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豪華な馬車でやって来たロクサーヌたちを迎えるべく、屋敷の前で待っていると、お茶会程ではないが豪華なレースたっぷりの赤を基調としたドレスに身を包んだロクサーヌが、護衛の様な男性に手をひかれ、優雅に馬車から降りてきた。
「…本日は私のお願いを叶えていただき、有難う御座います、キャンベル侯爵。ロクサーヌ・ライズ・アバンですわ」
そう言って優雅に礼をしたロクサーヌにクリスは、
「ロクサーヌ嬢、当家へようこそ」
と微笑んだ。
「…私だけでなく妹…カテリーナまで訪問を許していただき…父、アバン公爵に代わり御礼申し上げますわ」
「御礼など…とんでもない、こちらこそお二人をお迎えできて光栄です」
挨拶を交わす2人をソフィアの隣で眺めながら、私は馬車を見つめた。
…私の相手…カテリーナがまだ出てこない…
(……居るのよね?)
と馬車の中を食い入るように見つめていると、ガタッと馬車が揺れて中で何かが動き、
「あれ?もう着きました?」
と言う声が聞こえてきた。
その声にロクサーヌは振り返ると、
「…カテリーナ…」
と声をかけ、扇子で口元を隠す。
…ロクサーヌの頬が心なしか赤く、そして膨れている。
「あ、お姉様」
外に居たんですね!と中から顔を覗かせたカテリーナだったが…
「…………」
私たち家族とお互いに数秒見つめ合い、そしてカテリーナは無言のまま、するすると馬車の中へと戻って行った。
(…あの子が、このロクサーヌの妹…)
私は目を丸くしながらそう考えていると、再びロクサーヌがカテリーナを呼び、その声に彼女はおずおずと馬車から降りてきてロクサーヌの隣に並ぶ。
緑色のシンプルなドレスにロクサーヌと同じ黒髪を三つ編みにし、左の肩に下げ、ロクサーヌとよく似た面立ちにそれまた同じ碧色の瞳には眼鏡をかけていた…そんなカテリーナを見て、
(正反対…)
と思ったのは私だけじゃないはずだ。
まるで絵に描いたような明と暗、静と動…
あのロクサーヌの妹とは思えぬ容姿と行動に何だか緊張感が薄れてしまった。
(…でも可愛らしいわね…年相応って感じで)
と私が考えていると、カテリーナと視線が合う。
公爵令嬢…なのだが、何故だか彼女からはロクサーヌのような貴族めいた雰囲気を感じない…
単に彼女の気質…なのかもしれないが、何処と無く…平民のような…普通の匂いがした。
そんなカテリーナは私を見て、それからソフィアの方を見ると何やら俯いてしまい、益々ロクサーヌと同じ血の者とは思えなくなってきた。
「ではロクサーヌ嬢、カテリーナ嬢、こちらへ。ご案内致します」
そうクリスとディアナが促すと二人はキャンベル家へと足を踏み入れ応接間へと向かった。
*** *** ***
私とソフィアが二人と応接間でお茶とお菓子を間に挟んで対峙させられると、
「おしゃべり、楽しんでね」
と護衛を廊下へと出し、ディアナに扉を閉められ、強制的に4人にされてしまった。
「…………」
誰も動かず話さない空間で紅茶の湯気だけが自由に動いている。
(…き、……気まずい…)
私はちらりとロクサーヌを見ると、彼女は開いていた扇子を閉じ、
「――キャンベルさん」
とソフィアを呼ぶ。
「は、はい…」
少し緊張しているソフィアに向かい、ロクサーヌは頬を赤らめながら、
「……先日は、その……貴女に大変失礼な行いをしようとしてましたわ…私、自分を恥じておりますの…」
と告げたので私は心で、
(嘘つけ~!あの時、めっちゃ憎らし気にうちのソフィアを睨んでたクセに~!)
とツッこむ。
しかし当のソフィアは、
「そうでしたか…あの時も申しましたが、私は何ともありませんでしたし、アバン様にも被害が無くて良かったです。…アバン様はお優しくいらっしゃるのですね」
と言ってソフィアが微笑むと、ロクサーヌは扇子を扇ぎ、
「…公爵令嬢ですもの…あ、当たり前ですわ!」
そう言いながらロクサーヌは紅茶を飲み始め、
「…キャンベルさん…貴女の事、ソフィア、と呼んでも良いかしら?…私の事は、どうぞロクサーヌと」
と恥ずかし気にソフィアを見ながら告げると、ソフィアは花が綻ぶような笑顔で、
「はい!ロクサーヌ様」
と彼女を呼んだ。
微笑みあった2人は先程までの緊張が嘘のように笑顔を交えながら歓談し始めた。
(…………ん?)
