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怪盗は盗んだ宝と恋をする  作者: 野良猫氏
地下街の魔術師編
15/42

諷詠

「話があります」


 そう言って、“大地の神子”は俺達の前に座った。


「な、何の?」

「シャンカラにライザ流という剣の流派を使える者はいますか?」


 俺とアリスは顔を見合わせる。

 ラクルスは確かに使えるが、“大地の神子”の知り合いとは思えない。人違いとも言い難いが。なにせ、ライザ流を使えるのは現代ではラクルスただ一人なのだ。

 しかし、それを簡単に教えるわけにはいかない。

 ラクルスはうちの幹部。最強クラスの戦闘員だ。現在も、教会に潜入している。失敗したらあっさり帰って来るだろうが。


「確かにいるが、戦力の情報を簡単に渡すとでも?」

「何を!? 無礼な!」


 鈴音が俺に向かって叫ぶ。

 しかし、“大地の神子”はそんな鈴音を諌めた。


「相手を怒らせるのは得策ではないわ」


 “大地の神子”は俺達を真っ直ぐ見つめる。

 悪意はなさそうだな。ラクルスを組み込みたいとも思っていなさそうだ。

 それでも。


「俺達は、シャンカラを担う魔術師だ。お前の知りたがっている“ライザ流”も俺達の大事な仲間だ。俺はまだ、お前を信用できない」


 名前も知らない“大地の神子”に重要な戦力を渡せない。


 その時、ザザーッ!と襖が開いた。

 立っていたのは、どこかで見たことがあるようなないような青年。


「繚乱様ー! 港で千里が教会の追手に襲われています! えっと、なんか、強そうな少年も一緒です! 二人で馬鹿みたいに無双してるらしく、問題になるかもー!」


 無礼な奴だな、この男………。

 “大地の神子”は呆れた顔でその男を見る。


諷詠(ふうえい)。その……今は大事な話の最中でして」

「わかっています! ですが、港にいるのは“ライザ流”なのです! 魔術師が阿保のごとく死んでいます!」

「「…………………え?」」


 俺と“神子”の声が重なる。

 ラクルス? 何をしたんだ!?


