第三章 31話
2014/6/9の投稿です。次回は6/12になります。
グールやゾンビが来なくなったので、俺達は螺旋階段をおりていく。途中にまだ残っていたグールも居たが、それは本当に僅かだった。
そして飢渇の刑場の底に着くと、そこは本当に何も無いただの広い場所だった。ある物といえば苔むした地面、固まって真っ直ぐ上に向けて生えるツヤの無い黒色の草、もとい俺とレミリーさんが必要としている常闇草だけだ。
常闇草を見てレミリーさんが言う。
「かなり生えてるわね、常闇草」
「こんな所まで態々採取に来る者もそう多くないだろうからな」
「品質はどうじゃ?」
俺は近くの常闇草を取って調べてみると、品質は最高に近い事が分かった。
「品質はかなり良いですし、問題ありません」
「私もよ、ただ欲を言えばアンデッドに踏み荒らされてないのを選びたいわね」
「これだけあるのですから、探せばあるでしょう」
セバスさんがそう言って踏み荒らされていない常闇草を探し始める。俺たちも続いて無事な常闇草探しと採取をするが、ここで妙な感じがする。
「ん?」
「どうした?」
「いえ、何か……気のせいでしょうかね?」
妙な感じを言葉に出来ず、次第にその感じが本当にあったのかも疑わしくなってきた。
「何もないなら良いが、おかしな事があればすぐ言うのじゃぞ」
「はい」
その後も常闇草の採取を続けても何も感じなかった。しかし、予備も含めて用意していた常闇草用の袋5袋に採取した常闇草を詰め終える頃、再び先程の感覚を、よりハッキリと覚えた。
「皆さん……」
「どうした?」
「どうしたの?」
「どうされました?」
「何かあったのか? 先程も何か考えていた様じゃったが」
俺の呟くような声に、皆さんが反応し、ラインバッハ様が聞いてくる。
「何かあったかと聞かれると上手く答えられないのですが、何かを感じませんか?」
「何か……って、また漠然としてるわねぇ……何も感じないけど?」
「アンデッドも居らんしのぅ……」
皆さんは特に何も感じないそうだが、俺の言葉を信じて一通り飢渇の刑場の底を調べてくれる事になった。
そしてその結果、俺は未だにその感覚が何かは分からないが、ここだという場所を見つける。
「何か、ここら辺です。このよく分からない感覚の元」
「ここ?」
俺がそう言ったのは俺達が降りてきた螺旋階段から少し離れ、飢渇の刑場の中心部から少し端に近づいただけで、何の変哲もない床の上だった。見た目に特別変わった所は無い。だが、間違い無くここだという確信がある。
自分でもなぜそう思うのかが理解できず、非常に気持ちが悪い。という訳で
「ここ、ちょっと掘ってみたいんですが、良いですか?」
「法的な問題はございません」
「頑丈な造りだから、ちょっとぐらいなら問題もないと思うわ。気をつけてね」
俺は刀になって貰っているアイアンスライムに指示を出し、大きなシャベルになって貰う。そして魔闘術で土魔法のブレイクロックを纏わせ、掘る!
掘り始めるとあの感覚が段々と強くなってきた。
本当に何なんだ? 嫌な感じはしない、でも良い感じもしない。生き物の気配でも無い。何か分からない感じだけが強くなってくるんだ……そして掘り進めていくと段々とこの感覚の元の位置が掴めていく気がする。
そして4m程下に掘り進め、体がすっぽりと穴に入っても掘り続けていると、声がかかった。
「リョウマ君、大丈夫か?」
「もう結構掘ってるけど、何かあった?」
ラインバッハ様とレミリーさんだ。
「どんどん近づいてる気が――あっ!?」
「どうした!」
「あ、いえ、何か手応えがあっただけです!」
俺の驚きの声に、シーバーさんがそう叫んだ。俺は脅かして申し訳ない、そして俺は無事だと伝えて、手応えのあった方を見ると……
「これ、魔石か?」
そこには前にエルダートレントの根元で見つけたのと似た魔石があった。人さし指2本分位の大きさで、色からして闇属性の魔石だ。鑑定して確かめたし、間違いない。
魔石に傷がついている所を見ると、どうやら俺はスコップの先でこれを突いたらしい。しかも今魔石を拾った場所の近くには同じ様な魔石の端が幾つも露出していた。スコップに纏わせたブレイクロックで周囲の土が崩れて露出したようだ。俺が手に持ってるのより大きい物もあるな……俺はこれがあるのを感じたんだろうか? ……とりあえず報告するか。
「皆さん! 魔石を見つけました! 闇属性の魔石です!」
俺は拾った魔石を掘った穴を覗き込んでいた皆さんに軽く投げて渡すと、セバスさんが受け取り、鑑定を使う。するとセバスさんは感心したような声色でこう言った。
「確かに、1級の闇属性魔石でございます」
その言葉で他の3人からも声が出る。1級か……俺の鑑定ではそこまで分からなかった。多分品質が良いんだろうけど、何が違うのかな?
