第三章 30話
2014/6/5の投稿です、次回は6/9の予定です。
全員の用意が整い、俺達はとうとう魔造迷宮・亡霊の街に踏み込んだ。
迷宮というとおどろおどろしい光景を思い浮かべるが、この迷宮はそうでもない。陰鬱な雰囲気はあるが、外観はただの大きな廃墟だ。
俺はライトスライム1匹を頭に乗せ、全てのスカベンジャースライムを合体させたキングスカベンジャーを連れ、頼りになる4人と共に迷宮内部に入って行く。
この迷宮はほぼ長方形の建物であり、入口から奥に行くに連れて看守・死刑執行人の宿舎と勤務時の待機場所、死刑囚の収容施設、処刑場の順で区分けされていて、罠や宝物が見つかる様な事は無い。
迷宮内部は灯りが無いので暗かったが、作っておいたアルコール松明(室内用・手持ちで使用可)があるし、ライトスライムと光魔法でもOK。
しばらく進んでみたが、レイスは突然壁をすり抜けて出てくるけど今の所俺のライトショット一発で消えてるし、ゾンビやスケルトンは目の前を進むキングスカベンジャースライムに飲み込まれて溶かされていく。
入口付近は通路が狭く、キングスカベンジャーの肥大化スキル+暴飲暴食スキルのコンビネーションで通路を塞がれ、前に立ちはだかるアンデッドは全て飲み込まれている。その様子はまるで津波だ。
今俺達がやっているのはスカベンジャーを飛び越えてきたり壁をすり抜けてくるレイスを魔法で撃ち倒すだけだ。
「間引き前じゃから骨が折れるかと思いきや」
「全く苦労しないわね」
「昨日の戦闘を見てこのスライム達が十分な戦力になる事を知り、最良の手を打ったは良いが……ここまで楽になってしまうと張り合いが無いな」
「あ、セバスさん、水をお願いします」
「かしこまりました『ウォーター』」
セバスさんが水魔法で大量の水を生み出し、それを嬉しそうに飲むキングスカベンジャー。十秒くらい経つと、ブルリと体を震わせると共にもういいという思いが伝わってきた。
「ありがとうございます、もういいそうです」
「この程度でしたら何時でもどうぞ」
その後もしばらく歩き続ける。
ほかの迷宮は知らないけど、この迷宮は随分広いと思う。まぁ、処刑場と死刑囚及び職員の居住区にその他必要な施設を加えたら相当な大きさになるんだろう。
「シーバー、常闇草は地下にあるんじゃったな?」
「ああ、確か地下にある処刑場に生えていた筈だ。新人の足腰の鍛錬にあの場所は丁度良く、何度も行って見たので間違い無い」
俺達の目当てである常闇草は洞窟等の光の入らない暗い場所に多く群生する薬草で、そういう場所をシーバーさんに聞いたら地下の処刑場で見かけた事があるそうだ。
ちなみにここには様々な処刑法を行うため、色々な処刑場が集まっているらしく、常闇草が生えている場所もその中の1つだそうだ。
そこは地下深くに続く螺旋階段と穴と拘束具があっただけの処刑場、『飢渇の刑場』。その名の通り、死刑囚を閉じ込め水と食べ物を一切与えずに飢え死にさせるという処刑法に使われた場所だ。
その他にも酷い死に方をさせる刑場が多数あったようだが、現在は使われていない。
「これにも神の子が関わってくるのじゃが、人道に反するとマサハルやシュウを含めた神の子の殆どが昔の処刑方法に反対しておったそうじゃ」
「今の刑罰は罰金か奴隷化しての強制労働が主となっていて、罪の重さにより量刑がされる。
例えば街中での喧嘩は罰金。スリや泥棒は短期の労働で一度は見逃されるが二度目からは長期の強制労働に変わり、強盗や盗賊行為は無期の強制労働になる。何らかの情報と引き換えに減刑する司法取引が結ばれる場合もあるので一概には言えんがな」
アンデッドに手応えがないので、俺はラインバッハ様とシーバーさんからこの処刑場の歴史などを聞きながら歩いていく。もはや迷宮の探索と言うより、遺跡の観光に近いと思う。
こうして俺達が飢渇の刑場に向かう途中、俺達が囚人の収容施設がある区域に入ると、急に通路が広くなる。
「急に広くなりましたね?」
「昔、この通路の左右には囚人の部屋があったが、使えそうな物がこの処刑場が閉鎖される時に再利用可能な資源として持って行かれたからだ」
「部屋を仕切っていた檻が無くなり、通路の幅が広くなっているのじゃよ。左右の床や天井に不自然な穴が幾つもあるじゃろ?」