   ○○○


 ラクルスは舌打ちして教会の魔術師をまた一人殺す。

 東大陸の港にはもはやラクルスと千里、魔術師しかいない。どうやら、逃げたらしい。

 ラクルスは低く唸ってから、魔術師に問いかけた。


「逃げないのか?」

「お前の正体を知るまでは」

「…………ただの貧民だ。俺は、ただの………」


 ラクルスの脳裏にナーヴェの姿が浮かぶ。普通ではない。普通の貧民は神の夢など見ない。

 ラクルスはそれでも、普通の貧民だ。お金持ちにはなれないし、きっと好きな人なんてできないだろう。

 幼い頃、よく見た夢を憶えている。

 少女と少年の淡い思い出。結局、少年は死んでしまった。あの少女に会いたくてたまらなかった少年は黄泉の国で死神に頼んだ。


 転生させて欲しい。また、彼女に会った時、彼女のことを思い出してまた愛せるように。


「俺は、死ぬわけにはいかない」


 少年は自分だ。ラクルスはそう思っている。

 では、少女は? きっと、大昔の話だ。生きているわけがない。それでも。


「あの子に会うまでは」


 ラクルスは、魔術師に言う。

 放つのは、殺気。魔術師は怖気付く。それでも、ラクルスは剣を振るった。

 血が舞う。


「ラクルス!」


 聞き慣れた声がした。よく、愚痴を聞いてくれる優しい上司の声だ。

 振り返る。見慣れた上司の奥にいるのは。


「…………リラン?」


 直後。物凄い頭痛がして、ラクルスは意識を失った。



 ラクルスは目を開ける。

 目の前にいるのは、黒いマントに身を包んだ人物。


《愚か者が。夢を見ると酷い目覚め方をすると言ったであろうが》

「…………すまない」

《ふん。ルーセルと違って口が悪い》


 ラクルスは顔を顰めた。

 ルーセルと一緒にしないで欲しい。彼はどちらかと言えばお金持ちの生まれだ。

 今更性格を変えるつもりはない。相棒(リチャラ)をこの口調が気に入っている。もちろん、自分もだ。

 昔は不良のようになれなかったので、今は楽だ良い。


「リランが東大陸の“大地の神子”だったなんて」

《魂は等しく、系統も等しい。三柱の神子ならば尚更だ。お前は無知過ぎる》

「魔術師なんて、皆んな一緒だ。俺は“神子”に会ったらまず逃げる。戦う必要なんてないからな」

《その部分においては賢いと言えよう》


 ラクルスは死神を見た。


「そろそろ帰っていいか?」

《……………では、一つ》


 ラクルスは首を傾げる。死神がお願いをするのは珍しい。


「なんだ?」

《諷詠という男には注意せよ》


   ○○○


 リチャラは、シャンカラ地下街の構成員が多く住む“エリアC”の自宅にいた。

 飼い猫のマーマラーに向かって無気力に猫じゃらしを振る。


「リチャラー? 今暇ー?」


 風月(ふうげつ)。シャンカラ地下街の数少ない魔術師で、情報屋である。

 人見知りの激しいマーマラーはベッドの下に逃げて行った。


「ごめんなさいね、猫ちゃん……」

「いいのいいの。ただの居候だし。非常食だし」

「フシャー」


 風月はベッドの奥の猫を気の毒そうに眺めて、リチャラに視線を移す。


「実は、ラクルスが教会を出たようです」

「ホント!? やったー! また一緒に仕事できるじゃん」


 風月は深刻そうにリチャラを見る。


「どうやら、彼は“猛毒の神子”を連れて東大陸へ向かったようでして」

「…………確かにまっずいね。“大地の神子”の庇護下にある東はラクルスにはちょっと厳しいかも」

「やはり、西の戦場にいたあなたでも、そう思いますか?」

「……確かに、東の武器も戦い方もやっかいだけど、それ以上に魔術師が手強い。ボクほどの天才でなければ、普通に死ぬ」

「なら、ラクルスは大丈夫なのでは?」

「ラクルスの持つ、西の武器は確かに東の武器より重くて威力が高いけど、速さが足りない」


 リチャラはもどかしげに風月を見た。


 風月は首を横に振る。


「行くことは許さない。東にはルシェルもいるし、大丈夫」

「東の生まれなんでしょ? なら、相手の魔術くらい知ってるんじゃないの? ルシェルに教えた?」


 風月は目を瞑る。


「教えたところでどうにもならない。“知識の神子”の能力は、格別」


 その者の名は、花鳥諷詠(かちょうふうえい)

 能力は、〈能力記憶(コピー)〉。


「彼なら、ライザ流すらもコピーします」


   ○○○


 ラクルスは瞼をゆっくりと開けた。

 東ならではの木の天井が見える。そして、近くには、実力者の殺気。しかし、人工的だ。ラクルスを挑発している。

 おそらく、“大地の神子”に相応しいか、否かを知りたがっている。

 剣を握って、相手に向けて振るう。


「い、いきなりかよっ!」

「お前が諷詠か?」

「知ってるの? もしかして、神の御告げかい?」


 相手も剣を握る。

 魔力が多い。“神子”である可能性が高い。


「ライザ流、使わないの?」

「お前の能力が未知数だからな」


 諷詠が舌打ちする。

 強奪か、もしくは反映系の魔術を使えるのかもしれない。となると。


「“知識の神子”か」

「凄いな。それが、北の人間の特技か?」


 正確には、ルーセルの特技である。ラクルスの特技ではない。しかし、使えるものは使う。


「知りたいんだろ? 俺が“大地の神子”に相応しい人間か」

「そうだね。ついでに、同盟を組むに値するか」 


 二人の剣が交わる。

 諷詠が使っているのは、東の剣だ。確か、“刀”という名前だったか。

 剣よりも軽くて鋭い。速い攻撃をうてる。

 しかし、横からの攻撃に弱く、それがわかれば壊すのは容易い。


 ラクルスは諷詠を蹴り飛ばし、窓の外へとばす。

 二階だったらしく、諷詠は池に着地した。どうやら、そこまで深くないようだ。

 ラクルスも窓から飛び降り、諷詠に斬りかかる。


「そんなに、繚乱様が欲しいのか?」

「俺を欲しがったのは、どっちだ?」


 その言葉を、繚乱への侮辱と受け取ったのか、諷詠は更に攻撃の勢いを強める。

 しかし、ラクルスは軽くそれをいなす。


「やめなさい!」


 諷詠は動きを止めたが、ラクルスは渾身の蹴りを諷詠に放つ。


「ぐっ! 貴様!」


 ラクルスは涼しい顔で、繚乱を見た。

 繚乱は険しい顔で諷詠を見ている。おそらく、ラクルスに不意をつかれた彼を憐れんでいるのだろう。


「久しぶり、それともはじめましてか」

「久しぶりの方でお願いするわ」


 ラクルスは頷いた。

 剣を床に置いて、攻撃の意志が無いことを示す。


「まずは感謝を。千里を連れて来てくれて」

「当然のことをしたまでだ。東を敵にするのは、得策ではないのでな」

「無礼な!」

「お前に言われたくない」


 ラクルスはため息をついた。

 繚乱は難しい顔でラクルスを見ている。


「同盟の話なら、俺にはするな。あちらにしろ」


 ラクルスは後ろを指差す。

 そこにいたのは、ルシェルとアリス。そして、ドーベルマンのベルーガだ。


「“大地の神子”、百花繚乱様に、同盟を申し込む」


 ルシェルは繚乱を真っ直ぐに見つめてそう言った。

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