降灰した世界②
八丈島を出港したのは一九時。一八〜二〇ノットで航行し続けて、三時間程経つと進む先には噴煙が視界に入ってきていました。
「あの辺りが西之島…」
私が先んじて噴煙を見て呟くと、マチちゃんも体を前のめりにして見つめました。
「そろそろ暗くなるからマスト灯で照らして航行します」
「はい」
日が沈みゆく広い海の航海で灯りは最も大切なものになっています。視界を照らし、他船に位置を示す意味をなしています。
「左が赤。右が緑」
「後ろは白いね」
慣れない夜の航海に緊張感を持ちながら灯りの確認を取っていました。
「視界もほんの少しだけど良くなったね」
「明るさに私たちが慣れただけですけどね」
私のさりげない一言にマチちゃんはツッコミを入れてため息を吐きました。
「艦長、この先からは何があるのか分かりません。気を引き締めていきましょう」
「そうだね…」
マチちゃんの声を聞いて私もおかげで気持ちが引き締まりました。
「美岬ちゃん、他の船の状況は分かる?」
「現在は状況が分かる船と分からない船があり、特に西之島に近いと思われる船の状況が分かっていません」
美岬ちゃんは端末を片手に状況の確認を行いながら報告もしてくれました。
「最後に連絡が入った地点からある程度の移動範囲を割り出せたりできる?」
「やってみます」
美岬ちゃんは私の気になることにすぐに対応してくれており、話が素早く進んでいきました。
「艦長、そんなのを知っても何も変わらないわよ」
「多分だけど、他の船の人たちもどうにかしようとするから現状の把握と私たちが行動に障害がないのか確認したくて…」
マチちゃんは私の話に驚きながら聞いていました。
「確かに。視界の補助くらいにはなりますね」
「大まかにですが、比叡の最後の位置を割り出しました。恐らく父島沖北東に約二〇キロの地点かと…」
「比叡は私たちよりもゆっくりなはずだから三時間経った今の範囲は半径で約一〇〇キロ…」
「かなり大きいわね」
美岬ちゃんの情報から地図に印をつけると、父島を大きく覆う円ができました。
「比叡は父島に停泊しているのかな?」
「さぁね。でもそもそもの話だけど、父島の港が活きているかも分からないわね」
「確かに…」
父島の被害から建物の崩落が分かっているため、港の被害も少なくないとマチちゃんは考えていました。
「知っている情報を整理するわね。父島の状況は建物の崩落と住民の負傷者が大きいわ。避難にも移動手段として空が危険だから海のみになっている」
「学生艦の位置情報を最後に得た地点から速度を計算して、父島に近い船を割り出してみます」
「お願い」
美岬ちゃんは位置情報の履歴を頼りに移動速度を計算して、学生艦の位置を割り出し始めました。
「学校の指示だと『伊吹が避難民の救援をして、比叡が周辺の状況報告をするように』って来ていたけど」
「ちゃんと連絡が来ているのか怪しいわね」
私とマチちゃんが話している最中にも美岬ちゃんは筆記の計算もしていました。
「父島にはマリンガールズの連絡拠点があるはずだけど、情報が届いていないってことは通信障害がまだ続いていると考えた方が良いわね」
「連絡拠点?」
マチちゃんは父島の施設にも詳しいようで話に付け加えました。
「連絡拠点って言うのは、海洋情報の連絡を円滑にするために置かれたものよ。電波塔に近いけど維持のために港と併設して拠点もあるはずよ」
マチちゃんは父島の地形地図を頼りに島の北西部の辺りにピンを刺しました。
「この辺りだったはず…」
「被害に遭っているのかな?」
マチちゃんは地図のピン見つめながら何か悩み始めました。
「艦長、お待たせしました。各船の位置をある程度掴めました」
美岬ちゃんは海洋図にピンを刺すとその周囲を円で囲いました。
「予想される移動距離をまとめて示しました。父島から見て近い船は順に比叡、伊吹、土佐、武蔵、青葉、鞍馬、生駒、筑波となっているかと」
「私たちは五番目か…」
「ですが、これは距離のみでです。噴火と波の影響で西之島を通過したと思われる武蔵と土佐は、迂回しながら来るため時間がかかると思います」
美岬ちゃんは船の知識を抑えながらも状況を把握してまとめてくれました。
「私たちは三番目か四番目になると思います」
マチちゃんと美岬ちゃんは話を合わせながら共有し合いながら到着に見据えて考えていました。
「ここから約九時間。移動に連れて火山灰で見えなくなってしまうから遅くなるはず…」
「責めて比叡と伊吹の状況だけでもわかると良いのですが…」
海洋図を見て悩んでいると伝声管から声が聞こえてきました。
『艦長、伊吹からこちらに通信が来ました!』
「読み上げて!」
『はい!「現在、本艦は父島沖南に二〇キロ。希望者を先に避難民の輸送に向かう。青葉には島に残る住民の治療を依頼します」と来ております』
話を聞いてマチちゃんは即座に海洋図に伊吹がいると思われる所にピンを刺し直してくれました。
「艦長、私たちの急いで向かいましょう」
「うん!」
私は機関室と千沙ちゃんに進みを上げるよう指示しました。




