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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―
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Chapter5 神話の裏側

[アークシステムズ・ミーティングルーム]



「……ルーアン社が立て直されたのは、今から3年前です」


画面に映し出された年表を見ながら、凪(なぎ)が淡々と説明する。


「前社長が急逝。業績悪化。主要取引先の撤退」


「……倒産寸前、ですね」


環(たまき)が小さく言った。


「はい。

 そこから、織原(おりはら)梨杏(りあん)社長が前面に立って、一気に再建が進みます」


数字のグラフは、ある時点を境に、不自然なほど急角度で上向いていた。


「……きれいすぎるな」


柊(しゅう)が、低く呟(つぶや)く。


「ですよね」


凪(なぎ)は頷く。


「普通、ここまで急に回復すると、どこかに“歪(ゆが)み”が出る」


「……歪(ゆが)み」


環(たまき)は、画面に映る数字を見つめた。


ノンブル。

並んでいるだけの数字。


Février(フェヴリエ)。

始まりの2月。


「で、その再建期に、深く関わっていたのが……」


凪(なぎ)が資料を切り替える。


画面に表示された社名に、環(たまき)の指が、思わず強張った。


――クロノス・ソリューションズ。


「やっぱり……」


柊(しゅう)は、静かに続きを促す。


「ルーアン社の基幹システム。

 財務、経理、取引管理。

 ほぼすべてを、クロノスが請け負っています」


「……ほぼ全部、ですか?」


「はい。

 “再建のための特別プロジェクト”という名目で」


その言葉に、環(たまき)の胸が、きゅっと縮む。


特別。

例外。

説明しなくていい場所。


――まただ。


「……ここからが、本題です」


凪(なぎ)は一度、言葉を切った。


「クロノス社内で、同じ時期に起きている事件があります」


画面が切り替わる。


表示された日付。


3年前。2月。


Février(フェヴリエ)。


環(たまき)の呼吸が、ほんの一瞬、浅くなった。


「……情報漏洩事件」


凪(なぎ)の声は、必要以上に感情を含まない。


「社内システムからの情報流出。原因不明。責任の所在も曖昧」


柊(しゅう)の視線が、環(たまき)に向く。


環(たまき)は、自分でも驚くほど落ち着いて、その画面を見ていた。


「……わたしが、犯人にされた事件ですね」


静かな声。


「……はい」


凪(なぎ)が、申し訳なさそうに頷く。


「当時の内部資料を洗ってみたんですが……

 どうも、おかしい」


「何がだ?」


「事件が起きた直後、責任の切り分けが異様に早い」


凪(なぎ)は、ある一行を指した。


「“原因特定完了”まで、わずか3日」


「……早すぎる」


柊(しゅう)が言う。


「ええ。しかも、“再発防止策”が、もう決まってる」


「最初から……?」


「はい」


環(たまき)は、ふと、ある感覚を思い出していた。


あの時。


説明を求めても、「もう決まったことだから」と言われ続けたこと。


「……はは……灯(あかり)さんが言ってましたよね」


環(たまき)が、ぽつりと口を開く。


「“最初から仕掛けられている数字”って……」


凪(なぎ)は、ゆっくり頷く。


「これも、最初から“必要だった事件”だったのかもしれません」


「……誰のために?」


柊(しゅう)の声は、低い。


「ルーアン再建のため」


凪(なぎ)は、はっきりと言った。


「クロノスは、ルーアンを救うために、“都合のいい事故”をひとつ、必要としていた」


沈黙が落ちる。


環(たまき)は、胸の奥が少しだけ、きゅっとした。


でも――


崩れなかった。


「……わたしは」


環(たまき)は、ゆっくり言葉を選ぶ。


「たまたま、そこにいたんですね」


柊(しゅう)の手が、無意識に拳を握る。


怒りではない。

まだ、怒りではない。


でも、確実に燃料が積み上がっていく。


「ルーアン再建の“神話”は、誰かの犠牲の上に成り立っている」


凪(なぎ)が、静かに締めくくる。


「そして……」


画面に、再びあの数字が映る。


Février(フェヴリエ)。

ノンブル・プルミエ。


「その神話は、まだ終わっていない」


環(たまき)は、画面を見つめながら思った。


――怖い。

――でも、

  もう、自分のせいじゃない。


柊(しゅう)は、環(たまき)のその表情を見て、心の奥でひとつ決める。


――ここから先は、

――俺が引き受ける。


それが、高瀬(たかせ)玲子(れいこ)の知らない、本当の誤算になることを。

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