シャンカラと次への編成
俺達はシャンカラに帰って来た。皆んな難しい顔をしている。当然だ。
「懐かしいですね」
オルクリィはシャンカラ地下街を見ながら、嬉しそうに呟いた。
そして、険しい顔をしているラクルスを見た。
「この地下街の古代の遺産は貴方とクルルカ様が?」
「そうだ。魔神を倒す時に使うだろうからと、あの方が」
鈴音と神楽は明らかに落ち込んでいる。
まさか、目の前で主を奪われるとは思わなかったのだろう。“神子”を守る立場であるはずなのに、守られてしまった。これ以上の屈辱はない。
ちなみに、レディはアリスの〈不思議之国〉で治療され、生き残った。
今は味方でいてくれるらしい。今はもうない光天教の教徒としての立場から色々補佐をしてくれるそうだ。
「あの、風月さん」
鈴音が意を決したように口を開く。
「やはり私は、繚乱様の向かった東へ帰ります。北のリティア様はそちらにお任せいたしますので」
「駄目だ」
ラクルスが言った。
「俺達は帰るんだ」
「?」
「きっと、リティアも帰ったんだ」
風月がハッと目を見開いた。俺は思い出したように「ああ」と呟く。
「あの丘ですか?」
「“神木”の下に、俺とお祖母様の遺体がある」
ミーウが息を呑んだ。
「お祖母様?」
俺は首を傾げた。どうしてお祖母様なんだ? てか、お祖母様って誰。
「ルーセルの母、ライザは皇帝ミーウと光天教祖クルルカに拾われて養子になったハーフだ。つまり、俺は」
「そんなに偉い人だったの、ライザって」
リチャラが驚いたように言う。ラクルスは頷いた。
「運命の日、死にかけた俺を“神木”まで運んでくれたんだ。“生命の神”が、俺を治療してくれた」
「“神木”は神と対話ができるのか?」
「いえ、当時は普通に“神子”は神と対話ができました。ですが、そうですね。一般人である我々も対話できる可能性が高いです」
「お祖母様は、明らかに疲れた顔をしていたが、再び街に出て黒い化け物を殺し始めたんだ」
『陛下からの命令だから』
『もし全部全部殺したら、きっと陛下は帰って来てくれるから』
『大丈夫よ、ルーセル。貴方は私が守るから』
ラクルスは唇を噛んだ。
「結局、守られてたんだ」
「どうして、死んだんだ?」
ラクルスは顔を上げた。
「俺とお祖母様は、数百年、王朝の地下街に帝国と王朝の魔道具を運び続けた。技術が失われないように、書物も作った」
葉月がさりげなく一礼した。ラクルスはそれを見て頷く。
確かに、魔道具が無ければ、シャンカラ地下街は発展しなかっただろうし、風月やウラウネ達とも出会うことはなかっただろう。
「俺達は、待った。ずっと、ずっと。だけど、誰も帰っては来なかった」
『陛下はもう、この世にはいないのかもしれませんね』
いつの頃からか、クルルカはそんなことばかり言うようになった。そして、段々と弱くなっていったのだそうだ。
「俺も、リラン達は海まで逃げきれなかったのだろうと思った。オルクリィは多分無事だと思っていたが」
オルクリィは申し訳なさそうに俯いた。確かに、コイツがいなかったら、ルーセルは何の問題もなく“神木”まで行けた気がする。
「俺達は、滅んで森になりつつある国を見ながら毎日過ごした。もう話すことなんてないから、ずっと無言で」
それでも、クルルカは大事な孫を慰めてくれたという。ルーセルが生まれる前の帝国の話やライザの冒険譚なんかを聞かせてくれた。
何度も、何度も。
「そんな時、クリオネ様がやって来たんだ」
《あなたたちの遺体は我々が責任を持って守り続ける。安らかに眠れ。再びこの地に来れば、その身体、お返しする》
「え?」
俺達はラクルスを見た。
体を、返す?
