↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/176

第三章 34話

2014/6/19の投稿です。本日は2話連続投稿します。

 あの後すぐに時間が来て、俺は礼拝堂から出て街を歩く。とりあえず、魔王の影響についてはガイン達の指示通りにするしか無いので、遺産回収……いや、その前に店の事とかの確認、常闇草を使った虫除け作りをしなきゃな。


 …………正直、不安は拭い去りきれないが、魔王に対する不安や恐怖といった負の感情が悪影響を及ぼしやすくするそうなので、出来る限り気を紛らわせる様にしなければならない。


 ガイン達も全て取り除けたと言って安心させ、何かと理由をつけて俺を呼び治療をしようかと悩んでくれたらしいが、俺を信じて話してくれた。なら、俺もガイン達が悪影響を取り除いてくれる事を信じて俺のやるべき事に集中しよう。




 そう心に決めた俺は、今回の旅で……と言うよりシーバさんとの試合で破損した鎧の修理を頼みに、ディガー武具店を訪ねる事にした。


「すみませーん」


 店内に入り、人が居なかったので奥に向かって声をかけると、奥から店主のダルソンさんが出てきた。


「おう、無事に帰って来やがったか」

「はい、おかげさまで」

「鎧になにか問題があったか? サイズ調整はこの間したばかりだと思ったが」

「今日は修理のお願いに来ました」

「修理? ヘマやったのかよ」


 俺が修理を頼むとそんなことを言い出すダルソンさん。


「魔獣相手には何の問題もありませんでした。でも道中知り合った方と腕試しの試合をしまして」

「腕利きとやりあったか」

「はい。今回の旅では僕もまだまだ未熟だと思い知らされましたよ」

「相変わらず子供らしくない奴だな、お前は。まあいい、鎧を見せろ」


 そう言われたので俺が鎧を取り出すと、ダルソンさんは興味深そうに鎧を見てこう呟く。


「ほう……随分腕の良い奴だったんだな。相手の獲物は槍か何かその辺の武器だろう。そんでそいつは魔法も使うか」

「わかりますか?」

「この商売を長くやってりゃ、ある程度は傷で判断できる。にしても、見事にやられたな……ハードリザードの皮をここまで綺麗に貫く奴は中々居ねぇぞ。相手は有名な奴か?」

「シーバー・ガルダックという人です。有名でしょうね」


 なんてったって元騎士団長だし。そう思っていたらダルソンさんは鎧に向けていた視線をはね上げて俺を見た。


「先代の騎士団長じゃねぇか!? 何でそんな大物とやり合ってんだよ!?」

「たまたま旅の目的地が同じでして、成り行きで」

「はー……まぁ、騎士団長が相手なら納得だ。で、どうすんだ? 修理は出来なくもないが、新しく買った方が安いな」


 お金の問題なら気にしなくて良いな。


「修理でお願いします。1年ですが、使い続けて愛着もあるので」

「分かった」

「あと、前に頼んだ物はどんな感じでしょうか?」

「そうだった! お前が街を出た直後に完成したぜ、今持ってくる」


 そう言ってダルソンさんは店の奥に入っていった。


 前に頼んだ物と言うのは俺が特注した防具の事で、3ヶ月程前に強度の高いスティッキースライムの糸で布を織り、服を作れば防具にならないだろうかと思いついて注文を出したんだ。


