ふるーつさんど
「痛い」
「うそつけ」
「頭を足蹴りするなんてひどいよよよ」
「さっさと起きろよ」
「やだ」
「これを目にしてもんなとこが言えるか?」
「そ、それは」
「ほわ、もち、じゅわ~。だ」
「ほわわわわわ」
「しかも」
「ほわわわわわ」
「生クリーム」
「ほわわわわわ」
「チョコクリーム」
「ほわわわわわ」
「カスタード」
「ほわわわわわ」
「の三種の神器だ」
「ほわわわわわ」
「ほしいか?」
「ほわわわわわ」
「ほしいならさっさと起きろ」
「なあ。この地面さ、チョコレートを薄く削ったみたいだな。しかもストロベリー。ほんのり匂う恥じらいさ。うあー。手で触ろうとしても舌でなめようとしても消えるってどーゆーこと?」
「さっさと起きれば、これもこれもこれもぜーんぶおまえの好きな甘味は食える」
「…起きてもな―。奢ってくれるやつがなー」
「てめーの金で買って食え」
「いやー。自分でも買うよ。買うけど。さ。やっぱ。人から奢ってもらった方が、なんか、もうひと塩、美味しさが増すっつーか」
「…奢ってやるよ。いつか」
「いつかって。来世って意味?」
「あほ」
「それとも、なにか人外生物になっちゃった?」
「さっさと起きろ」
「やだ」
「食いたいだろ。よだれの川ができてんぞ」
「心がえぐられるので君の顔は見ませんけど。見ませんけど」
「…起きて、さっさと会いに来い」
「…やだ。会えないもん」
「会える」
「会えない」
「会えるっつってんだろ」
「会ーえーまーせーんー」
「…あって。時間は経ってるだろうけど。これ持って、花見すんぞ」
「………」
「おい。川の水が増量してるぞ」
「………起きたくない」
「ああ。きれいだろうなあ。この景色に負けないくらい、桜吹雪が」
「……やーだー」
仄かに苦みのある、力強い花々の匂いが鼻腔を通じて喉を刺激する。
すんなり持ち上がったはずの瞼がえらく重く感じた。
常になくうるさい呼吸は跳ね返って来て煩わしいことこの上ない。
起きたくないって言ったのにばかたれ。
どこもかしこも痛くて、心中で毒づく。
ばかたればかたればかたれ。
ばか。
「今年は窓から眺めるだけにしとこうな。ふるーつさんども以下同文。お互いにしっかり歩けるようになったら、行こう」
ばかたれ。
(2021.3.16)




