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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―
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Chapter6 神話を信じている人たち

[ルーアン社・社内会議室]



「織原(おりはら)社長がいなかったら、今ごろ僕たちはここにいませんでした」


誰かのそのひと言に、会議室の空気がやわらいだ。


「本当に……

 あのときは、会社がなくなると思ってましたから」


「給料も遅れて、家族にどう説明しようかって……」


ぽつり、ぽつりと、社員たちの声が重なっていく。


会議室の前方に立つ織原(おりはら)梨杏(りあん)は、ただ静かに耳を傾けていた。


「……ありがとうございます」


それだけ言って、深く頭を下げる。


拍手が起こる。


大きくはない。

けれど、確かな感謝の音。


この会社は、一度、死にかけた。


だからこそ、救ってくれた存在を“信じる”ことが、生きる支えになっている。


会議の後。


廊下の端で、辻井(つじい)響(ひびき)は足を止めた。


「……社長」


織原(おりはら)は振り返る。


「辻井くん。どうしたの?」


辻井(つじい)は、一瞬だけ視線を落とした。


「……今日の話、少し、胸が痛くなりまして」


織原(おりはら)は、表情を変えない。


「痛む?」


「はい。

 皆、本当に救われてるんだなって……」


言葉の続きを、辻井(つじい)は呑(の)み込んだ。


救われている。


だからこそ――


知らなくていいことがある。


それを、彼は知っている。


「辻井(つじい)くん」


織原(おりはら)の声は、いつも通り、穏やかだった。


「会社を守るって、綺麗事だけじゃ、できないの」


辻井(つじい)は、黙って頷いた。



◇◇◇



一方。


財務経理部のフロアで、常見(つねみ)紘一(こういち)は、モニターの前に座っていた。


数字は、今日も整っている。


完璧に。


「……神話、か」


誰に聞かせるでもなく、呟(つぶや)く。


3年前。

倒産寸前だった会社。


銀行も、取引先も、誰も助けてくれなかった。


「……だから、クロノスに頼った」


常見(つねみ)は、資料棚の奥にある、古いファイルを思い出す。


特別プロジェクト。

例外処理。

説明不要。


そして――


“事故”


「……あれがなかったら、会社は助からなかった」


でも。


「……あれがなかったら、誰かは、壊れなかった」


数字は、何も語らない。


語らないからこそ、彼が黙る理由にもなっていた。



◇◇◇



辻井(つじい)と常見(つねみ)。


2人は、同じ真実を知っている。


でも、同じ理由で、口を閉ざしている。


この会社には、救われた人が多すぎる。


その事実が、真実を“言えなくする力”になっている。



◇◇◇



そして。


その日の夕方。


織原(おりはら)梨杏(りあん)は、ひとり、窓の外を見ていた。


沈みかけた夕日が、街を照らす。


「……神話、ね」


小さく笑う。


「信じてくれるなら、それでいい」


誰かが傷ついたことよりも。


誰かが救われた事実を選んだ。


それが、彼女の“英断(えいだん)”だった。


だが――

その神話の下で、何が犠牲になったのか。


それを、真正面から見ている者たちが、確かに存在している。


そして、アークシステムズは、もう、その扉の前に立っていた。

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