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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2021.3.
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158/2529

ままならぬ




 ああ、紅白饅頭になりたい。


 落ち込んでいる時には、ずっと思う。

 紅白饅頭になりたい。


 好きだから。

 めでたいから。


 理由は多分それ。


 それと、疲れているからか。 


 そんな落ち込んでいる時の私の頭の中は、紅白饅頭でいっぱいだった。


 過去形。


 今は違うもので占められている。


 あいつだ。

 いつからだったかは忘れたけど、あいつは唐突に現れた。

 間合いを取って、私の視界の前に。

 私の顔より大きな目は、まるで獲物を定めているかのよう。


 ああ、食べたいのか。

 こんなまずそうな私を食べたいと思うほど、飢えているのか。

 それとも、こんな私だからこそ、極上に思える類なのか。

 もし食べられたとして。

 蛇みたいだから、消化にはきっと時間がかかるはず。

 丸のみされてから胃酸でゆっくり解かされるのだろう。

 苦痛は必須。

 願望も必須。


 あいつが現れて以降。

 頭に占めるのは、紅白饅頭からあいつの腹の中になってしまった。


 ああ、いやだ、いやだ。


 自由であるはずの思考の中でさえ、落ち込まなきゃならんのか。


 身体はのろのろと立ち上がって、そこら辺にほっぽっている財布を手に取って、外へと向かう。


 店員はさぞ怪訝に思っているだろう。

 もしくはこのご時世にそんなにめでたいことがあるのかと羨んでいるだろうか。

 自作自演をしていると憐れんでいるだろうか。

 こんなに何回も紅白饅頭を買って。

 同じ店を使わなければいいって?

 いやだね。

 ここがお気に入りなんだよ。






「………おめーがいなかったらこんなに頻繁に紅白饅頭を買わなくてすんでんだよ!!」


 紅白饅頭を投げてやろうと思ったけど、やっぱり惜しくなって、あいつに塩を振りかけたら、初めて触れられた。

 いや、触れられたなんてそんな生易しいものではなく、逆鱗に触れたしまったかのような雄たけびを上げての体当たりだったけど。











「あーあ。なんでこいつが落ち込んでいる時に変化するわけ?」


 ひりひりする身体に顔をしかめながらも、気絶してしまったこいつを寝台の上に寝かせては、嘆息する。

 

 悪いことをしている自覚は、ある。

 あるが。

 なんか、力になれないかなーと、思う気持ちは、捨てられないわけで。

 こいつの両親にも許可を取っているわけだし。


「でも、ちょっと、うーん、うーん」


 元気な時にでも、訊いてみようか。

 本当は、さりげなくを目指していたのだけれど。


「ままならんなあ」










(2021.3.5)




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