神社の木々のざわめき
この、音は。
波しぶき、
でもなければ、
さざ波でもない。
壮大だった。
己という存在が認識不可能になるまで溶け込まされてしまいそうになるくらいに、
神聖だった。
己が身の内からケガレが綿のように浮き出ているのではと錯覚してしまうくらいに、
海波ではないと、断言できるのは。
音を聞く姿勢、だろうか。
海では、ただ、ゆるやかだった。
呼吸が、まどろんでいられた。
しかしこの音の前では、そうはいかない。
姿勢を少しでも正そうと思わせる僅かな緊張と、
歯切れのいい、歯切れがよくなる、呼吸。
深くなる手前、浅くなる手前の、絶妙な。
思わず見上げてしまうのは、音の根源。
幾年の月日が経ったのだと、思いを馳せられずにはいられない壮大な木々。
地表から飛び出る根に、
苔で覆われている幹に、
無極もの枝に葉に実に、
壮大な木が、木々が集まって、織りなすざわめき。
木々のこえなる聲。
風の助けがあって初めて、我らは認識できる。
曖昧に、
ではなく、
明確に。
「思い出した?」
「…ああ」
やわらかい。
あたたかい。
意識を取り戻した私を抱きしめていたのは、私より遥かに小さかったはずのすずめ。
わが友である。
「すまなかった」
くしゃりと、顔をゆがませるすずめに、胸が痛む。
どれだけ、
どれだけの月日、待たせたのか。
「すまなかった」
すずめはそれから一時の間、何も言わず、私を抱きしめ続けた。
私はすずめの抱擁から解かれるまでは、深く、ふかく、すまないと、言い続けた。
浅く、すずめの身体に手を添えたのであった。
(2020.1.12)




