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怪盗は盗んだ宝と恋をする  作者: 野良猫氏
聖戦編
38/42

聖戦のはじまり

 花鳥風月(かちょうふうげつ)はふぅっと息を吐いた。

 ロネシェが首を傾げる。


「どうかしましたか?」

「………かなり、まずいな、と」


 ローリエも近くに寄る。


 風月は早くも敵の作戦に勘づいていた。


「………ロネシェ、一緒に来てくれますか」

「え?」

「最高神官のいるところへ」

「まさか、二人で行くつもりですか!?」


 ローリエが声を上げる。


「はい。ロネシェには、(わたくし)の得た情報を持ち帰ってもらいたいのです」

「貴女は、どうするの?」

「最高神官の能力は、人を異形に変える。“浄化の神子”である貴女は無事でしょうが、私には耐えられない」


 ローリエは息を呑む。

 勝利のために自らを犠牲にする気なのだ。

 対して、ロネシェは平然としていた。


「貴女は、それでいいのですか?」

「私の願いは叶わない。私の好きな人は、こちらを見てはくれません。もはや、悔いはありません。我が恩、“知識の神”のために、身を捧げましょう」


 ロネシェは頷く。


「見るだけで、いいのですか?」

「はい。情報共有後、なるべく時間を稼ぎます。貴女はそのあと、リティア、繚乱(りょうらん)様、ルシェル、お兄様の誰かと合流してください」


 ローリエは目を見開いて二人を見ていた。


「何で? そんなに冷静なの!?」

「ローリエ。貴女は生きなさい」


 風月は眼下に広がる南大陸を見た。


「どうせ、教会にいたら消えていた命です。このままでは、最高神官の策略に嵌る。その前に、勝利の一手を掴み取る」


 ロネシェも硬い表情で頷いた。


「レウス様に、伝えて来ます」

「お願い」


   ○○○


 白い獣は侵入者に低い唸り声を上げた。


 身体中に走る痛みと憎悪を堪えて、ゆっくりと立ち上がる。


「グルルル………」


 侵入者はわけのわからない言葉を話していた。

 どうやら、敵対する気らしい。


「無意味、ナコト、ヲ」


 獣は言葉を絞り出す。

 口からは涎が溢れ、八本もある足は痛みに震えている。


 痛みの原因は見ればわかる。


 “あの男”に移植された無数の“怪物の瞳”のせいである。

 身体についた目玉はギョロギョロと辺りを見回している。その目玉が動くたびに鋭い痛みが走った。


「憎イ」


 獣は一歩踏み出す。

 本能のまま、牙を剥き出しにする。


「グルルル」


 侵入者達はなぜか襲って来ない。

 目を見開いて、棒立ちしていた。


 獣は顔を顰めた。


「来イ、人間」

「…………クソが」


 侵入者が怒りに燃えた目をこちらに向けた。

 その怒りは、獣に向けられたものではない。


「クソったれが!」


 侵入者は仲間の制止を聞かずに走り出した。

 獣はそちらに見向きもしない。


 ただ、目の前の敵を見据えた。


   ○○○


 リティアとミーウは“水源の神子”を地面に乗せることに成功した。

 しかし、そこで終わった。

 これからどうするのか、どうすればいいのかがわからない。


 どうすれば………。


「! リティア!」


 ミーウが防御結界を張る。

 “水源の神子”が突撃して来た。


「なんて威力だ」


 ミーウが肩で息をする。

 このままでは身が持たない。



 次の瞬間、“水源の神子”の動きが止まった。


 否、世界の時が止まったのだ。


「大丈夫ですか!?」


 オルクリィとルシェルが合流した。


「ちょうど良かった! ルシェル、彼女を元に戻せますか!?」


   ○○○


 シャンカラ、東大陸、パラライド王国には、太古に現れた黒い化け物が出現していた。


 教会はこの三カ国を“神敵”として、断罪しているのだと公表した。


 しかし、三カ国に神が現れたことで状況は一変する。

