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第三章 32話

2014/6/12の投稿、次回は6/16の予定です。

 

 迷宮の外に出ると迷宮の中ではよく分からなかったが日が高くなっており、野営の準備を行った俺達は遅めの昼食と休憩を取っていた。


「リョウマ君、魔力の方はどうじゃ?」

「そうですね……結構使ったと思ってましたが、もう9割回復したと思います。普段より回復が早い気がしますね」


 俺がそう言うと、レミリーさんがその理由を話してくれた。


「人が空気中の魔力や食べ物の中に含まれる魔力を呼吸や食事で体内に取り込む事で魔力は回復するのよ。ここは魔力が溜まる迷宮の近くだから、他の場所より若干だけど回復も早くなるの。それを利用するために態々迷宮に行って訓練をする魔法使いも居るのよ」


 なるほど、そういう事だったのか。


「食べ終わったらリョウマちゃんも魔法の練習する? 魔力が回復したなら出来ると思うけど、呪いにかかって疲れただろうし……」

「お願いします、レミリーさん。今回の事で呪いの対策は知っておくべきだと痛感しました」

「そう? じゃあ、まずは光属性のディスペルから始めましょう」


 そして食後、レミリーさんは手近にあった石を拾い上げ、呪文を唱えた。


「『イルネス』」


 その瞬間石の周囲に魔力が纏わりつき、その石を俺に差し出してきた。


「はいこれ、持ってみて」


 言われた通りに受け取ると、なんだか体が熱っぽい気がする。そして手を離すと熱っぽさも消える。


「呪いには幾つか種類があるわ。今その石にかけたのはイルネス、病魔の呪いよ。これをかけられる、もしくはかけられた物を持っていると病気に罹ったのと同じ症状が出るわ。普通の病気と違って薬では治せないけどね」

「なるほど、この熱っぽさはそのせいですか」

「初めてだから分かりやすくて軽めの呪いにしたわ。それを使ってディスペルの練習をするわよ」


 こうして始まったディスペルの練習は光属性の魔力を対象に浸透させ、対象の内外から呪いを構成する闇属性の魔力を祓うという物だった。


 ちなみに呪いに使われる闇属性の魔力は普通の魔力と違い変質した魔力になっているらしく、ディスペルはその変質した魔力のみを取り除くそうだ。だから闇属性の魔石に使っても呪いだけを取り除ける。


 俺は飢渇の刑場でディスペルをかけられた時の感覚を思い出して練習を行うと、8回失敗し9回目で成功した。


 次に教わったのは呪いから身を守る光魔法、アンチ・カース。呪いから身を守る光属性魔力の膜を作る魔法で、これは魔闘術の要領で行うと1回で成功する。


 それからは今の俺のアンチ・カースがどの位の呪いを防げるかということを調べるため、レミリーさんから徐々に強力な呪いをかけて貰い、対抗することで自身の限界を知った。


 どうも俺のアンチ・カースはそれほど強くないらしく、ちょっと強力な呪いをかけられると破られる様だ。


 しかし精神的・肉体的苦痛耐性スキルのおかげで呪いを受けても大抵の呪いには耐える事が出来、ディスペルで自身の呪いを解く事は出来そうだった。ただ、問題はその間は無防備になってしまう事、そして呪いを防ぐ力が弱いので耐えられない呪いを受けた場合には不安がある。


 そこでレミリーさんから提案があった。


「心配なら魔法道具を探すのも1つの手よ」

「魔法道具、ですか?」

「そうよ、魔法道具の中にはアンチ・カースとか呪いに対抗する魔法を込められた物もあるわ。呪いを防ぐ魔法具も作れる人は少ないから見つけるのがかなり難しいとは思うし、見つけても買うには大金が必要になるけどね」


 レミリーさんは最後に人の恨みを買う様な事をしてる貴族がこぞって手に入れたがるからね、と冗談っぽく言って締めくくった。


 そうか……探してみて買えそうなら買おう。とりあえずは地道に訓練して少しずつ対抗出来る様に鍛えるしかない。




 そう結論づけた所で次の魔法を習う。レミリーさんの魔力がそろそろ心許ないという事で、呪いをかけて貰って行う今までのような練習ではなく、レミリーさんが使ったというハイドの魔法を見せて貰った。呪いの訓練は明日になる。


 闇魔法のハイドは自分の周囲に闇属性の魔力の膜を作り、その魔力が自分の気配を遮断、あるいは吸収して周囲に溶け込むイメージで使用する。


 これも割と簡単に習得でき、4回位の練習で習得できた。近くで練習風景を眺めていたシーバーさんからも気配が無いと言われたので大丈夫だろう。


 ちなみにシーバーさんはさっきまでうちのキングスカベンジャー5匹と試合をしていた。迷宮探索が簡単に終わってしまい不完全燃焼の様だったので、キングスカベンジャー達の訓練をお願いした。物理攻撃耐性スキルと肥大化による体格に加え、5匹同時に相手をすれば中々いい運動になったと喜んでいた。