そう思って聞いてみると、魔石には第1種・第2種・第3種という分類があり、その中から品質により6つの等級に分けられる事を知った。
まず第1種に分類されるのは光・雷・木属性。
次に第2種に分類される闇・毒・氷属性。
最後の第3種が火・水・風・土・無属性。
この分類はその属性の希少性で分けられており、1種が最も珍しく価値が高く、そこから2種、3種の順に安くなる。なお、空間属性は魔石の存在が確認されていないため分類に入っていない。
ちなみに魔石は同じ属性の場合、1つ上の等級になると値段が倍になる。
第3種の魔石を例に出すとこんな感じだ。
1級32000スート以上
2級16000スート以上
3級8000スート以上
4級4000スート以上
5級2000スート以上
6級2000スート未満
5級の魔石は魔法の杖として使うのに最低限必要な品質で、6級は庶民でも買える安価な魔法道具を動かすために使われる。電池のような物だ。
6級は5級以上の杖に付ける魔石を加工した時に出る魔石の欠片も一緒に売られている事があり、言い方は悪いが一般的にはクズ魔石と呼ばれる。
次に第2種の魔石だが、これは第3種より希少なので3倍の値が付く。しかし第2種なら3種より高いという訳でもない。
1級96000スート以上
2級48000スート以上
3級24000スート以上
4級12000スート以上
5級6000スート以上
6級6000スート未満
この通り、第3種の魔石でも品質が良ければ下手な第2種の魔石より値がつく。
しかし今回の場合は……
「えーっと、その魔石は闇属性。つまり第2種で、品質は1級。属性も、品質も申し分なくて高いという事ですか」
「その通りにございます。魔石という物は中々高品質な物が採れませんし、良い物が売りに出されれば魔法使いや職人等、様々な方がお買い求めになられますのでここまで高品質の魔石には滅多にお目にかかる事は出来ませんね。
先程お教えした金額はあくまで最低額、しかるべき所に売りに出せばその2倍3倍の値にはなります」
さっきの額で最低でも!? 1つで四捨五入したら10万スート、大金貨1枚なんて大金なのに!?
「あのー、セバスさん?」
「何でしょうか?」
「この奥、まだ同じ様なのがゴロゴロあるみたいなんですけど……」
そう伝えるとこの品質の物が幾つもあるのかと驚かれ、とりあえず採掘出来るだけ採掘してみる事になった。
ディメンションホームの中からアーススライムとダークスライムを出して手伝わせる。最初はアーススライムのみ出すつもりだったんだが、ダークスライムが外に出たがったから出した。どうやらこの周辺の魔力を吸うために出てきた様だ。
俺は時々属性魔法を使うスライムには魔力をあげるけど、それはおやつみたいな物で普段の食事は勝手に自然の魔力を吸っている。ここはダークスライムにもいい餌場みたいだな。
そんな事を考えつつ、採掘作業を続ける。
アーススライムに土魔法で地面を掘って貰い、ダークスライムが拾い集め、俺が運搬。穴の外に居る4人が袋を引き上げて鑑定してくれる。
そして採掘をしてみたら大小合わせて22個の闇属性魔石を発掘した所で、忘れかけていたあの感覚がやってくる。
「っ! ……」
俺はその感覚に引き寄せられる様に土魔法を使い、穴を掘った。そして見えたのは――
「……大きいな、あの魔石……」
土を掘って出てきたのは、非常に大きな魔石だった。
大小様々な柱状の魔石があり、その中心には一際大きな六角柱の魔石が1本。高さは60cm程になるだろうか?
「!?」
何となくその魔石に触ろうとした時、今度は今度で言葉にしようがない悪寒が俺の体を包む。咄嗟に後ずさって距離を取った俺の体からは汗が吹き出していた。
何だ? 今のは……あの石、ヤバイのか?
