの?
こいつが悪魔の実だからに決まってる。
「これを飲んだらもっと早く風邪がよくなるのよ」
いいよ別に。お薬飲んだんだからじきに治るもん。
「おかあさんの愛情たっぷりなのに」
お薬だって、会社とお医者さんと薬剤師さんの愛情たっぷりだもんね。
「あーあ。かなしいなあ」
こっちだってかなしいやい。
喉だって頭だって痛いのに、ほっぺたまで痛くなってきたんだぞ。
「おかあさん。はやくよくなってほしいのになあ」
ふん。自分がうちにいたら仕事もできないしぐーたらもできないからだろ。
「まあ。むりじいするのもよくないか」
そーだそーだ。あきらめろー。
「じゃあ、おかあさんが食べて元気もりもりになっちゃうもんねー」
今以上に元気になられたら困るけど、飲むよりましだ。
「じゃあ、おやすみなさい」
ふん。よーやく諦めたか。
でもまだ油断は禁物。
どーせ明日の朝も飲めって言われるんだ。
あーあ。早く治らないかなー。
同じ食べ物だって何回言っても、実際に焼いてみせても、すり替えただろうって絶対に信じないんだから。
おかゆの上にのせた梅干しをとても嬉しそうに食べている我が子を見て、苦笑がこぼれる。
まあ、でも私も苦手だったか。
焦げた部分が瞳みたいで、しかも周りが赤で、悪魔みたいで怖かったもん。
でも、効果はあったからなー。
焼いた梅干しのお湯割り。
風邪の日限定で出される我が家の定番。
(ま。もう少し年を重ねたら飲んでくれるかな)
気長に待つか。
暢気に構えていた母が、まさか三十まで我が子が拒み続けるなんて、まだまだ知らないのである。
(2021.4.12)