 キングスカベンジャー達も良い経験を積めただろうし、喜んで貰えた様で何よりです。




 そう考えていたらゾンビが1匹迷宮から出てきた。気づけば日も暮れてきている。もうアンデッドが出てくる時間か……そうだ、スカベンジャーに食べさせて分裂して貰おうか。まだ先があるのか、それともキング以上にはならないのかを確かめるためにスカベンジャーは増やしたい。


 しかし、俺の魔法の訓練に必要な魔力は残しておきたいから……100匹くらいに分裂してもらおう。


 こうしてキングスカベンジャーから100匹のスカベンジャーを分離させ、ゾンビにけしかける。すると、すぐにゾンビはスカベンジャー達に纏わり付かれて消えていった。




 その後も出てくるアンデッドは食べていいと指示を出し、皆さんとお茶を飲みながら話をしたりして過ごしていると、19匹のスカベンジャースライムが俺達の居るホーリースペースの中に入り込んできた。


 どうしたのかと思ったら、そのスライム達は進化を始めた。どうやら安全に進化出来る場所を求めて来た様だ。


 スライム達は魔力を吹き出し吸収しを繰り返して進化するが、今日は今まで見たスライムの進化より吹き出す魔力が多い。複数同時のせいもあるとは思うが、1匹1匹でも多いと思う。


 進化が終わるまで、俺は勿論レミリーさんとシーバーさんもかなり興味を持って見入っていた。どうやら二人もスライムの進化を見るのは初めてらしい。


 これはスライム研究者のロベリアさんから聞いた話だが、スライムは外敵の居ない安全な場所でないと進化を始めないので、スライム研究者以外がスライムの進化を見る機会は少ないそうだ。


 そんな事を思い出している間にスライム達の進化が終わる。体が黒っぽい土の色になり、他種のスライムと比べて格段に大きくなった。直径が60cm位で座るのに丁度良い感じの高さだ。座らないけど。


 俺はその中の1匹を魔獣鑑定してみると、グレイブスライムという種類らしい。




 グレイブ……薙刀みたいな武器だったかな? でも何で? と思っていたらスキルを見て自分の間違いに気づいた。


 スキル 死霊誘引Lv1 死霊吸収Lv3 遺体安置Lv3 病気耐性Lv7 毒耐性Lv7 悪食Lv6 清潔化Lv2 消臭Lv7 物理攻撃耐性Lv2 ジャンプLv3 消化Lv7 吸収Lv3 分裂Lv2 体術Lv2


 死霊誘引、死霊吸収、遺体安置って……もしかして墓? 


 墓も英語でグレイブだった事を思い出して納得できたが、清潔化スキルのレベルが下がり、消臭液スキルに至っては無くなってるな。その代わりにさっきの3つのスキルを習得している。俺との訓練で身につけた技能を失っていないのは良かった。


 そして好む属性を調べてみると、まず土と闇、そして空間……空間!?


 驚いた。空間属性の魔力を好むスライムはこれが初めてだ。


 今までただのスライムに空間属性の魔力を与え続けても一向に進化しなかったからダメなのかと思っていたが、空間魔法を使うスライムが存在する可能性が出てきたかもしれない!


 ここで、ラインバッハ様にこう聞かれる。


「今回はなんというスライムになった?」

「グレイブスライムです」


 俺がそう答えると、誰も聞き覚えが無いらしい。おそらく新種だろう。


 情報が全く無いので、新しいスキルの実験をする。まずは今も外でアンデッドを食べてるスカベンジャー達を一旦引かせる。この時集めたスカベンジャーの内10匹は分裂できる状態だったため分裂させ、契約した。


 そしてグレイブスライム達に死霊誘引をさせると、グレイブスライムの体が僅かに青白くて仄暗い光を発し始める。すると、ホーリースペースの外にいるアンデッドがグレイブスライム達に向かっていく。


 さらに死霊吸収は集まったアンデッドをそのまま体に取り込める。しかも、その際大半のアンデッドは大人しく飲み込まれて行く。スカベンジャーに飲み込まれていく時はアンデッドも抵抗していたのに……これがグレイブスライムの能力だろうか? 見ていると自分から進んで飲み込まれに行くアンデッドも居た。


 最後の遺体安置というスキルはどうやらアンデッド系魔獣を消化せずに体内に保管して、出したい時に自由に出せるらしい。


「アンデッドを捕獲するスライム……珍しいわね」

「アンデッドの討伐には便利だな。一箇所に集めて一網打尽にし、多すぎれば捕まえてゆっくりと仕留めれば良い」

「他にもアンデッド系魔獣をテイムするという手もあるぞ」


 各々グレイブスライムの能力に感想を言ってくれるが、最後のラインバッハ様の言葉が気にかかる。




「アンデッドもテイム出来るんですか?」

「勿論じゃよ。アンデッドも立派な魔獣じゃからな。……ただし、あまり好んで使役する従魔術師は居らん。再生能力があるのは良いが、不気味じゃからの」

「その他にもゾンビやグールは体臭の事もありますし、日中は夜間より若干弱ってしまうなど色々とデメリットもありますので」

「アンデッドを連れてたら宿にはまず泊まれないし、街に入れなくなる事もあるわよ」

「納得できました。それは好まれないでしょうね」

「だろうな。アンデッド系魔獣にしか適性が無い従魔術師や研究者は仕方なく使役すると聞くが、そう多くはない」


 何か、スライム研究者に次ぐ不遇研究者が居そうだな。


 そういう人たちがこのスライムを知ったらどうなるだろう? アンデッドが不要な時はグレイブスライムの中に入っていて貰えば……消臭スキルはあるし、良いんじゃないか?




