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怪盗は盗んだ宝と恋をする  作者: 野良猫氏
地下街の魔術師編
19/42

特殊な人

 オルクリィは特殊な人間である、という自覚がある。


 魔術師でありながらそのことを隠し、教会と敵対しながらも、教会にいる。


 今日も今日とて、修道服を着て神に祈りを捧げる。


『オルクリィ! お前、何やってんだよっ』


 オルクリィは昔からポンコツだった。

 長い間、一人で生きてきたくせに、何もできないで周りの足を引っ張ってきた。

 そんな彼女は、当然のように出会いの数だけ見捨てられてきたのだ。

 たった一人のお人好しを除いては。



「シスター・オルクリィ。今日の洗濯物は?」


 リーダーであるシスター・カレラが、庭で日向ぼっこをしていたオルクリィに声をかけてくる。


「干しましたよ?」

「ちょっと来なさい」


 シスター・カレラはオルクリィの首根っこを掴んで引きずり始めた。

 向かうは洗濯場だ。



「これ。洗ったのはわかります。ちゃんと絞ったのですか?」


 オルクリィは干されたシーツの下にできた巨大な水溜まりを見る。


「これでは乾いても泥だらけになります」

「絞ったのですけど………」

「貧弱な! シスターらしくもない!」

「私は、ただのシスターですよ。非力でも、神は平等に私達を見守ってくださっている。それでいいではありませんか」


 シスター・カレラはオルクリィを睨んだ。


「シスター見習いに降格しますか?」

「私はもう三度も見習いを体験しています! そこらの見習いよりもベテランですよ!」


 カレラはついにオルクリィに拳骨を落とした。

 そして、近くにいたシスターの一人に声をかける。


「シスター・ナッセ。オルクリィを反省室へ」

「わかりました」



 オルクリィはナッセを見る。

 東の血が混じっているのか、美しい黒髪黒目の美少女。

 常に無表情で、完璧な仕事は一定の評価がある。


「シスター・ナッセのように完璧な人間は羨ましいです」

「そうですか。私は、シスター・オルクリィが羨ましいですよ。ここのシスターはほとんどが孤児ですから。自ら志願してきたオルクリィは、その、なんというか……」


 オルクリィは首を傾げた。


「もう反省室ですね」

「! そうですね。では、反省してください」

「はぁーい」


 鍵が閉められる。

 部屋には、足元の格子からくる微かな光だけが残る。


「さぁ。祈りましょう。我が神、オルックル様に」


   ○○○


 シャンカラの街は、“大地の神子”の力によって一晩で修復された。


 葉月はづきは、そんな地面を軽く叩いて強度を確かめていた。


「何をしているんだ?」


 朝の散歩中らしきルシェルが近づいて来る。

 葉月はシャンカラの技術班で、シィーパと同じく地下の遺産を研究している。


「魔術的な強度が知りたいのです。ルシェル、使ってみてくださいよ」

「壊れたらどうすんだよ?」


 葉月は真顔で地面を見る。

 瓦礫も昨日のうちにシャンカラ構成員が全て片付けている。


「そうですね。どうしましょう」

「おい」


 ルシェルのことはお構いなしに、トンカチを取り出して地面を叩く。


「ふむ。通常の地面よりも硬いですね。さすがは“神子”」

「おまっ、いい加減にしろよ。早起きしてやることがそれか?」


 葉月は若干呆れ顔を作ってルシェルを見る。


「ルシェルこそ、愛しのローリエと遊ばないのですか? 今頃寂しい想いをして朝ごはんを待っていますよ」

「余計なお世話だ」


 ルシェルはイライラしたように歩き去る。

 はっとして振り返った。


「お前、絶対に壊すなよ!」


 葉月は肩をすくめて、地面に手を置く。

 懐からとある機械を取り出した。古代の遺産で、地下の龍脈を探知するものだ。

 魔力を含んだ龍脈は世界中を流れており、葉月は魔術師が魔力切れを起こした際に、龍脈の魔力を使えないかという研究をしていた。


「やはり、流れていますか」


 “大地の神子”の作った大地に、今までは存在しなかった龍脈が現れている。

 これは、参考にも聞きに行った方が良さそうだ。


「“神子”が先か龍脈が先か問題の訪れですね」


   ○○○


 ラクルスは欠伸して、隣で寝息を立てている人物を見つめた。

 滑らかな肩のラインを目で追って、ラクルスはゆっくりとベッドから出る。