確かに、等間隔の穴が床と天井に空いている。
そういう事かと納得していると、少し先程までとは感じの違うアンデッドが出てきた。
「コ……ロス……」
「カネ……カネ……」
今までは呻くだけだったゾンビが、意味の通る言葉を繰り返し呟いている。
「これは生前の執着や未練を僅かに引き継いでるだけよ。能力に差はないけど、人によってはこれを普通のゾンビと区別してインテリゾンビって呼ぶわ。正式名称じゃないけどね」
そう言われたので俺はキングスカベンジャー達と共にインテリゾンビを殲滅する。キングスカベンジャーには真ん中を任せ、左右の空きをすり抜けてくるアンデッドを俺とシーバーさんが分担して倒していく。
戦ってみた感じはレミリーさんが言った通り、普通のゾンビと変わらないな。
そして収容施設区域を抜け、処刑場のある区域に踏み込んで行くと、空気が変わって行く気がする。今までと特に変わった事は無い様にも思うが、何か違和感を感じるんだ。
「これ……」
「リョウマ君は初めてじゃったのぅ。魔造迷宮の中心部に近づいたからじゃよ」
「魔力が溜まりに溜まった場所だからね、普通の場所とは違うって感じるでしょ。特に魔法使いだとその違和感を強く感じるわ」
「周囲の魔力が通常より強いので、強い魔獣が生まれている事もある。気をつけて進むぞ」
気を引き締めて進むと、窓の付いた廊下に出た。窓からは中庭の様な場所の中心に絞首台があり、その周りにアンデッドが彷徨いているのが見える。
更に進むと、俺達の進む先から金属音が鳴り響いてきた。
「この音はおそらくロームウエポンだな、近づいてくるぞ」
「じゃあ私の出番ね」
ロームウエポンとは勝手に浮かび上がり生物を襲う武器で、アンデッド系の魔獣に分類される。
魔力が溜まっている場所に長期間放置されたり、多くの人や魔獣を殺して血を浴びたりした武器はロームウエポンになりやすいそうだ。
そしてこのロームウエポン、倒すには物理的に破壊するか魔法で倒すかしなければならないが、元が武器であるため頑丈で物理的な攻撃が効きづらい。必然的に討伐には魔法が主な手段となる。
「来た」
正面から飛んで来たのはメイスが2本、斧が1本、槍が1本、そして片手剣が2本の計6つの武器と防具。それが真っ直ぐに人の駆け足程度の速さで飛んでくる。
俺達も戦闘準備をしておくが、レミリーさんがロームウエポンを冷静に見据えて発動した魔法で必要なくなる。
「『シャドーバインド』」
レミリーさんの魔法で天井や壁にある影から多数の黒いロープが伸び、全てのロームウエポンを絡め取る。絡め取られたロームウエポンは暴れていたが、ライトボールを数発打ち込まれると動かなくなり、拘束が解かれると床に落ちた。
「はい、おしまーい」
ロームウエポン6本をあっさりと倒したレミリーさんは、俺に向かって笑顔を向けてきた。俺はレミリーさんにお疲れ様ですと言って、次に今の魔法について聞く。
「今のはシャドーバインドって魔法で、光と闇の2属性を合わせて影を操る超高度な魔法なのよ!」
レミリーさんはそう言って胸を張った。実際この魔法を使える人は殆ど居ないらしく、レミリーさんが宮廷魔道士としてスカウトされた最大の要素もこの魔法を使えることだそうだ。
その後は地面に落ちたロームウエポンの回収のために新しい光魔法、ディスペルを見せて貰った。
ロームウエポンを倒して残された武器は拾って使ったり売る事ができる。ただし、時折武器に残った闇属性の魔力が持ち主に呪いという形で所有者の精神や肉体に害を及ぼす事がある。
ディスペルはその呪いを解く魔法で、倒したロームウエポンにこれを使っておけば安全に持ち帰れるそうだ。
「ちなみに呪いは闇魔法で人為的にかける事も可能だから、その対策として出来ればディスペルも覚えておいた方が良いわね。後で教えてあげるわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
それからまたアンデッドを倒しながら進んでいくと、10分程で目的地である『飢渇の刑場』の前に到着した。
「思ってたより大分早く着きましたね」
