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怪盗は盗んだ宝と恋をする  作者: 野良猫氏
“神の涙”奪還編
24/42

光天教祖 其のニ

 クルルカとオーリィは女の子と別れて、生命旅団探しの旅を再開した。


 クルルカは乗合馬車で隣町へ、そこで聞き込みをし、手がかりがなければ乗合馬車でまた次の町へと繰り返していた。


「このままじゃ、手がかりは何も掴めないな」

「………そうね。仕方ないわ」


 クルルカはため息をついて、乗合馬車の受付の少年に声をかけた。


「オルックル教会のあるハバネスまでどれくらいかかるかしら?」

「ハバネス? お姉さん、物好きだねぇ。あそこまでなら三日でいけるけど、特急を使うと速いよ」


 少年は余程ハバネスに馬車を出したくないらしい。

 パンフレットを取り出すと、一つの写真を見せた。


「この街で蒸気機関車の運用が始まってね。ハバネスの隣町に駅があるから、そこで乗合馬車に乗れば一日でつくよ」

「そう。ありがとう」

「にしても、オルックル教会なんて、存在しない神を祀ってる異教徒でしょ?」

「異教徒なのは認めますが、オルックル様は存在しますよ」


 少年は首を傾げてから、パンフレットをしまう。


「それじゃ、駅はあっちの方面で真っ直ぐですよ」



 オーリィは不信感を拭えなかった。


「クルルカ様。オルックル教会に何があるんですか?」

「生命旅団について、知ってそうな人物がいるのよ」


 オーリィは不満気に鼻を鳴らした。どうやら信じていないらしい。


 駅に到着した。発明者らしき人物が新聞記者相手に笑顔で応対している。


「あ、カーディー」

「誰ですか?」

「発明王を知らないなんて、クルルカ様は田舎者だなぁ」

「舐めた口効くとぶっ殺しますよ」


 クルルカはカーディーに近づいて行く。オーリィも乗り気らしくスキップしそうな勢いで後に続いた。


「ん? 君たちも蒸気機関車に乗るのかい?」

「カーディー。この蒸気機関車は魔力で動いているのですか?」

「ははは。さては魔術師だな? これは石炭で動いている」


 クルルカは顔を顰めた。


「石炭は有限ですよ」

「しかし、世界には腐るほどある。西大陸が大量に輸出しているだろう?」


 クルルカは近くの新聞記者からメモをぶん取ると魔術式を書き始めた。


「いいですか? 魔術だって石炭の代わりにはなります。エネルギーは有限ですが、魔力は無限です。つまり、コストも安くなり乗客も増えます。長期の運用も可能で、メンテナンスも簡単です」

「ほう」


 オーリィは嫌な予感がした。

 クルルカはこう見えて博識らしい。そして、光天教の教えには神の創造した世界を保護することも含まれている。

 環境に優しい都市計画は、今や光天教から大学などの教育機関にまで広まっているのだ。


「というわけで、どうでしょう?」

「魔導機関ねぇ。色々応用できそうだ。ありがとう。君の名前は? やっぱり、光天教?」

「はい。クルルカと申します」

「…………はい?」


 ガーディーはポカンと口を開けて固まる。二人の会話を聞いていた記者達も同様だ。

 クルルカはオーリィに合図すると歩き出した。


「次乗れるのが魔導機関車であることを、楽しみにしているわ」


   ○○○


 その頃、南大陸のリランと“水源の神子”ナーシィは南国料理を楽しんでいた。

 生命旅団の情報は最近のものでも三ヶ月前であり、既にこの地を去っていることが確定していた。


「どんどん食べてくださいね!」


 東大陸生まれらしい店員の小豆(あずき)は突然現れた女帝、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)に驚きを隠せずにいる。


