第三章 33話
2014/6/16の投稿です。次回は6/19になります。
2日後
「皆さんありがとうございました!」
「達者でな」
「体に気をつけるんじゃぞ」
「旅の無事をお祈りしていますよ」
「また会いましょうね~」
ラインバッハ様の召喚したドラゴンに乗せて貰い、行きは1ヶ月かかった道のりをたった2日でギムルの近くまで帰って来た俺は、ラインバッハ様達に礼と別れの挨拶をし、ギムルに戻った。
この2日でみっちり魔法を教えてもらったし、得た物の多い旅だった。
そしてギムルの門を潜った俺がまず初めに向かうのはギルドでも自分の店でもなく、教会だった。
実はこの2日間、どうも何かがおかしく感じている。何が、とは言えないんだが……考え事をする時間が増え、代わりに睡眠時間がかなり減った。考える内容は大半が俺の強さや戦い方についてで、例の魔宝石を使ってみようと思い立ち、そしてまた躊躇ってやめる。その繰り返しなんだ。
また呪いにかかったのかと思ったが、ディスペルやリターン・カースを使っても変化が無いし……単に一度呪いにかかったせいで過剰にあの魔宝石を避けているだけかもしれないけど、どうにも気持ちが悪い。
だからこのまま気にし続ける位ならいっそガイン達に相談してみようと思ったので、俺は教会に向かう。
おっと、その前に鎧と武器だけはディメンションホームの中にしまおう。教会にはあまりそぐわない格好だ。
教会の門の前にはいつも修道女のリエラさんかベルさんが立っている。今まで俺は子供たちの訓練相手として、そして個人的な礼拝で何度も来て勝手を知っていたので、挨拶をしてすぐに礼拝堂に向かう。
礼拝堂の中には数人が先に祈っており、邪魔をしないよう静かに入り、隅の方の椅子に座って祈る。
既にお馴染みとなった光に包まれ神界へと意識が飛ばされる。そして、目の前にはガイン、クフォ、ルルティアの3神が居た。
神界に俺が来るのはもはや驚くような事でも無くなっていたが、今日の3神は普段と雰囲気が違う。
いつもは穏やかな笑顔で俺を迎えてくれる3神は今、訝しげな表情と困惑した表情で俺を見ている。
俺が何かやらかしたのかもしれないが、向こうは何も話しかけてこない。このままではただ時間が過ぎるだけだ。
そう思った俺は口を開く。
「ガイン、クフォ、ルルティア、来ていきなりだが聞いて欲しい事があるんだ」
「え、ええ……いいけど、私達も聞きたいことがあるわ」
「リョウマ君、何か変な事してない? いつもとかなり様子が違うんだけど」
クフォの何時もと違うという言葉には心当たりが無かったが、変な事には心当たりがあった。
「多分、俺が話したい事がその変な事だ」
「ならば、まずは竜馬君の話から聞こう」
ガインがそう言って話を促したので、俺は事情を話してからアイテムボックスから例の石で厳重に固められた魔宝石を取り出す。
ガイン達は話を聞きながら考えを巡らせていたが、その魔宝石を見て表情を険しくした。
「竜馬君、それをこちらに渡すのじゃ」
今まで聞いた事のないガインの重い声色に緊張しながら魔宝石を差し出す。そしてガインが手を振ると魔宝石が浮いてガインの手元に飛んで行き、俺から距離を取って魔宝石の周りを3神が取り囲む。
「悪いけど、ちょっと待っててね」
ルルティアはやわらかい声色でそう言ったが、あまり俺の方に構っている余裕は無さそうだ。俺は何も聞かずにただその場で静かにしている事しか出来なかった。
そして3神が魔宝石の周囲の石のコーティングを崩れさせ、魔宝石を露出させる。それからさらに表情を険しくした3神が手のひらを魔宝石に向ける。するとその手から光が出て魔宝石が包まれていき、最終的に大きな光の玉となった。
俺には何をしているのか分からなかったが、光の玉にした時点で3神が一息ついたので何か大変な作業が一段落したのだろうと予想をつけた。
その予想は正しかったようで、3神はいくつかの言葉を交わし、クフォとルルティアが光の玉と共にその場から消えた。
1人残ったガインは俺に向き直って険しい顔から一転困った顔になり、俺を真剣な目で見据えてこう言った。
「リョウマ君、お手柄じゃ。よくあれを我々の下に持ってきてくれた」
その言葉に俺は困惑する。俺はただ異常を感じた魔宝石について、この世界で最も知識があるであろう相手に話を聞きに来ただけで、礼を言われる様な事になるとは思っていなかった。そしてこの状況で神に礼を言われるという事は、件の魔宝石がそれ程に危険な代物であったと言う事が容易に予想でき、自分がそんな物を持っていた事に冷や汗が流れる。
「あれ、一体何だったんだ?」
つい口から出たその質問に言い淀むガインだったが、しばしの逡巡の後、口を開いた。
「一言で言うならば……」
「一言で言うならば?」
「神じゃ」
そのガインの言葉に、俺は驚くことも忘れて硬直した。
は? 今なんて言った? 神?
