きゃらぶき
もー。泣かないの。それでもお姉ちゃんなの。
小さな背中に向かって、小さな私は文句を言う。
夢の中の話である。
「人の手が加わったものを食べるとは」
「ああ、イヤダイヤダ。高貴な血が穢れるわ」
「見よ。あのくすんだ翼の色を。自業自得よの」
あー。うるせーうるせー。
ぴーちくぱーちく。
流石は鳥の仲間。
よくまあさえずること。
心中で呟いて憂さを晴らし、いそいそと竹皮の包みを解く。
すれば、純白の俵型塩おむすびと、艶々と茶色に輝くきゃらぶきがちんまりと姿を現す。
こーんなうまいもんが食べられないなんてあいつらもったいねーなー。
気分によっては、ちまちま食べたりもするが、今日は豪快。いっぺんに口の中に放り込み、頬をぱんぱんに膨らませてから、ゆっくりと味わう。
この時間を至極と呼ばずして、何時呼ぼうか。
うっとりとした気分は、食べ終わってからもしばらく続く。
人間に対しての感謝の念も、まあ、十分の一くらいは。
ただ巣を作る為に枯れ葉を集めているだけなのだが、人間は感謝の言葉と共にこの至高の食べ物を自分にくれた。
まこと不可思議なことなのだが、人間のすることだ。いちいち気にしていても埒が明かないので、あまり考えないでいた。
もし、次に訪れる時にくれなかったとしても、それはそれで仕方ないと、諦めるつもりでもある。
これだけ感動しておいても、もともと感情が希薄な妖怪なのだ。執着はさほどない。
ないが、食べられるに越したことはないと、思う時もある。
そんな時は、首をかしげる。
確かに、人間の手が加わったものは食べるべからず、との掟を破ってまで、何故自分は口にしたのか。
疑問に思うが、それはそれ。直感だろう。
そしてみごと命中。まさに自分の好みだったのだ。
「さあて。次はいつになるかなー」
もー。泣かないの。それでもお姉ちゃんなの。
小さな背中に向かって、小さな私は文句を言う。
夢の中の話である。
恐らく、ここ最近時代劇を見ているせいだろう。
着物の少女が二人登場するのだ。
一人は私、もう一人は私の姉だ。
きっと一人っ子で寂しい私の願望が見せる夢なのだ。
姉が泣いている理由はわからないが、母が持たせた二人の好物を見せた途端、姉は泣き止む。
単純だが、私も同じなのだから笑えない。
「あー。今日も今日とて、積もってるわー」
両親の忘れ形見の一つと言うべき、種類のわからない、もとい覚える気のない大きな木。
今日も今日とて、枯れ葉の絨毯を庭に作る。
掃いても、掃いても、次の日には同じ光景が目に入って来て、げんなりしていたが、この頃はそうでもない。
ただ、枯れ葉掃除に目覚めたわけでは決してなく。
「ありがとー!!!」
数日に一度枯れ葉を吸い込んではどこぞへ持ち去ってくれる小さな竜巻に礼を述べて、朝と昼の間に食べようと思っていた小さめの俵型の塩おむすびときゃらぶきを包んだ竹皮を投げ入れる。
もったいないとは思わない。
渡さなければと思ったのだ。
ただの直感ではあるけれども。
(2021.4.12)