「多分、リティアは“神木”に身体をもらいに行ったんだ。きっと、待ってる。あの丘の上で、あの街を見ながら」
ミーウが今にも飛び出しそうな顔をした。ラクルスはそんなミーウの手首を掴む。
「あそこに行けるのは限られてる。俺とミーウ、アリス、ルシェル、ローリエ、鈴音、神楽、それからウラウネ」
「私だけ仲間外れですか?」
「“知識の神”に会いたいなら、“神木”に行っても無駄だ。もう一つの“神域”に行って欲しい。知恵を貸してもらえ」
ラクルスはそうとう焦っているのか、口調がきつくなっている。しかし、それに対して風月は何も言わない。
「では、もう一つの“神域”とはどこにあるのでしょう?」
「“世界図書館”です」
後ろから声がした。
居残り組のローリエ達がやって来たようだ。
「オーリィが“神の涙”を作るために、“知識の神”を泣かせたと聞きました。“世界図書館”は、東大陸の上空にあります」
ラクルスは頷いた。
「おそらく、繚乱はそこに向かった」
「なぜ?」
鈴音が言う。
「それがわかれば、苦労はしないんだがな」
風月はしばらく考え込んでから頷いた。
「わかりました。お兄様と合流した後、そちらへ向かいましょう」
「私も行くわ」
「じゃ、私も。“世界図書館”って何か魅力的だし」
鈴音と葉月が手を上げた。
「一応、東の“神子”には声をかけましょう」
「じゃ、僕ら無能力者は留守番だねぇ?」
リチャラがおちゃらけたように言う。本当はついて行きたいんだろうな。
○○○
「集合感謝するよ、皆の者」
花鳥諷詠はぺこりと頭を下げた。
“毒の神子”、悪事千里。
“純愛の神子”、依々恋々。
“炎の神子”、泰山北斗。
東大陸に属する“神子”達である。
「何用か、花鳥」
北斗が口を開く。
虎のように大きな体には、歴戦で得た傷がある。
「そうよ。いきなり呼び出して……」
花鳥家と対立関係にある悪事家の“神子”、千里は顔を顰める。
こんなに嫌がっているのに来てくれた千里に諷詠は再び頭を下げた。
「実は、鈴音より連絡があった。繚乱様が大変なことになっているそうだ」
「あり得ません」
恋々が難しい顔をして言う。
「それが事実だとして、“御付き”がなぜ無事なのですか」
恋々は遠回しに鈴音を責めている。主が大変なことになっているのに、“御付き”が無事とはどういうことだ。命を賭してまで護るべきではないのか、と。
「ごもっともだ、依々」
「“御付き”を変えるから話し合いましょうってか?」
「違うよ、泰山」
諷詠はため息をついた。
「どうやら、“世界図書館”に繚乱様はいるらしい。迎えに行って、助け出すのが僕らの仕事」
諷詠はそこまで言うと目を逸らす。
「最悪、いと尊き我が主と戦うはめになるがな」
「「「……………」」」
最初に口を開いたのは千里だった。
「他に援軍は」
「我が妹と鈴音、それからシャンカラの研究員が」
「無能者か」
「ええ」
北斗は舌打ちをする。
すると、バンッと襖が開いた。
双子だ。やけに偉そうな顔つきである。その後ろには背の高い西の顔をした人間がいる。
「“神子”殿、ただいま戻しました!」
織姫と彦星。それが双子の名前だ。
“天空の神”に加護をもらい、星を読み取る魔術を使う。織姫は星から未来を読み取り、彦星は星から過去を読み取る。
西にいたはずだが、星を読んで帰って来たのだろう。
「そちらの人は」
「パラライド王国所属、“浄化の神子”ロネシェです」
「連れて来ましたー!」
諷詠はニヤリと笑う。
パラライドはとんでもない“神子”を隠し持っていた。
これなら、鈴音から聞いた“魔神の神子”の能力をほぼ無効化できる。
ルシェルが来るまで時間稼ぎをする必要はなくなった。
「頼みますよ、ロネシェ殿」
「ええ。“大地の神子”に借りを作って差し上げます」
冗談に聞こえないことを言って、ロネシェは優しく微笑んだ。