「言っておくが、紙でも髪でも無いぞ。我々と同じ、神じゃ」
マジで!?
「え、何で神様が魔宝石になって迷宮に埋まってんの?」
俺の口からまたしてもつい言葉が出た。
「それを説明すると少し長くなるが……」
それから俺はガインから説明を受けた。
まず俺が持って来た魔宝石はかつてこの世界を襲った魔王でもある事が判明。
そもそも神と魔王は元々同じ存在で、神のルールを破って他の神の世界を破壊もしくは奪おうとする神の事を区別して魔神か魔王と呼ぶ。人間で言うと罪を犯した者が犯罪者と呼ばれるのと同じらしい。
そして件の魔王はかつて今のこの世界より文明の発展した世界を管理していた神だったが、発展し過ぎた文明で起こった戦争により世界が取り返しのつかない程大きな被害を受けて滅びてしまい、自分の世界を失った。神と世界は2つで1つの存在だそうで、管理する世界を失った神は新しい世界が無ければ次第に存在を維持できなくなり消滅してしまうらしい。
それを避けるために自分の世界を失った場合、普通の神は自分の力を使い新しい世界を産み出してその世界の神となる。だが、そのためには神の力を非常に多く使う。世界を新しく産み出せるだけの力を使えば、それまで持っていた力の殆どを失ってしまう程に。
普通の神は数十億年もかけて世界を発展させていけば元通りの力をまた得られるので我慢して世界を生み出すが、稀に件の魔王の様にそれを嫌って他の神の世界を奪うという手に出る神が居るそうだ。
「なるほど。事情は分かったけど、この世界に来るときに魔王は倒したって言ってなかったか? こっちの世界に来る時にそんな話を聞いた気がするんだが」
「儂らが下界には滅多に干渉しないという話じゃな? 確かにあの時は儂らが総出で魔王を撃退したが、倒したのではなく追い払ったんじゃ。さっきも話したが、あの魔王は元々この世界より発展した世界の神。世界が発展するほど神の力も強くなるので、あの神は我々よりも格上の神だったんじゃよ。世界を失い弱っておったが、それでも追い払うので精一杯じゃった」
そうだったのか……
「なら、その魔王がまたこの世界を襲いに来たのか?」
「いや、あれはタチの悪い置き土産じゃよ。厳密に言えば魔王の欠片とでも言った方が良いのぅ。追い払われる前に自身の力と意思の一部にあえて封印を施して我々に見つからぬ様に隠した上で、昔から魔力が溜まり易かったあの場所に封じ込めたんじゃろう。それが時を経てあの場に出来た黒水晶に宿り、魔宝石になったようじゃな。
中に魔王の力と意思が混ざっておったが、闇属性の魔宝石なのは変わらん。じゃから我々も見逃しておった。竜馬君が居なかったら魔力を溜め込み続け、数万年後には何らかの強力な魔獣が生まれておったじゃろう。最悪の場合は魔王そのものが生まれていた可能性も無くは無いのぅ」
数万年後って、気の長い話だな……とにかく放置して良い物では無かった事は分かった。それよりも気になるのは……
「あの魔宝石と一緒に発掘された魔石を持ってる人達も居るんだが、そっちは大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃ。先程クフォとルルティアと共に調べたが、彼らが持っている魔石はただの魔石じゃよ。魔王の欠片が力を溜め込むために集めた魔力が固まっただけの物じゃ」
「そうか、良かった……」
「それよりも、問題は竜馬君の方じゃよ」
俺? 何かあるのか?
