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第三章 35話

本日2話目、次回の投稿は6/23になります。

 竜馬がシュルス大樹海へ行く準備を整えている頃


 リフォール王国の王都にある、とある豪華な建物。

 その建物の表には『リフォール王国テイマーギルド本部』と書かれた豪華な看板がかけられており、今その中の一室では身形の良い人々が部屋から出ていく所だった。


 彼らはリフォール王国の従魔術師及び召喚術師を取りまとめるテイマーギルドの支部長であり、年に一度行われる会議に出席していた。


 そしてその中にはギムルのテイマーギルドの支部長、マシューも居り、彼に歩み寄って話しかける男が居た。


「マシュー、これから皆と飲みに行くのだが、お前も付き合え」

「これはネージル様、勿論でございます! 私の様な者にも声をかけて頂き、光栄です」


 今マシューに声をかけた男の名はゼスト・ネージル。テイマーギルドのギルドマスターの任命や人事はギルドマスターの中から選出された9名の役員の合議で決まり、ゼストはその中の1人である。テイマーギルドの中で高い発言力を持つ男であり、賄賂を受け取りマシューを今の地位に推薦した男でもある。


 そんな彼を前にしたマシューはすぐさま謙り、ゼストとゼスト率いる数名のギルドマスターと共に高級な酒場へと向かった。




 高級酒場の個室に場所を移したマシュー達は、豪華な料理と酒を飲み食いしながら各々ゼストに媚を売っていた。そして追加の酒と料理が届いたためにそれまでの話が一旦終わった時、ゼストがマシューにこう言った。


「そうだマシュー、私は少しお前と話がしたかったのだ」

「私と、でございますか?」


 ゼストの言葉に緊張と不安、そして将来への期待が混ざった感情がマシューを困惑させる。


「最近よく耳にするのだが、お前の所のギルドには腕の良い従魔術師が居るそうじゃないか」

「それは勿論、下の者の指導には目を光らせておりますので」


 腕の良い従魔術師と言われ、マシューは自信を持ってそう答えた。ギムルには鉱山で荷物の運搬が出来る力強い魔獣を使役する従魔術師が多く、マシューの基準で優秀な者とは強い魔獣を使役している事なので自分のギルドには優秀な者が多いとはマシュー自身も思っている。


「結構結構。しかし聞いた所によると、その従魔術師はスライムで金儲けをしているそうじゃないか。それも随分儲けているらしいな? どうやって利益を出しているのか聞かせて貰えないか? 我が支部の者にも見習わせてやりたい」


 従魔がスライムという言葉で、マシューの頭の中には自らが蛇蝎の如く嫌っている少年従魔術師の事が思い浮かぶ。


(優秀な従魔術師と言うから誰の事かと思えば、あのスライムしかテイム出来ない小僧だと!? それもゼスト様の耳に届くなど……腹立たしいが、これは拙い……)


「どうした? その従魔術師はどうやって、スライムで利益を出しているんだ?」


 マシューは答えに詰まるが、答える。


「彼の事ですか。彼は何やらスライムに衣服の汚れを食べさせて洗濯屋なる店を経営しております」

「そんな事が出来る訳がない。汚れは溶けるだろうが、同時に衣服まで溶かしてしまうぞ」


 マシューの言葉に傍で酒を飲みながら話を聞いていたギルドマスターの1人がそう言った。


「確かに通常ならばそうなるのが関の山ですが、彼のスライムには可能なようで……」

「どうやっているのか分からないのか?」

「調教方法はどうなっているんだ?」

「下の者には目を光らせているのではなかったか?」


 口々にマシューへの追求が始まり、マシューの額に汗が滲む。そこでゼストの声がその場を収める。


「まぁ待て、皆で一斉に問い詰めてはマシューも喋る事が出来ないだろう。マシュー、少しずつで良いので話を聞かせて貰いたい。良いな?」

「は、はい!」


 ゼスト達はスライムで利益を出す方法を欲しており、それを聞き出すためにマシューをここに呼んだのだ。


 ここで誤魔化す事は出来ないと悟ったマシューは竜馬の洗濯屋について、知っている事を話し始めた。自分の都合の良い様に事実を歪めながら……


「実は彼の持つスライムは新種のようで、衣服を溶かさずに汚れを食べる事が出来るという特性を持っているそうです」

「スライムの特性、か……」

「調教の成果では無いのか」

「なら何処でそのスライムは捕獲されたのですか?」

「それよりも何故に伝聞系で話すのです?」


 マシューに集まっていた部屋中の人間の視線が強まる。


「実は、そのスライムを使役する従魔術師はまだ子供で……更に少々問題児でもありまして、手を焼いているのです」

「……続けろ」

「はい。その少年はスライムしかテイム出来ない様で、ギルドに登録はしたものの一度たりとも仕事をした事は無く、発見者の権利を盾にスライムの情報は一切明かさず独占し、洗濯屋で金を稼ぎ遊び呆けています。


 私共は何度も彼に生活を改めて貰い良き従魔術師になれる様に指導が出来る人材ゴロツキを送り込みましたが、私共の言葉と心は彼に届かず……儲けた金で雇い入れた護衛に追い返されてしまう始末でして……」

