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怪盗は盗んだ宝と恋をする  作者: 野良猫氏
地下街の魔術師編
16/42

北東同盟

「北の魔術組織はシャンカラ地下街だけ」


 リチャラは考古学者の娘、シィーパに言った。

 まだ幼い彼女は、難しい話はわからない。けれど、何故か考古学者である。

 魔術に関しての知識だけは、誰よりも長けている。

 まだ幼いため、今後魔術の才能を開花させる可能性もあった。


「それはつまり、大陸の代表組織であるということでもあるの。わかりやすいのは、東大陸かな」


 シィーパはリチャラの話を聞いていない。

 地下で見つけた古代の魔道具をいじっている。


 リチャラが頼んだ代物だ。

 これは彼女にしかできない。


「でも、ボク思うんだよね。大陸の代表組織って言う割には、話し合いの場とかないじゃん?」


 シィーパはやっと顔を上げた。

 幼いくせに妙に大人びた目をしている。


「いつのための、代表なのかなーって」

「決まっているでしょう」


 シィーパは最終確認を始める。

 ゆっくりとそれを持ち上げ、引き金を引いた。


 弾丸がリチャラの横を通り抜けて、壁に飾ってある世界地図のど真ん中を撃ち抜く。

 そこに描かれてあるのは、中央大陸。


「戦争のための。代表組織の意志が、大陸の意志。そこに雑魚の介入は関係ない。私達の勝敗が大陸の勝敗になるのです」

「シィーパって、本当は頭良いでしょ?」

「この対魔導ライフルで、敵の頭でもぶち抜いて来てください」

「もう来るなって言ってる?」

「研究には時間が必要なのですよ」

「はいはーい! じゃあ、ボクはこれで!」


 リチャラは逃げるように部屋を出て行く。


 扉を閉めた音を聴くと、シィーパは地図をしまう。


「世界は決して、一つにはならない」


 本を開く。太古の魔導書だ。


「決して」


   ○○○


 俺達は“大地の神子”、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の目の前に座っていた。

 朝飯にと用意された美味そうな料理の数々。

 真顔で詰め込んでいるラクルスは大物だと思う。何故か繚乱の隣を陣取っているし。


 そんな無礼なラクルスを気にしているのは、どっかで見たことがある諷詠(ふうえい)という名前の男。

 “知識の神子”というらしく、能力は不明。

 しかし、知識の系統はやっかいだ。風月(ふうげつ)の能力も地味に強いし。

 それの親玉の能力なのだから、警戒しないほうがおかしい。


「同盟に関する返事はすぐに出せとは言わない。俺達は東と敵対したくないだけだ」

「質問ですが、“神子”はいますか?」

「敵対しないとは思うが、教えるメリットはない」


 俺が思ったことを、ラクルスは横から言う。

 諷詠と鈴音(すずね)が目を吊り上げたが、繚乱が手で制した。


「確かに。では、私の方から教えます」

「「え」」

「私達の陣営にいる“神子”は大地、毒、知識、純愛、空間、そして炎の六人になります」

「多いわね、やはり」


 アリスが呟く。

 “空間の神子”って………。


 俺は鈴音を見る。涼しい顔だ。

 護衛をしてるくらいだし、普通の魔術師ではないとは思っていたけども。

 俺が知らない神子が後二人いるのか。


「さすがに俺達が言わないわけにもいかないな」


 俺はそう言って、指を二本立てる。


「天空とあとはわからん」

「“天空の神子”は教会にいたはずですが?」

「そうですよ! 警戒してた俺が馬鹿みたいだ!」


 繚乱とラクルスが仲良く講義してくる。

 諷詠は「敬語使えるのかよ………」とブツブツ言ってる。ここは無視でいいな。


「ウチの放浪野郎が拾った」

「わからない方は?」

「“大天災”だ」


 繚乱はニヤリと笑う。

 やはり年寄りはそんな昔の魔術師の能力も知っているのだな。確かに、繚乱はその頃はすでに東の長だった。


「彼女は“生命の神子”。この世界で唯一、回復を司る魔術師です」


 繚乱はちらりと俺を見る。

 これは、あれだな。俺とアリスの能力を知りたがっている。


「俺の能力は〈能力解除(スキルキャンセル)〉。こっちのアリスの能力は〈不思議之国(ワンダーランド)〉」

「え?」


 繚乱が固まる。

 どうしたんだろう?


