降灰した世界①
「八丈島に着いたって言うのに急いで行かないといけないのですね」
「父島の人たちが心配だからね。比叡が今、一隻で対応しているから私たちも急がないと…」
「艦長、お疲れ様です」
私とマチちゃんで話していると、船星さんが報告しに来ました。
「船星さんも長い間ありがとうね」
「いいえ!私は艦長の繋ぎになっただけなので。それにこの先からは艦長に引き継ぎますので、責任を押し付けるようですみません」
船星さんは私の感謝も謙虚に受け止めて、私に申し訳なさそうにしていました。
「そう言えば、艦長は船星さんにはあだ名とか下の名前であまり呼ばないですよね」
「え?えっと…何となく船星さんは船星さんだなって」
「また訳の分からないことを…」
マチちゃんは私の理由にため息を吐いて呆れていました。
「まあ、艦長が変なのは何も今に始まったことでもないので良いですが…」
「えー。そうかな?」
マチちゃんとは少しずつでも仲良くなってきたつもりでしたが、二回目のため息を見て寂しく感じました。
「私たちは艦長として信頼はしているので安心しなさい」
「『艦長としては』って潮原さんが言うの?いつも艦長と仲良くしているくせに」
船星さんは私とマチちゃんをジロジロと見て、思っていることを素直に言ってくれた。
「私の場合は艦長が巻き込んでくるのよ」
「私は仲良く話せたら良いなって思っているよ」
船星さんは私の思っていることに強く頷いてくれて、思わず手を握って共有したいと感じました。
「艦長、それよりこの先は忙しくなりますので、切り替えて下さい」
「う…うん…」
私は船星さんと引き継ぎを済ませて、艦内に乗り込みました。
「みんな、乗っているかな?」
「全員が乗ったのを確認しました」
美岬ちゃんは端末に備わっていた出席簿を見せて言いました。
「行きましょう」
「うん」
マチちゃんは私に出港を促した。
「千沙ちゃん、行こう」
「はい」
千沙ちゃんは船の舵を握り、私からの指示を待っていました。
「両舷微速前進!」
「両舷微速前進」
船がゆっくりと動き出し、進む速度は次第に上がり出していました。
「取舵!」
「取舵15度」
千沙ちゃんは私の掛け声に合わせて復唱して手元を動かしていました。
「この先なのですが、多少被害の影響が出るかと…」
「確かに…だけど島には怪我した人もいるからできるだけ早く行こう」
マチちゃんは被害が分からない状況でも安全に航行できるよう冷静に考えてくれていました。
「電測員と水測員、通信員はいつ何がきても良いように備えて!」
「はい!」
伝声管から響く声を確認して、私は航路の再確認を始めました。
「美岬ちゃん、今の西之島付近の状況を教えてくれる?」
「はい」
海洋地図を広げ、大まかな航路をなぞり、現在の場所辺りにピンを刺してその先を見つめる。
「南西の風、風速一〇メートル毎秒で吹いています。西之島は現在も火山の活性化をしていると見られ、父島にも灰が到達しているとのこと。さらに津波が発生していないとは言え、地震と噴火の火山灰の影響で父島の建物に被害があるようです」
私は風の向きを地図に書き、航路の計画を見極めていました。
「火山灰ってこっちにも影響があるの?」
「少なからず影響があるかと…」
マチちゃんは火山灰を知っているのか、神妙な面持ちで私たちの方を見ていました。
「影響って…」
「あくまでも予測ですが、一時間から二時間後に影響があるかと」
マチちゃんは被害の全貌が分からない状況でも可能性を見て私たちに話をまとめました。
「噴石等がこちらに来なければ多少は被害が少なくなりますね」
「そっか」
そう言ったマチちゃんの顔は不安な顔のままで空を眺めてました。
「マチちゃん?」
「でも火山灰がこちらに飛んでくるので無傷とはいきませんが…」
マチちゃんの不安には私たちだけでなく、別の所にも向けているようにも見えました。
「私たちが今から向かっても一二時間後…」
「着くまでは不安だけど、今できることをしよう」
マチちゃんは暗く不安な表情が私たちにも伝わってきました。
「そう…ですね」




