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怪盗は盗んだ宝と恋をする  作者: 野良猫氏
地下街の魔術師編
14/42

対魔術師

 ラクルスは現在、食堂にてシャンカラ地下街の相棒について考えていた。

 綺麗な黒髪と青い瞳。灰色のパーカーに黒い短パン。一人称はボクで、女の子なのか男の子なのかよくわからない見た目。

 年齢はおそらく、二十手前。


「どうした、ラクルス?」

「親友のことを考えてた」

「つまり、俺のことだな!」

「北大陸に置いてきた親友だよ。僕の一番の理解者だった」


 リチャラは優しくもないし、慈悲深いわけでもなかったが、ラクルスにとってはどうでもいいことだった。

 嫌われ者の自分と、他とは組めないリチャラ。

 コンビとして活動していたあの頃は、とても気楽で楽しかった。

 今のように、いつバレて殺されるか、心配しなくてよかった。


「そっか。そいつに、手紙出したら?」

「………手紙?」

「金はかかるけど、安いし。届くのは、時間はかかるけとさ。ラクルスは家族とかいないんだろ?」

「手紙……。でも、お金どうしよう?」


 クレスは、しばらく考えてから指を鳴らした。


「そうだ! 週末にできる仕事を貰いに行こうぜ」

「貰いに?」

「職員室の前の掲示板に街のバイトが貼ってあんの。それに応募すれば、週末に銀貨一枚は稼げるはずだ」


 ラクルスは目を輝かせる。

 蓄えは全て地下街に置いて来たし、お金を稼げるなら今のうちに貯めていてもいい。


「行こう!」



 職員室前は、人が少なかった。

 バイトの募集要項は様々であった。


 時節、職員室に入る教師達が感心したようにラクルス達を見て頷く。


「どれにする?」

「これ」

「げっ………」


『異端魔術師退治:報酬銀貨五枚。

 詳細:街に住む“魔女”の捕縛求む。居場所不明、能力不明』


 一番報酬額が高いものだ。

 クレスは、ぞっとしたようにラクルスを見る。


「馬鹿か!? 相手は異端魔術師、俺達には無理だっ!」

「限界を決めるとそれ以上進めないぞ。僕は、そういう人にはなりたくない。限界を決めると、いざって時に本気が出せないからね」


 そう言って、ドヤ顔でクレスを見る。クレスは一瞬だけ笑った気がした。

 ラクルスは紙を掲示板から取って、職員室の扉を叩く。


「これ、お願いします」

「お、お前ら………」


 ルート・オーソンは遠い目をしてラクルスを見た。

 クレスはブンブンと首を振ってラクルスを睨んだ。


「こいつです。俺は止めたんすけど」

「勝てます。僕じゃ実力不足ですか?」

「そうは言ってないが。対魔術師戦の訓練を受けていないだろう?」

「……………まあ」


 ラクルスはシャンカラでしごかれているので、訓練は受けているのだが、それを言うと怪しまれる。

 迷っていると後ろから声がかかった。


「あら、先生」

「!! “猛毒の神子”様。どうかなさいましたか?」


 “猛毒の神子”はラクルスをじっと見つめる。

 ラクルスはドキドキして成り行きを見守った。バレたらやばい。相手は最大派閥の一つである東大陸の人間だ。

 教会とは別の意味で面倒な相手である。


「い、いえ。“神子”様には関係のないことです」

「気になるわ」

「………バイトで魔女を倒そうとしているのですよ。この馬鹿な生徒二人は」

「俺じゃね………ないです」


 クレスは頭をボリボリと掻いてため息をついた。


「あたしも行くわ」

「へ?」


 ラクルスは目を見開いた。

 なんてこった! このままでは、ライザ流が誤魔化せないではないか!