 しばらく待っているとダルソンさんが少し大きめの木箱を持って戻ってきた。その中には薄い緑色のシャツ、ズボン、マントといった服が2枚ずつ入っている。


「こいつが完成品だ。製作は懇意にしてる防具職人に頼んだが、出来は俺も確かめてある。自信を持って引き渡せるぜ」


 そう言いながらダルソンさんが箱の中から1枚の布切れとナイフを1本取り出す。


「見てろ」


 ダルソンさんはそのナイフで布切れを切ろうとするが、何度切りつけても突き刺しても傷が付くだけで、破けたり大きく切り裂かれる事は無かった。


「こいつはお前の持ち込んだ糸で織った布を2枚重ねた物だ。その箱の中の服も全部この布で出来ている。中々布が切れなくて加工に手間がかかったが、その分出来は良い。


 外見も着心地もただの服。鎧の下に着るインナーだが、実質チェインメイルに近いな。ただのインナーとして考えれば破格の防御力だ」


 その中の一着を手にとってみる。


「内側は絹ですか?」

「その布は強度があって肌触りも悪くないが、代わりに吸水性・吸湿性は皆無だった。その点を考慮して内側には絹を使ったそうだ」

「なるほど、ありがとうございます。これがあれば藪の中でも問題ありませんね」

「藪どころか、そこらの狼の牙やゴブリンの持ってる刃物位なら問題ねぇさ」

「鎧の修理と合わせて値段はいくらでしょう?」

「そうだな…………小金貨13枚だ」


 オーダーメイドなのに意外と安いな。


「良いんですか? 鎧の修理も合わせてそれで」

「そっちの服は布を切るのに手間取っただけで、特別な加工はしてないからな。仕事を請け負った防具職人も珍しい素材で仕事が出来て喜んでいた。小金貨13枚で十分だ」

「そうですか。ありがとうございます」


 俺はアイテムボックスからお金の入った袋を出して小金貨13枚を支払い、服を受け取って街に出た。


 さて、次はうちの店に行こう。




 店に向かうと、人が絶え間なくやって来ては帰っていくのが目に入る。相変わらず繁盛している様でなによりだ。


「こんにちはー」

「あっ、店長~こんにちは~」

「こんにちは、店長」

「お帰りなさいませ」


 俺が店の従業員用入口から店内に入り従業員の休憩所に行くと、マリアさんフィーナさんカルムさんが居た。3人は俺がここに居る事に少し驚いてるようだ。


 俺は毎回、出発前に旅の予定を店の方に伝えている。それは今回も同じで、本来ならあと1ヶ月は帰らない予定だった。3人が驚いているのは俺が大分早く帰って来たからだろう。


「帰りの日程を大分縮める事が出来まして、早く帰って来れました。1ヶ月以上留守にしましたけど、何か問題ありませんでしたか?」


 俺がそう言うと店には特に問題は無かったとの答えが帰ってきた。しかし、3人には何か気になる事があるようだ。


「実は、最近シェルマさんの元気が無いんですよ~……」

「シェルマさんの? 体調が悪いとかでしょうか?」

「体調はおそらく大丈夫と思います。いつもどおり美味しいご飯を作ってくれますし、朝は元気ですし。ただお仕事が終わってからとか、休みの日になるとどこか元気が無くなるんです」


 ……何か悩みでもあるのだろうか? あまり悩み相談とかは得意じゃないが、仕事で悩みがあるなら俺でも力になれるかもしれないし……


「ちょっと話を聞いてみましょうか」

「ホントですか?」

「力になれるかは分かりませんが、仕事に関する事なら何か出来るかもしれませんし、たまには店長らしい事もしませんと」


 そう言って俺は休憩室から出て、シェルマさんの仕事場である厨房へ行く。


 気配を消してこっそり厨房の中を覗いてみると、スープを混ぜながら何だか考え事にふけっているシェルマさんが立っていた。


「こんにちは、シェルマさん」

「えっ!? あらあら、店長さん、お帰りなさい」

「ただいま戻りました。所で、どうかされました? 元気が無かった様子ですが……」

「いえいえ、そんな事無いんですよ。ただこの前送られてきた手紙を読んだらいろいろ思い出してしまって」


 シェルマさんの悩みにどこまで踏み込んで良い物かと思っていたら、自分から話してくれた。


 どうもシェルマさんの昔の職場だった宿屋の店主から商業ギルドを通じて手紙が送られてきて、その手紙を読んでから昔を思い出し易くなっていたらしい。


 今より料理を作る時間も量も多かったので大変な仕事だったが、大勢の人に料理を食べて貰い、美味しいと言って貰えるのは嬉しかったと話すシェルマさんの表情は良い笑顔だった。