「説明しますね。まずは、ルシェル。あなたの系統は決して与えられないものになります。その神の名は死神。能力干渉を可能にするただ一柱の神です」


 そうなのか?

 でも、“大賢者”オーリィの能力も似たようなものだったはずだ。


「オーリィの〈能力捕縛(スキルロック)〉のことを考えてます? あれは、本当に珍しかったのですよ」


 しかし、オーリィは“神子”ではなかったはずだ。

 俺も“神子”ではない。それなのに、珍しいのか? 確かに、今まで一度も同系統の魔術師を見たことはないが。


「死神は一千年に一度だけ、たった一人に祝福を行います。今回は、あなたのようですね。教会側でなくてよかった」


 繚乱の安堵の声にラクルスが不思議そうに俺を見ている。

 確かに、魔術師でない者からすれば、魔術を消すだけの能力なんて意味がないものだ。

 魔力が流れている分、ラクルスみたいなライザ流には美味しい獲物にしか見えないだろう。


「死神の祝福を受けた人間がいるのなら、我々はシャンカラと敵対する意味はありません。同盟はお受けします」


 なんか知らないが、味方になった。


「あの、私は?」

「ああ」


 アリスの質問に繚乱は笑顔で言う。


「あなたに祝福を与えたのが、遊戯の神クリオネ様だったので。教会が強く出れないと思いまして」


 なるほど。

 確かに、言われたら納得できる。


 〈不思議之国〉は明らかにお遊びの能力だ。

 それでいて凶悪で強暴。


「“遊戯の神子”は強いんじゃないか?」

「いや」


 ラクルスが繚乱が答えるより早く俺に言う。


「最高神は“神子”を作りません。これは神の掟です。一柱(ひとり)の神が二人の神子を持たない、みたいな」


 諷詠は相変わらず、「繚乱様には敬語を使わないくせに」とラクルスを睨んでいる。

 ラクルスの場合、敬語ではない方が親しみを込めているのだが、常人にはわかり難いからな。


「へぇ。私、凄いんだぁ」


 アリスは嬉しそうに言う。

 俺は諷詠を見た。


「同盟を組むんだ。お前の能力も教えてくれないか?」

「ふん。僕の能力は〈魔術複製(コピー)〉だ。君の〈能力解除〉だって僕になら一瞬でコピーできる」


 恐るべし、“知識の神子”。


「すげぇな」


 アリスの〈不思議之国〉やリティアの〈天空操作(スカイオペレッタ)〉もコピーできるってことだろ?


「まぁ、同時にコピーできるのは二つまで。しかも、適応範囲やら時間制限やらがあってかなりシビアな能力なんだけどね」


 諷詠以外が持っても使いこなせない可能性が高い。

 風月や神楽ならなんとか使えるかもしれない。



 そんな風に、お互いの勢力について語り合いながら、夜はふけていった。



 そして、俺達は帰路につく。

 結局、目的は果たせなかったが、それ以上の収穫があった。

 しかし、問題なのは。



「なんで“大地の神子”サマがついてくんだよ」

「私だって止めましたよ! お願いです、説得してください!」


 鈴音が必死な顔で俺に言う。

 繚乱は笑いながら、海を眺めていた。


「だって、ラクルスがいるのに一人悲しくお留守番なんてできないでしょ。どちらにしろ、魔術師を一人派遣する予定だったのだから、手間が省けていいじゃない」

「省き過ぎなんですよっ! オーバーキルなんです!」


 鈴音、南無阿弥陀。


 ラクルスは、繚乱の横顔を見つめてため息をついた。


「鈴音さんがいるなら、東にはすぐに戻れるのだし別にいいんじゃないか?」

「そうよね!」


 今の繚乱を教会が見たら、なんと思うだろう。

 あんだけ、老獪で用心深く、尚且つ最強と名高い魔術師の親玉が、たった一人の男に………。


「ただし、俺の家には入れないからな」

「え?」


 ラクルスは嫌そうな顔で続ける。


「散らかってるし、たまに不法侵入してくるやついるし」


 リチャラとかいう奴だな。

 風月もいるな。


 風月?


 あ、あいつ。昔、ラクルスに……。


「………………絶対に風月さんにだけは会わせないようにしないと」

「そうだな。あいつが死ぬ」

「風月、って言った?」


 繚乱が目を丸くしている。


「知っているのか?」

「知ってるもなにも………風月は」


風月は……?

まぁ、伏線はりまくったし、わかる人にはわかる。

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