「道案内が出来るシーバーとリョウマ君のスライムが居るからこそじゃな。普通は大分苦労する道程じゃよ」
「確かに、今回ほど楽にここに来た事は記憶に無いな。だがここからは先程までより手ごわくなるぞ。
この飢渇の刑場の中ではゾンビが生まれやすく、その上位種のグールも多く居る。グールはゾンビよりも再生が早く、動きは俊敏で手には鋭い爪を持つDランクの冒険者でも単独では敵わない者も多い」
シーバーさんの注意を受け、俺は灯りをライトスライムに任せ、慎重に扉を開け中に入る……
すると目の前には3体のゾンビ。俺はそれを光属性の魔力を纏わせた刀で斬り倒す。
中に入ると話を聞いていた通り、螺旋階段があった。しかし、随分と幅が広い。階段の一段が横幅7m、縦が3mはある。螺旋の巻き方は反時計回りで下に続いていき、所々にさらに広い踊り場がある。
螺旋階段の中心は吹き抜けになっていて、天井の換気口と思われる穴からは風の流れと音を感じる。どうもその穴は斜めになっているらしく、光が差し込んでいるが底の方には光が入らない様だ。底の様子は暗くて見えない。
「また来たわよ」
俺達が扉を開けた音に反応したのか、下からゾンビが登ってくる。俺はキングスカベンジャーをけしかけて倒して貰うが、3つの影がキングスカベンジャーを飛び越えて来た。
「グールよ!『ライトショット』!」
レミリーさんは即座にライトショットを放ち、近づいてきたグールの内2匹の足を止め、もう1発ライトショットを放ち仕留めた。
残りの1匹はシーバーさんのハルバードに貫かれて動きを止められ、数発のウインドカッターで細切れにされていた。
グールはゾンビよりグロくないな、見た目は人間に近づいている。それに仕留めるにはライトショット1発じゃ足りない。
そう考えている間にも下からゾンビとグールがやってくる。ゾンビの相手は今も問題なく戦っているキングスカベンジャーに任せ、グールの相手をする。
正面から来るグールが爪を振り上げ、俺に斬りかかる。確かにゾンビと比べるとかなり早いが――
「まだ遅い」
俺は爪が振り下ろされる前にグールの胴を薙ぎ、続いて頭部を脳天から首元まで斬り倒す。グールはそのまま後ろに倒れて再生も動きもしなくなる。
よし、十分に通用する。確かにグールは俊敏ではあるが、シーバーさんと比べれば止まっている様なものだ。魔闘術を使えば問題なく戦える。
「このまま徐々に階段を下り、次の踊り場で迎え撃とう。それからスライムには足元に残った死体を処理させてくれ。溜まると戦いにくくなる」
シーバーさんの言葉に従い、襲ってくるアンデッドを倒しながら踊り場まで行く。
踊り場で戦うのは俺とシーバーさんとキングスカベンジャースライム。
ラインバッハ様、セバスさん、レミリーさんは階段の少し上から魔法で階段を登ってくるグールの数を削ってくれている。
俺は上の3人の所にグールを行かせないように、戦う際には先日シーバーさんから貰ったアドバイスを心に留めて戦った。
目の前のグールを倒すとその上を飛びこえようとするグールにライトショットを放ち妨害、着地を失敗させ転ばせた。その間に右から襲ってきたグールを逆袈裟に切り上げる。そしてそのグールの爪を避けると同時に刀を左の脇構えに構え、起き上がって来た先程のグールにライトショットを放って、目の前のグールの胴を薙ぐ。
まだ隙が出来ていると思う。
次、左右の斜め前からほぼ同時に2匹のグールが襲ってくる。まず左の方が近いので攻撃を躱して一太刀入れて蹴り、距離を開けさせる。続いて右の攻撃に来た腕を切り、体に一太刀。
そして2匹のグールの間に入って左のグールに向き合い、刀を担ぐように構えると同時に切先からライトショットを放つ。そして左のグールに斬りかかる。すると右のグールを魔法で仕留めると同時に左のグールを脳天から両断して仕留める事が出来た。
今のは良かったか? 本来なら仕留めきれていない相手に背を向けるなどありえないが、魔法を使う事で仕留める事と次の敵への構えを同時に行えた。
こうして俺はグールを相手に魔法と武術を合わせての戦い方の訓練をした。その際、時折シーバーさんからの指摘や追加のアドバイスもあった。
そして戦い続けて20分が経過する前に、襲ってくるアンデッドは居なくなった。