「なるほど……とりあえず、病気とかじゃなくて良かったです」


 これは俺にはどうしようも無いな。昔の職場を思い出すのをやめろとは言えないし、言った所でなんの意味もない。


 俺もこの世界に来たからって前世の事を忘れた訳では無いし、何かの拍子に思い出す事もある。それと同じだ。仕事で手を抜いたりはしてないんだし、俺から言うことは何も無い。


「ご心配お掛けしました」

「別に謝るような事ではないですよ。それに、それはマリアさん達に言ってあげて下さい。シェルマさんの元気がないって心配してましたから」

「まぁ、そうだったんですか? ふふっ……店長さん、御手数ですが今の話を皆さんに教えてあげて貰えます?」


 俺が?


「僕がですか?」

「私は、もう一品作ろうと思います。今からでも急げば簡単なデザートならお昼に間に合うと思いますから。皆のために頑張らないと」


 そう言って先ほどと同じ良い笑顔になるシェルマさん。


 なるほど、シェルマさんは言葉より行動で示すタイプか。


「分かりました、それでは頑張って下さい」


 俺はそう言って厨房を出て休憩室に戻り、シェルマさんから聞いた事を話す。


「そういう事でしたか」

「何かに困ってるわけではなかったんですね」

「良かったです~」


 本当に良かった。それに従業員同士の関係が悪く無い事もよく分かった。


 従業員同士の関係が悪ければ、もしくは普段悪くなくとも互いの事を考える余裕が無くなると些細なミスが増え、諍いも起こりやすくなる。


 更にその状態が続くと従業員にストレスが溜まりやすく大きなミスや従業員の不満、そして肉体的、精神的な病にも繋がる。


 ギスギスした職場よりはアットホームな職場の方が働く人のメンタル的にも仕事の能率的にも良いと言うある意味当たり前の話だが、職場の雰囲気は状況によって幾らでも変わる。


 何よりこの世界は機械技術なんかも前世と比べて発達していない。という事は労働力≒人の力だ。そして環境やモチベーションは人の作業効率にも大きく影響するのだから、ただ高い給料を払っていれば良いと言う訳では無いんだ。


 その点、うちの店は今の所大丈夫そうだな。この状態を維持していきたい。


 そのためにカルムさん達責任者陣には骨を折って貰おう。もちろん俺も出来る事はする。主に福利厚生の面で色々と考よう。ぱっと思いつくのはボーナス、有給、夏休み……こんな所かな? この世界の常識に合わせて調整は必要だけど。




 ここで1つ気づいた。そう言えばフィーナさん達って出稼ぎに来てるんだよな? なのに、丸1年出身の村に帰ってない。良いのか?


 ちょうどいいから聞いてみるか。休みを取って一時帰省したいと言うなら、俺が遺産を回収した後なら代わりに働けるし。有給扱いで道中の旅費ぐらいは出しても良いかな。


「そうだフィーナさん、マリアさん、ちょっと聞いても良いですか?」


「何でしょう?」

「何でも聞いて下さい~」

「えっと、お2人とジェーンさんは同じ村から出稼ぎに来たんですよね? 村に帰る予定とかあります?」


 俺がそう聞くと2人は顔を見合わせて急に慌てだし、神妙な表情で答えを返し、そして質問してきた。


「今の所、ありません……」

「私もマリアも、ジェーンもです。……店長、もしかして私達、クビですか?」


 えっ!? そう受け取った!?