「腐っても魔王の欠片、それを持っていた竜馬君は悪影響を受けておる。他の4人の分までな」
「え!? それ大丈夫なのか!?」
驚いて体を確かめつつ、ついそう叫んでしまう。
「それほど深刻な物ではないので安心しなさい。あの魔宝石を欲しいと思ったじゃろ? そして持っている間は使いたいと思っていた。違うかの?」
いや、その通りだ。あの魔宝石を見つける前は何故かそこに何かがあると確信して、何かに導かれるように地面を掘って、見つけたらすぐに手に取ろうとした。あの時の変な悪寒が無ければ間違い無くすぐに回収していただろうし、あれを使って闇魔法の実験もしていたと思う。
「ある……あれ、やっぱり良くない物なのか?」
「うむ。魔王の力の一部じゃよ。どうやら魔力を溜め込み何らかの方法で活動が始まる前に何者かがあの魔宝石を発見した場合、呪いにより発見者の精神を操作してあの魔宝石を所持し続けさせ、徐々に精神を侵す様に仕向けてあった様じゃ。あの魔宝石を使うと更に精神汚染が進行しやすくなる。
竜馬君の場合は高い精神的苦痛耐性スキルと先日習得した魅了耐性スキルに加え、土魔法やアイテムボックスを使い隔離する等して出来る限り接触を控えた事で影響は少なくて済んでおるが、我々は竜馬君がここに来た時から確かな異常を感じておった。
レミリーという魔法使いに解呪して貰い、自分でも何度か試したようじゃが、一時的に状態を安定させる事だけで原因となっている神の力を取り除く事が出来ておらん。よって、根本的な解決になっておらんのじゃよ」
「…………」
何それ怖い。今の言葉でまた冷や汗が止まらなくなった。俺、ヤバいのかな?
そう思っていたらガインから安心するようにと言われ、どこからともなくお茶を出された。そして話を聞くと、俺が受けた悪影響は厄介だが神の力でなら取り除けるらしい。神としても放置は出来る問題ではないので処置をしてくれるそうだ。
ちなみに俺があの魔宝石を見つけた時に悪寒を感じたのはクフォの加護のおかげらしい。
生命神の加護には生きるために、本能的に危険を察知する事が出来る様になる効果があるそうだ。尤も危険の察知は加護を与える際に付くおまけのような物で、加護を受ける側の最も低い危機察知能力を少し補う程度らしい。
例えば空腹時に目の前に食べ物があればすぐ食べてしまう様な人には本能的に食べたら拙い物を何となく感じ取れる程度の能力が身につき、迂闊に危険な場所に踏み込む様な人には危ない方向に行く時に何となく嫌な感じがする程度の能力が身につく。
俺の場合は対人関係らしく、人か一定以上の知性を持つ相手が自分に害意を持っていると相手に嫌な感じを覚えるらしい。それを聞いて俺はマシューとか名前忘れたけどなんとかの牙って集団のボスから嫌な感じがしたのを思い出した。前世の上司に似ていたからだと思ってたら、加護の効果も少しあったようだ。
今回魔王の欠片に悪寒を感じたのは魔王の害意を感じ取ったからだそうで、それがなかったらもっと危なかったかもしれない。
「しかしお主、やたら運が悪いのぅ……儂の加護と力で運はそこそこ良くしたつもりだったんじゃが……」
「そうか? この世界に来てからはそんなに悪くもないと思うが」
「普通は隠されておる魔王の欠片を見つけて魔王に目を付けられたりはせんわ。これ以上の不運は中々無いじゃろう」
俺の言葉はバッサリと切り捨てられ、その後俺は悪影響を取り除く処置のために一時的に意識を失う事になった。手術のための麻酔みたいな物だそうだ。
「それでは行くぞ。気を楽にするんじゃ」
俺はガインが出したベンチの上で横になり、力を抜く。すると段々と思考に霧がかかったようになり、意識が遠くなっていく。
どれだけ時間が経ったか分からないが……目を覚ますと、ガインの顔が目に入る。
「起きたかの?」
「ああ……終わったのか、って……」
微妙に頭が朦朧としているが、体を起こすとそこに居たのはガインだけではなく、クフォとルルティアに加え先程まで居なかったテクンまで居た。
「テクン、何でここに?」
「ガインが余裕を持って処置出来るように、お前がここに居られる時間を伸ばすために呼ばれたんだよ」
ああ! そうか時間制限があったんだ。
「なるほど、ありがとう」
「気にすんなや、ほれ飲め」
そう言ってテクンが酒の入った器を渡してきた。テクンに会うと、毎回、とりあえず酒が出てくるんだよな……
「飲めって、今か?」
「いいからグッといけ」
受け取ってとりあえず一口飲むと、飲んだ瞬間体が熱くなる様な感覚がして、その直後スッキリとした爽快感があった。
「何だこれ?」
「今のは薬酒だ、気付けと精神安定の効果があるぜ。寝覚めのお前にゃぴったりの酒だろ?」
「ああ、そういう酒だったのか。確かに目は覚めた気がする」
「では、目が覚めたところで説明に入ろう」
ここでガインが話に加わってきた。
「まず1つ言って置かなければならん事がある。悪影響を今すぐに全ては取り除く事は出来なかった」
え!? それじゃ、俺はどうなるんだ?