「ギムルのギルドでは子供の躾一つまともに出来ないのか?」

「熱意や誠意が足りないのではないか?」


 口々にマシューを非難する言葉がかかるが、ゼストが再びそれを止める。


「待て」


 その言葉で視線がゼストに集まり、言葉を待つ。


「……事情は分かった。世間には様々な輩が居る。中にはどれほど骨を折り相手のためを思ってやっても無視し、言葉を聞き入れぬ輩も多い。その少年はそういう輩なのだろう。しかしギルドマスターという立場上無視も出来ない……マシュー、災難だったな」

「勿体無いお言葉で……」


 ゼストがそう言うとマシューを非難していた者達の言葉が出なくなる。しかし予想外にあっさりとゼストが追求を止めた事にマシューの緊張は解けない。




 ゼストという男を一言で表すならば、守銭奴である。賄賂を送ってくる者には様々な便宜を図るが金にならない事はしない、そういう男だ。


 ゼストは魔獣の種類や従魔術師が優秀かどうかなど始めからどうでも良く、金を儲けられる方法が知りたかった。目的は金だが、それゆえにゼストはスライムの価値を見直し始めていた数少ないテイマーギルドの人間でもあった。


 その金への執着はマシューや周りに居る者もよく知っている、なぜなら彼らはそのおかげで甘い汁を吸いやすくなっているのだから。そんな男が簡単に金のなる木の情報を諦める訳はない。そう考えたゼスト以外、特にマシューは次にどんな言葉が出てくるかと気が気ではない。


 しかし、次に出たゼストの言葉は今までの話とは全く違う事だった。


「時にマシュー。今ギムルでは新しい街作りが行われていると聞いたが、忙しかろう」

「え、ええ。それはもう、常に荷運び用の魔獣を使役している人手を出せとせっつかれております。しかし鉱山の方にも人手が必要ですので他所から流れて来た者に仕事を与えていますが、余裕はありません」


 急に話が変わった事を訝しみながらも、マシューは聞かれたことに答えた。そしてそれを聞いてやはりそうかと頷いたゼストはこう言った。


「だろうな。ここは一つ私の支部から人をやろう。支部に戻ったらすぐにギムルに行くよう指示する。受け入れを頼むぞ」

「は……人手を貸して頂けるのはありがたいのですが、どんな者で?」

「我が支部の中でも上位の実力を持つ、ハーケン三兄弟だ。噂は知っているだろう?」


 それを聞いたマシューは勿論、他の連中も驚く。


 ハーケン三兄弟はその名の通り3人の召喚術師で、彼らは実の兄弟である。3人はCランクの魔獣を多数、そして長男が更にBランクを1匹操る事が出来、一度だけだがAランクの魔獣の討伐経験まである。


 しかしこの3人、優秀な召喚術師であると同時にかなりの問題児であり、素行は良いとは言えない。更に向上心があるのは良いが、使役が難しい上のランクや相性の悪さに関わらず好みの魔獣と契約を試み、度々魔獣を暴走させるのだ。一応の安全策はとってあり、周囲に被害を出した事は殆どなく、僅かに出た被害も殆どが彼ら自身の怪我か物のみ。


 一般市民等に被害は出ておらず、彼らの実績と自分の部下が不祥事を起こしたと騒がれるのを嫌ったゼストの権力によりもみ消され、注意のみで見逃されているが厄介極まりない男たちだ。


「そんな!」

「何だ、不満なのか?」


 今少しでも人手が手に入るのはマシューにとってもありがたいが、それはまともな人材ならの話だ。マシューは態々厄介者を抱え込みたい等とは思っていない。しかし、マシューを今の地位に就け、そして今でも人事に口を出す権限を持つゼストにマシューは真っ向から逆らう事など出来なかった。


「い、いえ、不満などとは……しかし、彼らほど優秀な人材を荷運びごときに使うのは勿体無いと……」

「彼らは少々やる気に満ち溢れすぎていたのでな、優秀かつ向上心あふれる若者に休みを与えてやりたかった所だ。荷運びの仕事程度なら奴らには丁度良い息抜きになるだろう。それから一つ勘違いをしているようだ。私は彼らを貸すと言ったのではなく、やろう・・・と言ったのだ」


 それからゼストはマシュー以外の連中を見渡し、こう言う。


「他の皆も余裕があれば、マシューの所に人をやりたまえ。こういう時は助け合わねばな」


 すると周囲の連中から次々とギムルに人手を送ると言い出す者が出てくる。しかも出てくる名前の中には素行不良や腕が悪い問題児として有名な者が時折出てくる。マシューは今日この場で、大勢の問題児を押し付けられてしまったのだ。




 そして酒場でのやり取りが終わってお開きになった時、全員分の酒と料理の金を払ったゼストは帰る前にマシューの肩を叩いて掴み、こう言った。


「それではマシュー、これからも頑張る様に。まだ・・、お前には期待している。……だが、暫くはお前も我々が送る者達と共に休みを取ると良い。ここの所、随分と仕事に奔走していると聞いている」


 そう言って去っていくゼストとその他のギルドマスター達。その場に取り残されたマシューは黙って宿に戻ると部屋に篭もり、頭を抱えた。


「まずい……拙い拙い拙い! まだ完全に見放された訳では無いだろうが、次に何かあれば……いかん、ゼスト様への賄賂を増やさねば! 金を渡さなければそれこそ見放される! そちらは金で何とかするとして……あの連中、問題児ばかりを押し付けて、問題を起こされたら万一の場合に責任を取るのは私じゃないか……クソッ!! 少なくとも当分は大人しくさせて……」


 マシューはただ一人でこの状況を打破する策を考え始め、この日は一睡も出来ずに過ごす事になるのであった……


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