 バスルームに向かってシャワーを素早く浴びる。

 シャンカラでは水が貴重である。

 雪解け水を地下のタンクに大量に貯めて、常に温めているものを使っているからだ。

 海水をどうにかして水にかえる研究をしているが、未だ成功していない。


 バスルームを出て服を着ると、家を出ようと扉を開けると………。


「…………葉月か」

「ラクルスのところに、“大地の神子”がいると聞いて。お話を聞きたいのです」

「残念ながら、まだ寝てるぞ」

「昨日の攻防戦が厳しかったのですね」

「…………魔力戦の方だと受け取っておこう」


 葉月はラクルスの口調を嫌がらない、シャンカラ構成員でも珍しい部類の人間である。

 故に、こんな朝早くからラクルスの部屋にやって来られるのだろうが。


「では、いつならいいですか?」

「起きたらお前の部屋に連れて行くよ」

「いえ、できれば研究室の方へ」

「? 了解した」


 葉月は満足そうに頷いて、去って行った。



 ラクルスはそんな背中を見送って、風月の部屋に向かおうとしたがやめた。

 流石に殺される気がした。誰に、とは言わないが。

 仕方なく、リチャラの部屋に向かう。


 仕事の話をしなければならない。

 遊んでいる時間はないのだ。


「起きているか?」

「はいはーい」


 すぐに扉が開く。


「彼女さんは?」

「寝てる」

「置いて来たのかよー?」

「うるさい。仕事人間が一々朝の時間を」

「あーはいはい。これ以上はよくないっす」


 リチャラは机の上に置いてあったパンを急いで詰め込むと、近くの世界地図を広げた。

 もうすでに多くの書き込みがされており、買い替え時だということが一目でわかる。


「今回の仕事は、聖教会が例のものを手に入れていないかを確かめる。オーリィが作り、ルシェルが盗み、ウラウネが売ったお宝、“神の涙”」


 ウラウネが売らなければよかった話なのだが、その“神の涙”がかなり重要だとわかったのは売った後だった。


 “神の涙”は魔力さえ注げばオーリィの魔法〈能力捕縛(スキルロック)〉を使用可能にできてしまう。

 もし、不意をついて誰かを封印し結晶を割れば、中の魔術師は絶命してしまうらしい。


『回収は必ず、無能力の方にして下さい。その上で壊して欲しいのです』


 そう繚乱(りょうらん)は言っていたが。


「ボクらで回収して、保管する。最終決戦で最高神官をいい感じに閉じ込めて叩き割るんだ」


 それが、リチャラの目的である。

 リチャラは聖教会を嫌っている。彼の原動力は復讐だけだ。


「協力者はどうする?」

「どっかで見つければいい」


 リチャラは中央大陸に示された赤い点を見つめる。

 他でもない、教会本部の所在地だ。


「ここに行くよ」

「そうだな」



 ラクルスは船の上から北大陸を眺めた。

 結局、繚乱には何も言わないで出てきた。


 風月は仕事の依頼をした張本人なので知っているが………。また喧嘩をしないか心配である。


「そんな顔すんなよ。いつだって、仕事は成功したじゃないか」

「だが、本部に行くのは初めてだぞ」

「大丈夫。ボクらは魔術師じゃない。警戒なんかされない」


 リチャラは自信ありげに言う。

 ラクルスは頷く。


「そうだな」


   ○○○


《我が愛しの“神子”よ。これより、敵がそちらに参るぞ》


   ○○○


《…………動かぬ時はもう要らぬ。動きなさい。ライザの息子が来ます。あの時の恩は忘れていませんね?》


 ゆっくりと目を開ける。



『ポンコツ! 僕の命は絶対に無駄にするなよな!』


 最後の逃走通路であった、中央大陸へ繋がる地下洞窟。

 “神子”の御付きだった青年は、他の“神子”であった少女が逃げ遅れていることに気づいた。

 共に逃げることはしなかった。


 彼は、少女がドジでノロマだと知っていたから。


 少女が通路を走っていくのを見ると、通路の入り口を破壊して封鎖した。


 黒い怪物は、もう追っては来なかったけれど、入り口から青年の悲鳴が微かに聞こえた。



「もちろん。戦闘で足手まといにはなりません」


 少女の名はオルクリィ。


 “時間の神子”と呼ばれる永遠なる存在である。


葉月のことは忘れてません!

繚乱にはちゃんと書き置きが残されています!

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