「ダメだったのか?」
「“今すぐ”に、“全て”は取り除けなかっただけじゃよ。悪影響を取り除くだけなら可能じゃったが、一気に取り除くと魂に負担がかかりそうじゃったから止めておいたんじゃよ。
全て取り除く代わりに影響を抑える処置を行った。時間をかけて今日と同じ処置を続ければ問題なく取り除けるぞぃ」
「人間で言う所の通院って形になるかしら? 魂にかかる負担を減らすために一度処置をしたら少し時間を空けて、また処置っていう風に処置していけば大丈夫よ」
何だ、そういう事か……なら、ひとまず安心か?
「最近コルミ村に行くために頑張ってるみたいだけど、もう準備は殆ど終わったでしょ? 遺品の回収が終わったらしばらくギムルに腰を落ち着けて、定期的に神界に来れる様にしてよ。僕達も今回の件で当分地球に行ってる暇は無くなるから、通院も兼ねてこまめに会おう」
「分かった。よろしく頼む」
俺がそう言った所で突然俺の目の前、超至近距離に現れた神様が居た。
「うわっ!? あ、フェルノベリア様……」
「驚かせたか? すまんな」
急に目の前に現れたのは魔法神フェルノベリア様だった。
「お久しぶりです」
「久しい、か? 半年前にも会ったと思うが」
「……人間の基準では半年も久しぶりになると思います。定義は無いですけど」
「そうか、まぁそんな事はどうでも良い。お前に渡すべき物……違うな、返すべき物を返しに来た」
「返すべき物?」
何か渡したっけ? と考えていたら、フェルノベリア様は空中に俺が発掘した魔宝石を出現させた。
「……返すべき物って、ソレですか?」
「その通りだ」
「いや、魔王の欠片を返されても困るんですが……」
「心配いらん、魔王の意思は抜き取って消滅させてやった。魔王の力が長期間宿っていた品なので品質は異様に高いが、今となっては単なる闇属性の魔宝石だ。採掘したお前にはこれを受け取る正当な権利がある。杖にでもして使うと良い。
使い方を決めるのもお前に権利があるが、売ると騒ぎになるだろうからそれはあまり勧められんぞ」
そう言ってフェルノベリア様は問答無用で魔宝石を返してきたので、俺はそれを受け取ってアイテムボックスにしまい込む。
そこでテクンが俺の肩に手を回してこう言って来た。
「おっ、そういや竜馬、お前魔法の杖持ってなかったよな?」
「持ってない。一本ぐらい持っておこうかと思ってたけど……」
「じゃあちょうどいいじゃねぇか! 今の魔宝石で杖作ればいい。杖の素材は……確か、エルダートレントの変種の枝を手に入れてなかったか?」
確かにある。ディメンションホームの隅に置きっぱなしになってると答えるとテクンは露骨に不満そうな表情をする。
「もったいねぇなぁ! 素材は加工してこそ意味があるんだぜ? そういやお前、木工スキルも持ってたよな? この際だから自分で作ってみろよ」
「魔法の杖って木工で作れるのか?」
「最低限の物は出来る。品質の良い物を作るには木工の技術に加えて材料や魔力感知も必要だが、それはもう揃ってるだろ? 何ならこれから治療に来る時に少しずつ俺が教えても良いぜ? 俺は技術と職人の神でもあるからな」
「いいのか?」
「人間の技術だけなら構いやしねぇよ。俺が教えんのは魔法の杖作りに必要な基礎だけだ。そっから研究や改良をするかはお前次第。職人と技術ってのはそういう積み重ねで成長してんだ。そしてそれを見守って、時に後押しするのが俺の仕事だっての」
そう言ってどこからともなく酒の満たされた杯を出し、酒をあおるテクン。そして一言。
「その後押しの形が直接的か間接的かの違いで、やる事は対して変わらねぇよ。つーか技術の神である俺からすると、自分で作れる技術を持ってる奴には出来るだけ自分で作って欲しいと思ってんだ」
「そうなのか?」
「折角の技術が無駄になるじゃねぇか。別に作って売れとは言わねぇし、趣味程度でも良いから素材と技術を使ってやってくれよ」
まぁ確かに無駄にするのは勿体ないし、神様直々に教えを受けられる機会なんてまず無いだろう。そう思った俺は自分で杖を作ってみることに決めた。
「分かった、精一杯やってみるよ」
こうして、俺はシュルス大樹海から帰ってきた後は神界への通院とテクンから杖作りの指導を受けることが決まった。




