成人の日
濃ゆい緑茶に、柔らかい梅干し。
小さな湯飲みに、小さなお皿に。
発表や受験、面接など、大事な刻を迎える朝は、きまってこの二つが出された。
気持ちが落ち着くからだったか、
気持ちが引き締まるからだったか、
目が覚めるからだったか、
理由を訊いたかどうかさえ覚えていないけれど。
この日にしか出されないような、とても濃ゆい緑茶に。
いつもと変わりない、とても酸っぱくやわらかい梅干しに。
そろった二つを前にすれば、頑張ろうという気持ちがより引き出される。
ありがとう、
普段はなかなか言えない感謝が出てくる。
小さな湯呑が一つ。
器の白が見える透明な飲み物の中には、紅の花びらが一枚浮かんでいた。
特別な日だとは認識していた。
けれど、明確な目標はなかった。
この日の為に、頑張れる事はなかった。
この日の為に、言える事は、なかったように思えた。
いいや、
伝えるべき言葉は思いついたのだけれど、どうしてか、言えず。
代わり、と言ってはなんだが。
湯呑二つに、自分が持っている湯呑を軽く合わせて。
音を、
波紋を響かせて。
グイっと一口だけ飲んで、
喉が焼けるような熱さに眉根を寄せつつ、
この日はただ、
行ってきますと、一言だけ告げて家を後にした。
さて、まだ口の中に残っている花びらはいつ飲み込もうか。
(2020.1.13)




