この世の果てにまで
父が旅立った。
年は関係ねえ俺は夢を追うと言って、私と母を残して。
私は泣いた。
実際には泣かなかったけど、いや、米粒程度には泣いたような気がするが、涙の量は関係なく、悲しんだし、何より困り果てた。
ゾンビ映画だ。
ホラーは中学生の内に見るのを諦めたが、ゾンビ映画はどうしても諦められなかった。
新作ならば諦めたかもしれないが、続編だったからだ。
映画を観る時、TVの前に座るのは、私と父、時々母。
しかし、ゾンビ映画の時は私と父しかいないのだ。
人が一人いるだけでなんと心強かったことか。安心感が半端なかったことか。
それが。
それがなんてことだ。
これからは一人で観なければならないだと?
行かないでと、何度叫んだだろう。
娘が可愛くないのかと、何度詰ったことだろう。
父は私の懇願を振りほどいて、さっさと行ってしまった。
バカ野郎。
青春映画よろしく父の背中に向かって、花束を投げた。
庭に咲いている雪柳だ。
地面に落ちた花束を父は拾って、今度こそ旅立った。
仕方ない。
父には父の夢がある。
そうして見送ってしまった私は母に懇願したが、にべもなく断られた。
取り付く島もない。
友を呼べばいいと思うかもしれないが、ゾンビ映画鑑賞には相性がよくない。
一度だけ鑑賞した時に、茶茶を入れまくられて、爆笑の渦をさらうばかりか、いつの間にやら映画鑑賞そっちのけで、違う話題に走ってしまい、しまいには、格闘ゲームをやっているうちに、映画は終わってしまっていた。
いやいやいやいや。
父のように、ただ、隣にいてくれるだけでいいのだ。
CMの時に、ぽつりぽつりと少しだけこの後の展開を話せればいいのだ。
けれど、友人にはそれは望めない。
友人といる私にもそれは望めない。
やっぱりはしゃいでしまう関係なのだ。
ううう。
そうこうしているうちに、続編が二週間後に迫ってしまった。
どうする。
どうする。
見ないという選択肢を選ばなければいけないのか。
自分に問いかけ続けた結果。
私は閃かせた。
「はい。では、竜を二時間お貸ししますが、ほかに外見などご要望はおありでしょうか?」
「はい。鱗が厚くて、しゃべらない竜でお願いします」
着ぐるみ代行人。
こちらの要求する着ぐるみを被っては依頼をこなす何でも屋だ。
金品ではなく、着ぐるみで過ごせる環境が整えてられていて、かつ、事務作業を手伝えば、大方の依頼をのんでもらえる。
そこまでして。
長い箸でつっついてくるような母の呆れた視線は無視して、送られてきた書類の仕分けや文字直しをこなしながら、その日を待った。
結果、竜の着ぐるみを被った母が一緒に映画を観てくれたのであった。
恐らく、母は着ぐるみの中で寝ているだろうが、高望みはしない。
とにかく、隣にいてくれればいいのだ。
(2021.3.6)