 これでは、“計画”が失敗してしまうかもしれない。

 かくなる上は、“神子”を………。


   ○○○


 “猛毒の神子”、悪事千里(あくじせんり)は、主である百花繚乱(ひゃっかりょうらん)からとある命令を受けていた。

 シャンカラ地下街、騎士団、そして、ライザ流。

 これら全ての特徴を持つ人物を探し出して連れて来いというものだった。

 どうやら、“武神”の加護を持っている可能性があるという。


 千里が真っ先に思いついたのは、神の夢を見るというラクルスという青年だ。

 全ての理を理解した聡明な瞳と、“神子”の能力が効かない謎の体質。何より、隙のない足取りに常に周りを警戒する強い警戒心。

 何かを知られるのを恐れているような立ち居振る舞い。


 千里はすぐに行動に移した。

 繚乱に認めて貰えれば、自分を甘く見ている東大陸の貴族達を、何より、対立関係にある“花鳥(かちょう)”の一族に強く出られる。


 千里は没落貴族と呼ばれていた“悪事”の一族に生まれた。

 “神子”であるが為に、救いの子と呼ばれ繚乱に仕えさせ、取り入るための道具として育てられてきた。

 そんな千里の当たり前の常識を斜め上から切り落としたのは、“悪事”と対立していた“花鳥”の長子であった諷詠(ふうえい)だった。


『君はもしかして、家の為に生きているのか?』


 何か問題があるのかと言った。

 自分は、家の道具でしかないのだと。


『僕の妹はそうやって、“教会”に売られたよ。僕は妹を取り返して、あんな家は潰す。君も自由にすると良い。君の人生だ。君が選べば良いんだ』


 千里は選んだ。

 このまま、家の道具であるべきだ。それが一番、皆んな幸せなのだから。



 ルート・オーソンという教官の言葉には驚いた。

 訓練も受けていない学生が、魔女退治をしようなどと。


 ラクルスはいよいよ怪しくなった。

 しかし、教会にバレると千里のことも信じてくれなくなる可能性が高い。

 シャンカラに戻られると接触はまず出来なくなる。この場で、味方であることをさりげなく伝えるしかないのだ。

 千里は、ルートに同行を持ちかけた。

 ラクルスは嫌そうな顔をしたがすぐに頷いた。


 千里は心の中で微笑む。

 ラクルスが考えていることにすら気がつかずに。


   ○○○


「そんで、行くのか?」

「うん。“神子”さん、準備はいいですか?」

「ええ。行きましょ」


 クレスは、ため息をついて歩き出す。

 ラクルスと共に先頭を歩く。後ろは“猛毒の神子”だ。


 しばらく、そうやって会話らしい会話もなく目的地のスラムまで歩いていた。



 ラクルスはスラムの入り口でふと口を開いた。


「魔女が教会のすぐ近くに住んでるなんて、変だと思うんだよね」


 ラクルスは唐突に立ち止まる。

 “猛毒の神子”はラクルスにぶつかりかけて、不満気に鼻を鳴らした。


「灯台下暗し、でしょ。教会の膝下にいればかえって隠れやすいと思ったんじゃない?」

「僕………俺ならそんなことはしない。北か、東に行く」


 ゾッとする程冷たい声で言い放つ。

 その視線はたった一人、()()()()()()()


「どうした、ラクルス?」

「俺は、警戒心の塊なんだ。お前が夜中にコソコソ部屋を出て行ったことも知ってる。お前が魔女なんだろう?」


 “猛毒の神子”は目を白黒させている。

 ラクルスはそんな“神子”に行った。


「教会と敵対してるなら、俺に手を貸してもらおうか。東には無事に送り届けよう」


 クレスはぷっと噴き出した。


「なあ、俺から生きて帰れると思ってんの? 俺は教会所属の魔術師だぜ? 俺の能力は」

「〈異端検知(ディテクティブ)〉」

「知ってんのかよ?」


 簡単に言えば、嘘を見抜く能力だ。

 教会で最も侵入しやすい一般兵に紛れることで、スパイを見抜くという役割がある。

 ラクルスはあえて、自分はマークされていないと考えるようにしていた。

 全ては、クレスを安心させるため。


「いやー。絶対にバレないと思ったのになぁ!」

「慢心してる魔術師に、俺が負けるわけない」

「はぁ? 俺の魔術は確かに戦闘向きではないが、兵士として一流になれる程度には、鍛えてんだよ!」


 ラクルスは剣を引き抜いて、“猛毒の神子”を後ろに庇った。


「自分の身は自分で守れ」

「………わかったわ」


 クレスは突っ込んでくる。

 ラクルスは、静かに構えた。


「遅い」


 決着は一瞬だった。

 クレスの魔力回路を斬ったのだ。


「は?」


 傷はないのに、クレスは斃れる。そして、血を吐いた。


「な、んで」

「俺に勝てると思ったのか? 教会も、大したことないな」


 ラクルスは鼻で笑う。

 そして、“猛毒の神子”を見た。


「今から東に行く。もうここには戻れない」

「そうね。あんた、所属は?」


 ラクルスは一瞬迷ってから言った。


「シャンカラ地下街。流派はライザ。魔術師ではないが、一応中枢とはよく話す」

「つまり、幹部? やっぱり強い方の人なのね」

「………俺は強くない。この世界にはもっと凄い奴がたくさんいるさ」


 ラクルスは、ちゃっかりクレスの財布を盗る。


「行くぞ」


 東大陸に向かい始めた。

おーい。テスト勉強中なのに!

勉強しろよー、私!

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