「リョウマちゃーん? また何かあった? ……って、すごい汗じゃない! どうしたの!?」
上から光魔法で俺の顔を照らしたレミリーさんがそう叫んだので俺は返答する。
「今、すごく大きな魔石を見つけたんですが、それに近づいた瞬間、物凄く嫌な感じを覚えまして……」
「リョウマちゃん、一旦出てきて」
俺はスライムと共にレミリーさんに言われた通りに穴を出ようとするが、あの魔石がどうも気になる。だが、先程の悪寒を思い出す事でその迷いを振り切り穴の外に這い出る。するとレミリーさんが俺に杖を向け、呪文を唱えた。
「『ディスペル』」
その瞬間生まれた光が俺の体の中に染み込んでくるような感覚を覚え、それが抜けていくと同時に何かに解放された様な爽快な気分になる。そして同時に頭も働く……いや、今までが働いていなかった様に感じる。
「今の、まさか呪いですか?」
ディスペルは解呪の魔法だったはず。それを使われ、なおかつそれで何かが良くなった感覚があったとしたら、呪いにかかっていたんだろう。
「そうだと思うわ。私も普段魔石の発掘はしないから忘れてたけど、闇属性の魔石が発掘できる場所って時々その手の事故が起こるのよ。闇は精神攻撃とか直接的でない攻撃を行う魔法だからね」
そう、なのか……あれが呪い……ヤバイな。俺一人だったらどうなっていた事か。
「助かりました、レミリーさん」
「良いのよ。後でみっちり呪いの対策を教えてあげるからね。ちょっと休んでなさい。お姉ちゃんはその魔石の呪いを解いてくるから」
レミリーさんはそう言って俺の頭を撫で、穴の中に入っていった。
「お水です、どうぞ」
そこにセバスさんがコップに入れた水とタオルをアイテムボックスから取り出して持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
それを受け取って汗を拭き、水を煽る。ほぼ同時に穴の中から光が溢れ、数秒後にレミリーさんが穴から出てきた。
「レミリー、どうじゃった?」
周囲を警戒していたラインバッハ様がそう聞くと、レミリーさんは目をキラキラと輝かせてこう言った。
「凄かったわ! 呪いもあったけど、リョウマちゃんが言ってたの、魔宝石だったのよ!」
魔宝石って、確かエリアから預かったネックレスに付いてたルビーもそれで、超高級品だったはずじゃ……
そう思っていたらレミリーさんに、疲れてる所悪いけど力を貸して欲しいと言われたので、先程の魔石を発掘に行く。
そして改めて見てみれば、さっき俺が魔石だと思っていた物は大きな黒水晶のクラスターだった。前世の取引先の待合室にも水晶のクラスターが飾ってあったが、ここまで大きな物は見た事が無い。しっかり見れば気づけただろうに、それにも気づかなかった。判断力が落ちてたみたいだ。
それにしても、高級なんだろうな……こういうの家とかに飾ったらオシャレかな? ……欲しいかもしれない。
でも……さっきまでの様な悪寒は無いのに触れたくない。だから俺は何となくクリエイトブロックを使い、土魔法でクラスター全体を包み大きな1つのブロックにする。
そしてアーススライムに道を広げさせ、気功を使って運び出す。
外に運び出した後にブレイクロックで周りの土を取り除くと、中の黒水晶を見て俺とレミリーさん以外が絶句した。
この黒水晶は魔宝石である事、闇属性で質が良く、何より大きいので売りに出したらさっきまでの魔石の数百倍の値がつく品になるそうだ。
俺はもう金額が大き過ぎて想像できなくなった。売りに出したら騒ぎになりそうだから売るつもりも無いし、家においておこう。
そう思っていたら、レミリーさんがこう聞いてきた。
「リョウマちゃん、もしよかったら、この魔宝石を譲ってくれないかしら?」
「え、これをですか……?」
即座に断ろうと思ったが、その瞬間何か違和感を覚えた。あれ? よく考えたら何で即断ろうとしたんだろう? どうせ売ったら悪目立ちしそうだし、レミリーさんはタダとも言ってないのに……話も聞かずに断るほど執着してないつもりだったけど、欲しかったのかもしれない。まぁ、かなり高価な物らしいし、仕方ないよな?
そう考えていたらレミリーさんが慌てて訂正してくる。
「ちょ、ちょっとリョウマちゃん、そんなに悩まないで。ここはスッパリ断る所よ」
「え?」
「もう……本気だったらこんなに軽く譲ってなんて言えないわよ。ラインバッハちゃんからお金に執着しないって聞いてたし、ちょっと言ってみただけだったのにそこまで悩むなんて……」
あ、本気ではなかったのか。
「冗談でしたか」
「当然よ。莫大な資産にも変えられる、普通だったら瞬時に断られて当たり前の代物だもの。本気で交渉したければ莫大な金額を提示したりしなきゃ話にならないわよ。それなのにリョウマちゃんったら悩み始めちゃうし……
私達が冒険者だったらこの魔宝石をどうするかや利益の分配で揉める事だってありうるのに……詐欺師とかに騙されないか心配になるわ」
確かにお金には執着しないけど、詐欺師に騙される程ではないと思う。
「とにかく、この掘り出された魔宝石と魔石はリョウマちゃんの物よ」
「あ、魔宝石はともかく、魔石の方は分けましょうよ」
一緒に来て教わったこともあるし、今まで見張りをしてくれたんだから、多少は権利があるんじゃないか?
「ふむ……では魔石を1つだけ貰っておこうかのぅ。それ以上では分け前として多すぎるのでな」
ラインバッハ様がそう言って自分の分を魔石が入っている袋から取り出した。そしてほかの3人も1つずつ魔石を持っていく。レミリーさんは喜んで抱きついて来た。
レミリーさんはこの魔石を新しく作る杖に使うつもりらしい。それを聞いてアイテムボックスの中にエルダートレントの枝を何本も死蔵していた事を思い出し、1本おまけに付ける事を提案すると非常に喜ばれて更に抱きつきが激しくなった。
昨夜ほどは取り乱さなかったので、苦しいが若干の幸せを感じている。
その後はもうこの場所に用は無くなったので常闇草と魔石をディメンションホームに、魔宝石をクリエイトブロックを使って再度石で包んでアイテムボックスにしまい込んで迷宮の外に出た。
そして今日は迷宮の外でもう一泊し、明日から帰りの旅を始めることになった。