 聖教会の信者ですら、三カ国の味方をするようになった。


 聖教会の“真っ当な”シスター達はすぐさま、教会を脱退。続いて、教会の魔術師達が本部はおろか、支部にもいないことが明らかになる。


 教会のシスター、ナッセは年長者であるカレラを見つめた。


「まさか、教会が魔窟だったなんて」

「神は本物ですよ、シスター・ナッセ」


 ナッセは決まりが悪くなり、話を変えた。


「オルクリィはどこにいるでしょうか? あの子のことだから、黒い化け物に襲われていないといいのですが」

「あの子なら、大丈夫でしょう」


 カレラが断言する。ナッセは意外に感じた。


「オルクリィは、そのぅ、あまり賢い方ではありませんでしたけど?」

「彼女は神に愛された者です」


 ナッセは目を丸くする。

 神に愛された者………つまり、魔術師。

 そんなそぶりは見せなかった。教会の魔術師はいつも傲慢で、シスターのことはいつも下に見ていた。


「オルクリィが?」

「本物の神に愛された、素晴らしいシスターです。少し、あれなところもありましたが」


 ナッセは彼女の言葉を思い出す。



『シスター・ナッセのように完璧な人間は羨ましいです』



 オルクリィは普通の人間だった。

 そうだ。最高神官も普通の人間でなければおかしいのだ。


「私、もう一度オルクリィに会いたいです」

「ならば、待ちましょう」


 ナッセは街を見た。

 黒い化け物は中央大陸にはいない。


「この街にいれば、彼女はきっと帰って来ます」


 ナッセは頷いた。

 オルクリィの無事を祈ることしか、自分にはできない。


   ○○○


 ラビットは飛び跳ねるように街の中を駆け抜けた。

 シャンカラの街には黒い化け物が跋扈し、逃げ場はなく、しかし地下街のお陰で死者もいなかった。


《すばしっこいの》


 ぶっきらぼうな声に、ラビットは足を止めた。

 そこにいたのは、ダルそうな目をした神だった。


「どちら?」


《…………神速だ》


「………………」


 神の名前にしては、あまりにも大雑把だ。

 普通、○○の神、と名乗るか神としての名前を名乗るのではないのか。


「神速様は、戦わないのですか?」


《ダルい》


 見た目通りの人物らしい。


「じゃあ、天界に帰ったらどうですか?」


《それはつまらない》


 ラビットはイライラし始めた。


「そう。じゃ、私は忙しいので」


《まあ、待て》


 神速はラビットの前に立った。

 瞬間移動だ。しかし、ラビットにはわかる。神速は、走って来た。


《俺の加護でもどうだい? 〈神速〉は大陸一周に1日もかからないぜ?》


 ラビットは顔を顰めた。


 この神は、自分の“神子”を探すためだけに天界から降りて来たのだ!


「いえ、私は」


《そういうな、ちっこいの》


 ラビットは神速を見つめた。

 魔術師になれば、北大陸の化け物を一掃できるだろうか?


「速いだけの、力ですか」


《そうだ。だが、一番強い。如何なる攻撃も、当たらなければ意味がない》


 ラビットの喉が鳴る。


「“神子”になったら、貴方を信仰しないとですよね」


 こんなだらけた神を信仰するのは、正直嫌だった。


《そうだな。信仰すれば、より強い力が得られる》


 ラビットは目を閉じた。

 今、必要なことは。


「わかりました。ください、それ」


 神速は笑うと、光の弾をラビットに持たせた。


《我が“神子”。名を聞こうか》


「ラビットです」


《ラビット。貴様をこれより、“瞬足の神”ラークの“神子”とする》


 それだけ言うと、神速は目の前からいなくなった。


 ラビットは唖然とする。


「名前、あるんじゃないですか………」


 ラビットはマスケット銃を握りしめる。

 まずは、北大陸の敵を全て殺す。

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