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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―
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Chapter2 数字の居場所

[ルーアン社・仮設オフィス・作業スペース]



キックオフミーティングから数日後。


アークシステムズは、ルーアン社から提供された、経理・財務関連のデータを受け取り、段階的な確認作業に入っていた。


「……数字、多いですね」


環(たまき)は、画面を見つめながらぽつりと呟いた。


「まぁ、立て直し後ですしね〜。

 取引も増えてますし」


凪(なぎ)は軽い調子で言いながら、別のモニターでログを流している。


柊(しゅう)は2人のやり取りを聞きつつ、全体の進捗(しんちょく)を静かに把握していた。


表面的には、どの数字も整っている。


桁(けた)も合っているし、合計も一致している。


――きれいすぎる。


そんな感覚が、柊(しゅう)の中にかすかに残っていた。


「……あの……」


環(たまき)が、もう一度声を出す。


「このページの数字なんですけど……」


柊(しゅう)と凪(なぎ)が、同時に環(たまき)の画面を見る。


「ここ、金額自体は合っているんですが……なんというか……」


環(たまき)は少し言葉を探すように、指先で画面をなぞった。


「ノンブル……みたいで……」


「ノンブル?」


凪(なぎ)が首をかしげる。


「はい……印刷会社で使っていた言葉で……ページ数のことなんですけど……」


環(たまき)はゆっくりと説明する。


「ページはちゃんとあるのに、中身が薄いというか……

 並んでいるだけで、どこにも属していない数字みたいで……」


柊(しゅう)は、その言葉を反芻(はんすう)した。


――ページはある。

――でも、意味がない。


「……確かに」


凪(なぎ)がデータを横断的(おうだんてき)に見比べる。


「この数字、どのプロジェクトにも、きれいに紐(ひも)づいてないですね」


「でも、消すほど不自然でもない」


柊(しゅう)が言う。


「そうなんです……だから、余計に……」


環(たまき)は、胸の奥に残る、きゅっとした感覚を押さえながら、画面を見つめ続けた。


「……あれ?」


凪(なぎ)が声を上げた。


「処理日、やけに月初に集中してません?」


「月初?」


「はい。特に……2月」


その言葉に、環(たまき)の指が止まる。


「……如月(きさらぎ)……」


環(たまき)の小さな呟(つぶや)きに、柊(しゅう)が一瞬だけ視線を向けた。


「2月……Février(フェヴリエ)、ですね」


環(たまき)はそう言って、自分でも少し驚いたように目を瞬いた。


「フランス語だと……」


「ルーアン、ですもんね」


凪(なぎ)が軽く続ける。


「Le(ル) − UN(アン)……1(いち)、か」


「……最初の数字」


柊(しゅう)が静かに言った。


「……プルミエ……」


|環はそう呟(つぶや)きながら、画面の数字を追う。


「月初……最初……それから……」


凪(なぎ)が、ふと手を止めた。


「……割れないですね」


「割れない?」


「分解しようとすると、どうやっても割り切れない」


柊(しゅう)は少し考えてから言った。


「……素数か」


環(たまき)は、小さく頷く。


「……ノンブル・プルミエ……」


その言葉が、作業スペースに静かに落ちた。


誰も、「不正だ」とは言わなかった。


まだ言えない。


でも――


「……これ、偶然じゃないですよね」


凪(なぎ)のそのひと言に、柊(しゅう)は答えなかった。


ただ、

環(たまき)の画面に残る“居場所のない数字”を見つめていた。


そして、胸の奥に小さく刻む。


――覚えておこう。

――この違和感を。


高瀬(たかせ)玲子(れいこ)が想像していない形で、この数字は、確実に残り始めていた。

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