私は2人の様子を見て1人首を傾げる。
―――何だかロクサーヌ…お茶会ほど凶悪めいて…ない?
(…いやいや…腐っても貴族…腹の中では何考えてるか解らない人種の子よ?これも作戦かもしれない…安心するのは早計よね…)
と紅茶にミルクを入れ、かき混ぜながらそう考えてると、ふと、此方を見つめているカテリーナに気がつく。
(そうだった…私の相手はカテリーナだったわ…)
紅茶にもお菓子にも手をつけず、私やソフィアを覗き見るカテリーナに、どう声をかけようかと考えていると、
「……あの…」
――カテリーナの方から私に声をかけてきた。
「はい、何でしょう?」
礼儀作法のキャロル先生直伝の令嬢スマイルを彼女に向けると、
「…貴女が…ソフィア…様の、妹さん…ですか?」
と言った。
「はい。ステラ・アルト・キャンベルと申します。以後お見知りおきを」
そう返した私に、カテリーナは「あ…はい…」と令嬢とは思えない返事で返すと、
「あの…ステラ、様は……ライオネル、様をご存知でしょうか?」
と訊いてきたので、私はソーサーを掴む手に力を入れる。
(…え~っと……?)
私はにこにこと笑いながらカテリーナを見つめていたが、磨り潰し圧縮して意識の奥底に隠していたライオネルへの憤りが久しぶりにチラチラと顔を出し、令嬢スマイルの端がヒクヒクと痙攣を起こすがカップを口元に宛て、それを隠す。
何故カテリーナはライオネルの事など尋ねるのか…?
何と声をかけようかと悩んでいた私の耳に、
「まぁ!カテリーナ!他のご令嬢のお相手の名前を軽々しく呼ぶだなんて…!」
はしたなくてよ!?とロクサーヌはカテリーナの声が聞こえ、姉の叱責に、
「あ、ご、ごめんなさい、お姉様…」
とこれまた公爵令嬢らしくない返事を返して首をすくめ、私の方を見ながら小さく、
「お相手…ということはライオネル様とは既にご婚約済みなのですね…」
と呟いていた。
「…全く…申し訳ありませんわ、お気を悪くなさらないで下さいね?妹は…カテリーナは最近少し病がちで…時折淑女にあるまじき言動をとるようになりましたの…」
ふぅ…と勝ち気な美少女は溜め息をつく。
「まぁ…お身体は大丈夫なのですか?」
とソフィアがカテリーナに問いかけると、
「あ、は、はい!大丈夫です!」
とカテリーナは緊張したように頬を紅潮させ、背筋を伸ばして元気良く答えた。
「…カテリーナ…」
淑女にあるまじき音量の返事に、ロクサーヌは溜め息混じりに妹を見つめる。
「あ…」
自分の失態に気づいたのか、カテリーナはしゅんと肩を落とす。
「失礼致しました…あの…私もソフィア様とお呼びしても?」
そうおずおずとカテリーナはソフィアを見ながら訊ねると、ソフィアは微笑みながら「はい」と答え、その笑顔につられるようにカテリーナもホッとしたような笑顔を浮かべる。
そんな和やかな空気の中、私は1人、紅茶のおかわりを密かに自分で淹れながら先程のカテリーナの言葉の意味を考えた。
(…まぁ、確かに見目は良いわよね…)
王子の側近になるのは間違いないだろうし公爵家跡取りで将来も安泰…
これはどこの令嬢も垂涎レベルのお相手候補…
(!!…そうか…そういうことか!)
推理モノの探偵の様に閃いた私はカテリーナを見つめ、
(カテリーナ→ライオネル…つまりそれは…カテリーナ=ライオネルの丸投げ先!)
と心の中で叫ぶと、再びカップでにやけた口元を隠す。
(面倒くさいお茶会だと思っていたけど、お父様がカテリーナを呼んでくれて良かった。これで彼との縁談も破談に一歩近付くわよね!その為にも、カテリーナとは仲良くなっておかなくちゃ)
美味しい紅茶がより一層美味しく感じ、まったりとしていた私の耳に、
「そういえば、ライ…じゃなくて、ノースエッド様とソフィア様達はいとこ同士なのですよね?昔から仲が良かったのですか?」
というカテリーナの声が聞こえてきて、私は危うくカップを落としそうになった。




