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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season13 Le un《ル・アン》― 安心する場所 ―
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Chapter1 再会は、予定外に

―― ルーアン社・キックオフミーティング



[ルーアン社・会議室]



ガラス張りの会議室は、午後の光をやわらかく取り込んでいた。


白を基調とした室内は整然としていて、“立て直しに成功した会社”らしい清潔感がある。


「……大丈夫?」


会議室に入る直前、凪(なぎ)が小さな声で環(たまき)に声をかけた。


「はい……だいじょうぶです」


環(たまき)はそう答えながら、胸の奥に残る、きゅっとした感覚をそっと押し込めた。


柊(しゅう)は何も言わず、いつもよりほんの少しだけ環(たまき)の歩幅に合わせて歩いている。


――仕事だ。


今日は、仕事の顔をしなければならない。


そう思っても、エントランスホールでの再会が、頭のどこかで静かに尾を引いていた。


会議室にはすでに、ルーアン社の関係者が集まっていた。


先日の打ち合わせで顔を合わせた、情報システム部、財務経理部のメンバー。


そして、正面の席に立つ女性。


「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


落ち着いた声で挨拶をしたのは、ルーアン代表取締役社長――織原(おりはら)梨杏(りあん)だった。


背筋を伸ばし、無駄のない所作。


どこか凛とした空気をまといながら、迷いのない視線で場を見渡している。


「本プロジェクトは、ルーアン社のスマートオフィス化に向けた、基幹システム刷新の第一歩となります」


淡々とした説明の中に、“必ず成功させる”という強い意志がにじんでいた。


柊(しゅう)は静かに頷きながら話を聞いていたが、その一方で、凪(なぎ)は資料をめくる手を一瞬止める。


――共同開発。


資料の表紙に記されたその文字が、なぜか胸に引っかかっていた。


「今回、システム開発は、2社による共同プロジェクトとなります」


梨杏(りあん)の言葉に、会議室の空気がわずかに引き締まる。


「1社は、アークシステムズ様」


柊(しゅう)は軽く会釈をした。


「そしてもう1社は――

 クロノス・ソリューションズ様です」


その瞬間、環(たまき)の心臓が、ひくりと跳ねた。


凪(なぎ)が、ほんの一瞬だけ柊(しゅう)を見る。


柊(しゅう)は表情を変えないまま、静かに前を向いていた。


――やっぱり、そういうことか。


あの再会が、ゆっくりとひとつの形を取っていく。


「では、クロノス・ソリューションズ様の担当者をご紹介します」


梨杏(りあん)が視線を向けた先。


そこに立ち上がった女性を見た瞬間、環(たまき)は息を止めた。


「クロノス・ソリューションズ、企画部 統括主任の、高瀬(たかせ)玲子(れいこ)です」


凛とした声。

背筋を伸ばし、余裕のある微笑み。


――やっぱり。


先日の偶然は、偶然なんかじゃなかった。


高瀬(たかせ)玲子(れいこ)は、アークシステムズの3人に視線を向けると、わずかに目を細めた。


「本日は、よろしくお願いいたします」


その視線が一瞬だけ、環(たまき)のところで止まったような気がした。


環(たまき)は無意識に、指先に力を込めていた。


柊(しゅう)は立ち上がり、いつもと変わらない穏やかな声で応じる。


「アークシステムズの如月(きさらぎ)です。

 本プロジェクト、よろしくお願いします」


形式的な挨拶。

仕事としての距離。


けれど、柊(しゅう)の内側には、はっきりとした覚悟があった。


――逃げない。

――今回は、黙らない。


凪(なぎ)もまた、にこやかな笑顔の裏で、静かにスイッチを入れていた。


「……面白くなりそうだな」


小さく呟(つぶや)いたその言葉は、誰の耳にも届かなかった。


会議が進む中で、環(たまき)は資料を見つめながら思う。


この仕事は、ただのシステム構築じゃない。


過去と現在が、同じテーブルについた仕事だ。


胸の奥で、また、きゅっと何かが縮む。


それでも環(たまき)は、顔を上げた。


――ここにいる。

――わたしは、ここにいる。


これが、アークシステムズとしての仕事の始まり。


そして同時に、過去と向き合う仕事の始まりでもあった。



◇◇◇



「やっぱり高瀬(たかせ)さん、担当者だったんですね〜。

 あの、ちょっと冷たい笑い方……変わってなかったですね」


「ああ……そうだな……環(たまき)、大丈夫か?」


柊(しゅう)は、少し震える環(たまき)の肩をそっと抱き寄せながら聞いた。


「はい……ちょっと緊張しましたけど……大丈夫です」


そう答えながらも、どこか引っかかるような言い方だった。


「……環(たまき)、何か気になることがあるんじゃないのか?」


「……柊(しゅう)……あの……

 高瀬(たかせ)さんの視線が気になって。

 ずっと、わたしを見ていたような……

 でも、わたしの気にしすぎなのかもしれないんですけど……」


「あ、それ……僕も気になってました。

 気づくと、高瀬(たかせ)さん、環(たまき)さんを見てる気がして」


「……やっぱりそうか。俺も気になってた。

 凪(なぎ)もそう感じたなら、そうなのかもしれないな」


柊(しゅう)は一度、息をついてから続けた。


「でも、大丈夫だ。俺も凪(なぎ)もいる。

 環(たまき)、不安に思うことがあったら、どんなに小さいことでも、今みたいに話してくれ」


「……はい」


「向こうには、何か知られたくないことがあるのかもしれない。

 凪(なぎ)も、気になることがあったら言ってくれ」


「了解です!」

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