第三章 守るという言葉
対談は中止になったが、番組は放送された。
むしろ、そのほうがよく売れた。
《巨匠、激怒して退席》
《AI漫画家「従来の漫画はいずれ古典に」》
《新旧対決、決裂》
切り取られた数分間の映像が、何百万回も再生された。
さとるには、さらに多くの出演依頼が舞い込んだ。
「漫画家の仕事がなくなるという心配については?」
「読者のために描いてるなら、まず読者が何を読みたいか聞いたらどうです」
「AIに頼ることに罪悪感は?」
「便利なものを使うたびに謝ってたら、洗濯機も使えませんよ」
「努力は必要ない、と?」
「必要ですよ。どこに使うかが違うだけで」
最後の答えが使われることは、少なかった。
テレビは、もっとわかりやすいさとるを欲しがった。
そして、さとるもまた、その役を演じ続けた。
作品は売れた。
外国語版が次々に発売され、海外の書店から写真が届いた。見知らぬ国の読者が、彼の登場人物と同じ服を着ていた。
その一方で、批判も大きくなった。
無断で利用される作品への不安。
安価な大量生産で仕事を失うのではないかという恐怖。
粗雑な生成作品に市場が埋め尽くされることへの反発。
話し合うべき問題は、確かにあった。
だが、異なる問題を一つずつ解きほぐすより、敵を一人決めたほうが話は早かった。
さとるの顔は、その旗印にちょうどよかった。
猿山の仕事場には、若い漫画家やアシスタントから手紙が届くようになった。
《先生、私たちはどうなるんでしょうか》
《何年も練習してきたことが、無意味になるのでしょうか》
猿山は一通ずつ読んだ。
自分もかつては、狭い部屋で明け方まで描いていた。家賃を気にし、画材を買う金を計算し、一枚の原稿に人生がかかっていると思っていた。
その年月を、無意味だったとは言わせたくなかった。
政治家との面会で、彼は言った。
「守っていただきたい。これから漫画を描こうとする若い人たちを」
議員は、深く頷いた。
「先生のお気持ちは、よくわかります」
その言葉を、猿山は信じた。
最初の議論には、いくつもの選択肢があった。
利用した素材の扱いを明確にすること。制作者と提供者の間に対価の仕組みを作ること。制作方法を表示すること。
しかし、議論を重ねるたび、複雑な部分は削ぎ落とされていった。
そして最後には、もっとも説明しやすい案が残った。
禁止する。
国内における、生成AIを主要な作画手段とした商業漫画の制作を禁じる。海外で同様の手法によって制作された作品にも、国内販売と配信の制限を設ける。
法律の正式名称は、漫画創作保護法。
世間はそれを、AI漫画規制法と呼んだ。
成立の日、テレビは再びさとるの顔を映した。
《AI漫画家、最大の窮地》
《半年後の施行で、国内活動は事実上不可能に》
猿山は、そのニュースを自宅で見た。
胸を満たしたものは、達成感に似ていた。
しかし、よく似た別のものも混じっていた。
あの男が、今度は何と言うだろう。
そんなことを考えている自分に気づきながら、猿山はテレビを消さなかった。




