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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2021.2.
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156/2529

はぎれ




「今回もよろしく」


 歩くたびに、きいきいと小さな軋み音を出すオンボロ小屋の中。

 狐の仮面を顔に被った少女は、まん丸に膨らんだ風呂敷を部屋の中央に座している、灰と紅の別々の着物を二着で覆って全身を隠している翁へと放った。

 翁は手を伸ばして、風呂敷の結びを解いた。

 すれば中身は、予想に違わぬ量であった。


「一日で終わらせる。その間寝とけ」

「ん。ああ。んー」


 少女は立ったまま頭を小さく掻いて、止めとくと告げた。


「今回は金をもらえたから旅館にでも泊ってくるわ」

「そうか」

「いらないだろう?」

「ああ。俺は俺で稼いでるからな」

「お互い実入りがよくて何よりだな」


 小さく笑って、明日取りに来ると踵を返した少女の背に向かって、翁はぽつりと呟いた。






 いつから、この生業を始めたのかは、定かではない。

 要らなくなった着物や、必要でも大切なものの為に手放す着物を使って作るのは、つるし雛。

 大抵は高価な雛人形の代替として天井から吊るされる様々な形を取った人形たち。

 形にそれぞれ意味はあれど願いは一緒。

 

 幸福であれ。


 翁は依頼されては、その想いを受け取って、丹精込めて作る。

 それは、あの狐の面の少女からの依頼でも一緒。

 想いを込めて、丹精に作る。


 例えば、つるし雛を届けられたのちに、無残にも引き千切られたとしても。


 少女は置き去りにされた死人から追いはぎした着物を綺麗に洗って翁に持ってきては、つるし雛へと姿を変えさせて、届ける。

 どこに届けるのかと問えば、なんとなくとしか言わなかったので、それ以上は訊かなかったが、時折、ごめん引き千切られたと告げられることがあるので、なんとなくは、予想できた。


 同じ涙でも、愛憎の違いがあるのだろう。と。


 今回は何も言わなかったので、きっと、喜んでもらえるものだったのだろう。

 そうであればいい。

 喜んでもらえたのなら、あの子は生きていける。


 俺の後継者にならないかと、告げたことがある。

 くいっぱぐれることはないと。

 けれど、少女はやめとくと返した。


 あんたみたいには何も込められないからと。


 だから、もう勧めはしなかったが。



 いつか、少女が持ってくる着物の量が減ればいいと思い。


 いつか。

 いつか、

 いつか、少女が、少女の為に作ってくれと頼むまでは、最低、生きていようかと、思うのだ。


 









(2021.2.26)



 

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