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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2021.3.
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この世の果てにまで




 父が旅立った。

 年は関係ねえ俺は夢を追うと言って、私と母を残して。

 私は泣いた。

 実際には泣かなかったけど、いや、米粒程度には泣いたような気がするが、涙の量は関係なく、悲しんだし、何より困り果てた。


 ゾンビ映画だ。


 ホラーは中学生の内に見るのを諦めたが、ゾンビ映画はどうしても諦められなかった。

 新作ならば諦めたかもしれないが、続編だったからだ。


 映画を観る時、TVの前に座るのは、私と父、時々母。

 しかし、ゾンビ映画の時は私と父しかいないのだ。

 人が一人いるだけでなんと心強かったことか。安心感が半端なかったことか。


 それが。

 それがなんてことだ。

 これからは一人で観なければならないだと?


 行かないでと、何度叫んだだろう。

 娘が可愛くないのかと、何度詰ったことだろう。


 父は私の懇願を振りほどいて、さっさと行ってしまった。


 バカ野郎。

 青春映画よろしく父の背中に向かって、花束を投げた。

 庭に咲いている雪柳だ。

 地面に落ちた花束を父は拾って、今度こそ旅立った。


 仕方ない。

 父には父の夢がある。

 そうして見送ってしまった私は母に懇願したが、にべもなく断られた。

 取り付く島もない。


 友を呼べばいいと思うかもしれないが、ゾンビ映画鑑賞には相性がよくない。

 一度だけ鑑賞した時に、茶茶を入れまくられて、爆笑の渦をさらうばかりか、いつの間にやら映画鑑賞そっちのけで、違う話題に走ってしまい、しまいには、格闘ゲームをやっているうちに、映画は終わってしまっていた。


 いやいやいやいや。

 父のように、ただ、隣にいてくれるだけでいいのだ。

 CMの時に、ぽつりぽつりと少しだけこの後の展開を話せればいいのだ。

 けれど、友人にはそれは望めない。

 友人といる私にもそれは望めない。

 やっぱりはしゃいでしまう関係なのだ。


 ううう。

 そうこうしているうちに、続編が二週間後に迫ってしまった。

 

 どうする。

 どうする。

 見ないという選択肢を選ばなければいけないのか。


 自分に問いかけ続けた結果。

 私は閃かせた。






「はい。では、竜を二時間お貸ししますが、ほかに外見などご要望はおありでしょうか?」

「はい。鱗が厚くて、しゃべらない竜でお願いします」


 着ぐるみ代行人。

 こちらの要求する着ぐるみを被っては依頼をこなす何でも屋だ。

 金品ではなく、着ぐるみで過ごせる環境が整えてられていて、かつ、事務作業を手伝えば、大方の依頼をのんでもらえる。


 そこまでして。

 長い箸でつっついてくるような母の呆れた視線は無視して、送られてきた書類の仕分けや文字直しをこなしながら、その日を待った。

 

 結果、竜の着ぐるみを被った母が一緒に映画を観てくれたのであった。


 恐らく、母は着ぐるみの中で寝ているだろうが、高望みはしない。

 とにかく、隣にいてくれればいいのだ。







(2021.3.6)




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