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怪盗は盗んだ宝と恋をする  作者: 野良猫氏
“神の涙”奪還編
35/42

“神子”同盟

 ロネシェは、ため息をついた。

 東への旅は疲れたし、王の命令はもっと疲れる。そもそも、自分は貴族の出身ではない。

 後宮の、妃に使える下女の一人に過ぎない。それなのに、なぜか“神子”と断言されて、パラライドの魔術庁へ編入させられた。

 それと同時に上級妃の地位も与えられ、国王との夜遊びに付き合わされることもある。

 当然のように行われるイジメと、過酷な任務。


 まさか、そんな中で東に派遣されるとは何事だろう。

 大口を叩いてはみたものの、胃が痛む。


「ロネシェ、大丈夫ですか?」


 織姫(おりひめ)が小声で尋ねてきた。


「平気です。ただ、平民である私としては、貴族である“神子”の相手はどうも苦手でして」

「それでも西の大国パラライドの“神子”なの?」


 悪事千里(あくじせんり)がボソリと呟く。

 ロネシェはひっと声を出しかけてなんとか押しとどめた。


「わ、私は平民です。勝手に“神子”認定された身としては、この立場には納得できません」

「せっかく“神子”に生まれたんだから、楽しみなさいよ」


 千里は呆れた声で言う。こちらを向いてもくれない。


百花繚乱(ひゃっかりょうらん)様を助ける手伝いができるだけでも喜ばしいことよ」

「私は助けたくて来たわけでは」

「ああ?」


 泰山北斗(たいざんほくと)がギロリとロネシェを睨む。

 すかさず依々恋々(いいれんれん)が口を挟んだ。


「やめてください。帰られたらどうする気なのですか」

「しかし、コイツは繚乱様を」

「馬鹿にはしてませんから」


 花鳥諷詠(かちょうふうえい)は申し訳なさそうにロネシェを見た。ロネシェは首を振る。


「西の“神子”は初めてお会いしたのですが、もっととっつきにくい方々なのかと思っていました」


 フォローに入るように、諷詠の妹の風月(ふうげつ)が話を振ってくれた。

 ロネシェは前を歩く東の“神子”を見て「ああ……」と納得する。


「西の“神子”はとっつきにくいですよ。私以外はかなり」

「そうなんですね」


 ロネシェはため息をつく。帰りたい。


   ○○○


 レウスは飛行船を操縦しながら隣でくつろぐニューズを睨んだ。

 クルルカの“御付き”らしいが、それらしい貫禄はない。ただの猫に成り果てている。


「何でこんな損な役割を」

「すみません、レウス様。ですが、リランを助けるためですから」


 レウスはため息をついた。

 全てニューズのせいだ。こんなにも損な役回りを受け入れることになるとは。


「帰りたい……」


 ロネシェと同じことを考えてしまっていた。


   ○○○


 “世界図書館”にて、客の気配に一人の少女が反応する。

 そこにいたのは、理性を失くしたドラゴンだ。


《愚かな》


 少女はそう呟くと手をかざした。

 ドラゴンは醜い悲鳴とともに、突然現れた鎖に繋がれ、檻へと入れられた。


 少女は持っていた本へ視線を戻すと、紅茶を一口含む。


「グル、ガァア!」


 檻の中でドラゴンが唸り声を上げる。少女は静かにそちらに視線を向けた。


《何がしたい? 私の読書時間を邪魔しに来たわけではあるまいな? “大地の神子”》


 ドラゴンが動きを止めた。ギロリと少女の方に視線を向けた。しかし、少女は動じない。


《答えよ。これは命令だ》


「帰リタイ……アノ、場所ニ」


 それは、昔と全く同じ願いだった。

 昔は断った。彼の地は化け物で溢れており、今のお前では生きていくことすら困難である、と。

 しかし、今はもう化け物はいない。けれど、きっとリランなりに許可が欲しかったのだろう。


《あの小さい小娘が大きくなったものよ》


 リランは静かに、少女を見ている。


《迎えが時期に来るだろう。しばし待たれよ》


 少女は本を読む気になれず、窓の外を見た。

 最後に下界に降りたのは、十年ほど前だったか。




 贔屓にしていた花鳥家の長女が教会に売られた。そして、その少女は命をかけて逃げ出したのだ。

 しかし、体は衰弱しており死ぬのを待つだけだった。

 さすがに目覚めが悪いと、死神を連れて行った。死神の依代に近くで死にかけていたドーベルマンを使った。


 そして、花鳥の長女は少女が責任を持って連れて行くことにした。“世界図書館”とは知らずに、花鳥の長女……風月(ふうげつ)は司書のようなことをするようになった。


「館長。これは?」


《北の地図ね。古いから、捨てていいわよ》


「古代文献じゃないですか。もったいない」


 少女は全て暗記していたが、風月はそうではなかった。何度も同じ本を読んでは理解を深めていく。