 思いついた事を試すため、俺はアンデッドをテイムしてみることにした。そしてグレイブスライムに引き寄せられて手近な場所に居たゾンビに従魔契約を使う。すると――


 ブチッ!!


「何だいまの?」

「どうした?」

「今、ゾンビに従魔契約をしてみたんですが、何か、何時もの感覚と違いまして……魔力の線が繋がらずに引きちぎられた感じです。拒絶されたというか……」


 多分失敗なんだろうけど、電話を乱暴に切られた感じだった。


「リョウマ君は初めてじゃったか、それは失敗じゃな。それも拒絶された感覚となると、おそらくリョウマ君はゾンビとの相性が非常に悪いのじゃろう。他のアンデッドで試してみたらどうじゃ?」


 そう言われたのでその後はスケルトンやレイスにも従魔契約を試したが、どちらも同じだった。どうやら俺はアンデッド系の魔獣との相性が最悪らしい。


 グレイブスライムはホーリースペースの中に自由に出入りしてるし、アンデッドでは無い様なので契約可能だったんだな。でもアンデッド系のスライムがいた場合はどうなるんだろうか?




 そんな事を考えつつ、今日はもう寝る事になった。ちなみに今日はアンデッドを間引く必要が無いので、ディメンションホームの中に入り1人で寝た。






 翌日


 朝の用意を整えて外に出る。

 そして朝一番でレミリーさんから闇魔法の授業を受けた。


 まずは呪いのかけ方から始まりその種類、その後闇属性の呪い対策。


 俺が習得した呪いに対抗する闇魔法は『カーストランスファー』と『リターンカース』


 カーストランスファーは呪いを解くのではなく、別の物体に移し替える事で対象から呪いの影響を取り除く魔法で、リターンカースは呪いから身を守ると同時に呪いをかけた者にその呪いを返す魔法だ。同じ呪いの対処用の魔法でも色々違いがあるな。


 そして朝の授業が終わった後はそろそろ帰るのだが……




 俺達は今、赤茶色の鱗を持つ頭の先から尻尾の先までで50m程の西洋竜の背に乗っている。


 この竜はラインバッハ様の従魔で、召喚術で呼び出されたAランクのイグニスドラゴンという種類だそうだ。火を吐く事が出来、住処は主に火山だが寒い場所でなければ割と何処にでも住めるらしい。


 ここからの帰りはこのイグニスドラゴンに乗せて貰い、ギムルの近くまで送って貰える事になった。


 4人が俺と会う前はこのドラゴンに乗って迷宮まで来るつもりだったそうで、これまで歩いて来たのは俺に経験を積ませ、指導する時間を捻出するためだった。


 そのために態々あの足場の悪い峡谷を俺に付き合って歩いてきてくれたんだ。皆さんには頭が上がらない。


「準備は良いか? しっかり掴まっておるんじゃぞ!」

「はい!」


 俺達はドラゴンの背に取り付けられた鞍の様な物に座って取っ手に掴まり、金具で体を固定した。そしてドラゴンが大きな翼を広げ、羽ばたかせながら走り出す。そして勢いを付けて離陸する。


「凄いな……」


 この世界に来てから初めて空を飛んだ。前世では何度か飛行機にも乗ったが、そんな物とは違う。強い風が轟々と吹いてくるがそれに耐えてうっすらと目を開けると、今までいた迷宮が段々と小さくなっていき、雄大な峡谷が視界に広がる。


 このドラゴンが召喚された時には一度威嚇されたりもしたので、始めはどうなるのかと若干不安だったけど、飛び方は安定してるしドラゴンの乗り心地は悪くない。




 事前にラインバッハ様から大丈夫だからと聞かされていたが、威嚇された時の威圧感は凄かった。体が竦んで動かなかったりはしなかったが、敵対はしたくない。爪は鋭く尾も丸太の様に太い。攻撃の1つ1つが必殺の一撃だろう。もし野生で出会ったらまず逃げる事を選択すると思う。


 なにせ、ランクが同じ魔獣でも危険度や強さには違いがある。そしてイグニスドラゴンは討伐依頼が出るとAランクだが、場合によってはSランクになるというAランクの魔獣の頂点と言っても良い魔獣だそうだ。戦う理由が無ければ挑む気は無い。




 そんな事を考えている間にもどんどんと迷宮は遠ざかっていく。何はともあれ、これで俺の初迷宮とシュルス大樹海に行く前の訓練が終わった。


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