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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―
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Chapter7 触れてはいけない名前

[ルーアン社・会議室]



キックオフから数日後。


定例の進捗共有ミーティングは、表向きは滞りなく進んでいた。


仕様。スケジュール。タスク分担。


すべて、“問題ありません”という言葉で整えられていく。


「……以上です」


凪(なぎ)が話を終え、軽く息を吐いた、そのときだった。


「ところで――」


高瀬(たかせ)玲子(れいこ)の声が、会議室に落ちた。


やわらかい。

けれど、わずかに温度が低い。


「経理側の確認事項なんだけど……

 その資料、三浦(みうら)さんが作ったのよね?」


空気が、止まる。


環(たまき)の指が、無意識に机の縁をつかんだ。


――まただ。


名刺にも。資料にも。システム上のアカウントにも。


すべて、『如月(きさらぎ)環(たまき)』と書いてある。


それなのに。


「……はい」


環(たまき)は、ゆっくり答えた。


声は震えていない。


でも、胸の奥がきゅっと縮む。


「三浦(みうら)さんって、クロノスにいた頃も、経理寄りの仕事をしてたわよね」


その言葉に、柊(しゅう)の視線が、一瞬だけ鋭くなる。


「……高瀬(たかせ)さん」


柊(しゅう)が、穏やかに、しかし間に入る。


「今は、如月(きさらぎ)環(たまき)が、アークシステムズの担当です」


「ええ、わかってるわ」


玲子(れいこ)は微笑んだ。


「ただ……

 過去を知っていると、どうしても、ね」


“過去”。


その言葉が、環(たまき)の中で反響する。


情報漏洩。犯人。説明されなかった真実。


「……あの事件のこと、覚えてる?」


玲子(れいこ)の視線が、まっすぐ環(たまき)を捉えた。


会議室の空気が、重くなる。


「高瀬(たかせ)さん」


今度は、凪(なぎ)が口を開いた。


声は明るい。


けれど、いつもより少し低い。


「その話、今ここでする必要、ありますか?」


「ただの確認よ」


玲子(れいこ)は肩をすくめる。


「同じことが起きないように、気をつけないと」


環(たまき)の呼吸が、一瞬だけ浅くなる。


怖い。


でも――


逃げたい、ではなかった。



◇



会議が終わった後。


廊下の片隅で、環(たまき)は立ち止まった。


「……柊(しゅう)」


小さな声。


柊(しゅう)は、すぐに立ち止まる。


「どうした?」


「……ちょっと、怖かったです」


凪(なぎ)が、環(たまき)の顔を覗き込む。


「言ってくれて、ありがとうございます」


その言葉に、環(たまき)は少し驚いたように目を瞬かせた。


「前は……

 怖いって、言えなかったので……」


「うん」


柊(しゅう)は、環(たまき)の肩にそっと手を置く。


「今は、言えてる」


その手は、確かだった。


「高瀬(たかせ)さん、わざと名前を使い分けてる」


凪(なぎ)が、淡々と言う。


「揺さぶって、判断を鈍らせたいんですよね」


「……たぶん」


環(たまき)は、ゆっくり息を整えた。


「でも……

 今は、ひとりじゃないって、わかってます」


柊(しゅう)の目が、やわらかくなる。


「そうだ」


「だから……」


環(たまき)は、少しだけ迷ってから、続けた。


「一緒に、戦いたいです」


その言葉は、強がりじゃない。


怖い。

でも、逃げないと決めた声。


凪(なぎ)が、にっと笑う。


「それ、僕らの得意分野です」


柊(しゅう)は、静かに頷いた。


「触れてはいけない名前を、使ってくるなら……」


一瞬、言葉を切る。


「俺たちは、事実だけを使う」


環(たまき)は、胸の奥が、じんわり温かくなるのを感じた。


怖さは、消えない。


でも――

一緒なら、立っていられる。


それを、初めて確信した瞬間だった。

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