「君も人気者だねぇ」

「そりゃそうですよ! 女帝と名高い()()さんがお忍びでうちに来てるんですから!」


 ナーシィは呆れた顔でリランに耳打ちをした。


「君の国はトップの顔も知らないのか?」

「トップの顔は見たら死罪なの」

「えぇ………」


 ナーシィは気の毒そうに小豆を見た。しかし、小豆はお構いなしに色紙を差し出す。


「中央じゃ有名人にサインという直筆の名前を貰うそうなので、ここは百花繚乱さんに初めてサインをもらった人間として名前を残しておきます!」

「………了解したわ」


 小豆は嬉しそうに目を細める。

 ナーシィは南国料理を口に運びかけて、そのまま固まった。

 目が細く、眼鏡をかけた少年が走り寄って来たのである。他でもない、ナーシィの御付き、レオパルドだった。


「やあレオパルド。元気かい?」

「な・に・を! していたのですか!?」


 リランは顔を顰める。ナーシィは東の女帝を不快にさせまいと必死でレオパルドを眺めた。


「ちと教会に頼まれてさ。暇潰しにはちょうどいいかなと思ってね」

「そちらの方も?」

「教会の崇める最高神なら、彼の行方を知っているだろうから」

「彼?」


 ナーシィは首を傾げた。リランに想い人がいるとはとうてい思えないが。


「それにしても」

「話を露骨に逸らすな」

「手がかりがなかったのだから、オーリィ達と合流した方がいいのでは?」


   ○○○


 オルックル教会にいたシスターはたったの一人だった。物寂しい教会は明らかに清掃されておらず、門の前にはゴミ袋が積まれていた。


「大丈夫か、ここ。仮にも、神を崇める場所だぞ」

「オルクリィ、いますか?」

「はいはい、いますよーってげっ!」


 シスターは警戒心を剥き出しにしてクルルカを睨みつけた。よく見ると背は小柄で耳は尖っている。長耳族(エルフ)だ。


山人族(ドワーフ)の妃が何故ここに?」

「てか、妃設定マジだったのか」

「設定言うな」


 シスターは不満気にクルルカを見つめた。


「何の用ですか、クルルカさん」

「生命旅団について知らないかしら?」

「ははは、知っていても教えるとでも? 異教排除組織の長がよくもまあこの教会に来ましたねぇ」


 クルルカは無言でオルックルの像を見上げた。その像だけは美しく輝いている。


「貴女が逃げ切れたのは、誰のお陰ですか? まさか、自力で逃げた、なんて言いませんよね?」


 オルクリィの嫌味が止まった。


「それ、無様に死んだ貴女が言いますか?」

「“魔神の神子”が生きている以上、殺さなくてはいけない。そして、油断させなくてはいけないのです、オルクリィ」


 オルクリィの瞳がかすかに揺れた。もうひと押しだ。古代文明を生きた者なら魔神の恐ろしさを理解している。


「その為に、“生命の神子”を殺すのですか?」


 クルルカはチラリとオーリィを見た。かなり厄介だ。しかし、“教会の忠犬”が裏切るとは思えない。己の心を殺して、敵を排除してくれるはずだ。


「構いません。“神子”は巡る者ですから」

「ならば」



 オルクリィが教えてくれたのは、にわかには信じられない話だった。


 生命旅団は、西大陸の果て、中央大陸の裏側にあるとされる裏大陸から来た黒長耳族ダークエルフの集まりらしい。


 邪神である、魔神の領土とされる裏大陸は“地獄”や“魔界”とも呼ばれており、表世界では敬遠されがちである。

 そして、生命旅団はそんな魔界で、“生命神の加護”を授かった“神子”を祀り、魔神の支配が及ばない表世界へと進出した集団をいうらしいのだ。


 クルルカとて、前世に一度だけ裏大陸に行っただけで、詳細は知らない。ただ、人の住める土地とは言い難く、『強い生き物が生き、弱い者は死ぬ』という普遍のルールしかそこにはなかった。


「もしそうなら、やはり駆除しないとですね」

「魔神から逃げて来たのに、手を差し伸べないの?」

「甘いですね、オルクリィ」


 クルルカはオルックルの像を見た。


「幸せになるのは、死んでからでも遅くないのです」

「俺は反対だ。神の名の下に保護すべきだ」

「………それを、教会が許すと?」

「大神官様は神の使いだぞ」


 オルクリィとクルルカは顔を見合わせた。

 おそらく、オルクリィも大神官の正体を察している。故に、そんな彼が狙う生命旅団を守ろうともしている。


「クルルカ」

「残念だけど、何度でも言うわ。エルフの名を冠する生き物は信用できないし、彼らには死んでもらう。幸せになるのは、死んでからでも遅くない」


 クルルカは淡々と告げる。


 かつての自分が、死ぬ間際に大切な者に気付き、死後の世界で“天空の神”に言ったように。


『人は死んで初めて、己の幸せに気づくのですね。神様、私の信徒達をどうか幸せにしてください』


 神は全ての者に等しく幸せを与える。


 そう、死んだ後に。

リティアとは思えない過激さ

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