「違います、全然違いますよ。出稼ぎなのにお金を持って帰らないのかとか、家族に顔を見せに行かなくて良いのかと聞きたかっただけですから」


 俺が即座に否定すると2人は安心したようだ。そしてなんでそんな誤解が生まれたのかをカルムさんに教えて貰った。


 まずこの世界には一応手紙や郵便という連絡手段があるので、出稼ぎに行った人は手紙で家族と連絡を取り合い、多少の手数料は取られるが商業ギルドに依頼すれば仕送りのお金を送る事が出来る。


 そして家族が危篤、または葬儀に出るという理由を除くと出稼ぎが終わるまでは一度も帰らないのが普通らしいので、誰か帰る予定は無いか? という質問は、誰か辞めても良い奴居ない? という受け取られ方をするらしい。


「驚かせて申し訳ないです。皆さんをクビにする気はないので安心して下さい。むしろこれからも働いて欲しいからこそ、年に一度くらい休みを取って里帰りの機会を作った方が良いのではないかと思ったんです」


 俺がそう言うと納得してくれたようだ。しかし帰省のために長期の休みを用意したり、その道中にかかる旅費を出すというのにはまた驚かれたが、仕事を失わずに家族に顔を見せられるのはやはり喜ばれた。クビになるまで帰らないのが当たり前でも、家族に会いに帰りたいとは思っていたんだろう。




 今日は俺も一緒に昼食を頂いて、午後はカルムさんと有給やボーナスという概念を伝えて導入について話し合った。


 その結果、従業員は年に一度申告すれば纏まった休みが取れ、それを帰省に使うことが出来る。帰省のための費用は“素泊まりで宿に泊まれる最低額×旅程にかかる日数分”を出し従業員の負担を減らして帰省しやすくする事になった。




 続けて店の詳細な状況を聞いた。


 他の店も問題は無く営業しているが、どうも店を訪れる冒険者の方々から他の街にも支店を出してくれと度々言われているらしく、それに伴ってコーキンさん達の昔の職場である国内の魔獣研究所からスライムの研究者を引き抜いてくる計画が提案されているそうだ。


 スライムの研究者は冷遇され機密情報等も特に無いので引き抜きに問題はない。


 更に情報の伝達が遅いせいか支店が無い街の人にはうちの店の事を知らない人も多い様で、うちの店を知っていてもスライムの有用性はまだあまり知られておらず、少しは使えるスライムも居るんだ、程度の認識をしている人が多いらしい。スライムは弱くて役たたずといったイメージはなかなか根深いようだ。


 だが、逆に言えばスライムと研究者がまだ冷遇されている今が引き抜きのチャンスでもある。そして引き抜きで得た人員を使って支店を増やす算段をつけると同時に希望する従業員に従魔術を教え、新しい従魔術師を養成する事も視野に入れたいそうだ。


 反対する理由もないので、各支店の受け入れ態勢が整ったら、と前置きして引き抜きに許可を出した。




「……そろそろ閉店時間ですね」


 カルムさんにそう言われて気づいたが、俺達は随分と長い間店の事や福利厚生について話していた様だ。


 店の閉店と閉店後の仕事を済ませ、俺はもう一仕事するために店を出て商業ギルドに向かう。


 その仕事とは店の収益を商業ギルドの口座に預けること。


 商業ギルドは銀行や両替商の役割も果たしており、商人個人や店の名義で口座を作る事が出来る。


 俺の店も口座を作ってあるので、カルムさんがフェイさんやリーリンさんの護衛の下、最低でも週に三度はお金を預けに行っている。


 店に置いてあるお金は釣り銭に使う分の銅貨と従業員の給料、それに店で使う雑貨を仕入れる経費が地下の金庫に保管してあるだけだ。


 いつもは銅貨をたっぷり詰めた重い袋を担いで行かざるを得ないらしいが、俺がいる時はアイテムボックスに入れて持って行けるので楽で早い、そして何より万が一にも落としたり奪われる心配が無いので俺が運ぶのが一番安全なんだ。


「毎回思うが、現金輸送車の警備員になった気分だな……落とす心配は無いけど、さっさと預けてしまおう……」


 俺はそう呟いて、足を早める。そして商業ギルドでお金を預け、1ヶ月ぶりの家へと帰る。


 廃坑内に魔獣が住み着かない様に廃坑の全ての入口を鉄板と岩で作った壁で固めてあるので、帰ってすぐには休めないのが難点だなぁ……


 旅から帰ると毎回思う事を今回も思い出し、俺は家へと帰っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。