 そうして、“知識の加護”を持つに相応しい人間となった。


 時折、ドーベルマンと館内を駆け回っては叱られていた。彼女は薄々、少女の正体に気づいているようだった。

 しかし、同時に恐れていたのだろう。もし、秘密を明かしたら、行く宛が無くなるから。


 仕方なく、少女は助言を与えることにした。

 彼女の神らしく、知的に。


《北にシャンカラという街がある。そこに行って仲間を集めなさい。そうすれば、きっと貴女は幸せになる》


 しかし、風月は感情的だった。

 泣き喚いて、何度も首を横に振った。


 だから、仕方なく追い出した。“神域”に長くいると、碌なことにならないから。




「館長!」


 少女は振り返る。

 ほら、現にまたやって来た。本来なら、何日もかけてたどり着くべきである最奥の間なのに。


(わたくし)、幸せになれましたよ」


《そう》


 風月は笑う。後ろには、少女の“神子”と、他の人間が何人かいた。

 すぐにリランを見つけて走って行こうとする。しかし、さすがにそれは許さない。


《私の名前は“知識の神子”テオトール。ここを自由に歩いていいのは、私に挨拶した者のみです》


 本当に面倒だ。

 空から、また誰かやって来る。


   ○○○


 風月はその建物を見て息を呑んだ。諷詠が不思議そうに風月を見る。


「どうかしたか?」

「はい。ここ……いえ、そうですよね。だって、あの人は」


 風月は走り出した。

 他の者達も慌てて後を追った。


「風月さん、どうしたんでしょう」

「知るか。知ってる場所だったんだろ」


 葉月(はつき)の呟きに諷詠が答える。風月を見失ったら一生迷子になる気がする。

 “世界図書館”は壁も廊下も本棚で、司書と思わしきモンスターがいた。人間の姿は不気味なほどにない。そして、通路は迷路のように入り組んでいる。



 突然開けた場所に出た。

 しかし、そこにも無数の本棚がいる。


「繚乱様!」


 千里が叫んだ。

 鎖に繋がれて、檻に入れられている。暴れている様子はなく、静かに目を瞑っていた。

 急いで駆け寄ろとすると、風月が走って行った方にいた少女が立ち上がる。


《私の名前は“知識の神子”テオトール。ここを自由に歩いていいのは、私に挨拶した者のみです》


 少女はそう高らかに宣言すると再び座った。

 北斗の顔が赤くなるが、恋々がペシッと北斗の背中を叩いた。


「僕は花鳥諷詠。貴女様の“神子”です」


 諷詠は代表して、皆の紹介をした。

 テオトールは黙って本を読んでいる。


「以上です。どうか、繚乱様を救うことをお許しください」


《空の者達は紹介しないの?》


「そら?」


《“知識の神子”にしては力不足ね》


「申し訳ありません」


 テオトールは本を閉じた。


《“浄化の神子”と我が“神子”のみ、許します》


 葉月は恐る恐る手を挙げた。


「ここの本を眺めてもよろしいでしょうか?」


《知識への探究は喜ばしいこと。時間が許す限り、このフロアの書物の閲覧を許します》


 葉月は嬉しそうに立ち上がった。



 一方、ロネシェと諷詠は繚乱の入った檻の前にやって来た。繚乱は目を開けると諷詠を睨む。


「ほら、早くしろ」

「待ってください」


 ロネシェは繚乱に向かって手をかざす。魔力が流れ出て繚乱の中で暴れる魔力を鎮めていく。


「よし」


 諷詠も同じことをし始めた。〈能力複製(コピー)〉を持っているから、諷詠も繚乱のところへ寄越したのか。

 ロネシェはそんなことを考えながら、繚乱を癒やしていく。


 しばらくすると、繚乱は目を閉じてされるがままになった。


「そろそろです」

「みたいだな」


 繚乱が元の姿に戻った時、二人の魔力は空っぽになっていた。


「貴方がいてよかった。私一人では無理でしたね」

「こちらこそ、さ」


 すると、テオトールが歩いて来た。


「さあ、送ってあげなさい」

「どこへ」


 テオトールは一番大きな窓を見た。


「パラライドの飛行船です!」


《ここには入れませんから》


「はい! おい、お前ら! 行くぞ!」


 諷詠はテオトールに一礼すると、風月達を呼び戻した。


《諷詠。風月を頼みますよ》


「もちろんです!」


《いつも見ています。私の“神子”》


 テオトールは光の粒になって消えた。

 諷詠は別れが苦手なのだろうなと、考えた。きっと、何度もそれを繰り返してきたのだろう。


「神様も人間っぽいとこあるんだな」

「え?」

「何でもない。早く行こう」


 諷詠はロネシェにそう言うと、風月に帰りの道案内を任せた。

 本番はここからだ。

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