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従者は見た

主のいる部屋から幼いメイドが、歳に似合わぬ大人びた表情で此方へと足早に歩いて来る。


俺は彼女に向かい礼をし、廊下の壁へと控え彼女に道を開けた。


…そんな俺の前を通り過ぎる主の婚約者の後ろ姿を見て、小さく溜め息を吐く。


そして部屋の扉を開けると、俺の主であるライオネル・マキア・ノースエッドが窓の方から王妃主催の茶会をしている中庭を眺めていた。


「…俺が目を離した隙に女の子に自白剤なんか盛ってナニしようとしてんだよ」


この部屋が防音に長けているのを良いことに俺は普段の調子でライオネルにそう告げると、


「別に何も?…子どもには興味ない事などカイルも知ってるだろう?」


そう言う本人もまだ子どもの部類に入るのだが…


「しかも相手はお前に惚れまくってる婚約者だろ?自白なんてさせるような事が有るのか?」


初めてライオネルと会ったときから意識しまくりのお嬢ちゃんで美少女故にそれがまた微笑ましかったのだが、ある日から人が変わったようになったと聞き、侯爵家に用があった際にステラ嬢に会ったが、真っ正面からライオネルに対峙し、その上名前を呼んだことに驚いた。


「…お前も薄々気付いているだろうが…彼女はステラ嬢では無いさ」


窓からソファへと移動したライオネルはそう言うと、


「ま、どうでも良いんだけどな」


とニヤリと笑う。


…いつも思うが外見が天使の様なのに中身が悪魔とか、ライオネルの下に付いている自分の将来が心配になる。


「…つまり、彼女に自分の正体を吐かせるために盛ったんだな?」


「ん~…そんなところかな?」


ライオネルはニコリと笑うが、俺は溜め息を吐きながら、


「…俺はてっきり彼女に腹を立てたからかと思ったぜ?ライオネル」


と苦笑する。


「おや?何故?」


聞き返す奴の目の中に、微かだが苛立ちが見える。


(…まぁ、他の奴等はこいつの変化に絶対に気付かないだろうな)


俺はそう考えながら、


「いや、何となく」


と言い、窓から中庭を見下ろす。


「お?」


見下ろした先ではちょうどステラ嬢が母親に連れられ、強制退場させられていた。


(…これはバレたな…)


量は多くなかったとはいえ、判る者には判る薬だ。


案の定、彼女の母親が此方を見上げ美しい笑みを浮かべている…


―――その視線に戦場に慣れた俺の背筋に冷たいものが走る。


いつの間にか俺の隣に来ていたライオネルも彼女の笑みに口の端を持ち上げると、


「…これは…お叱りを受けそうだ」


と呟く。


「自業自得だな」


俺がそう言うと、ライオネルは楽し気に笑いながら、


「これで暫くは退屈しない」


と窓から離れ、扉の方へと歩いて行く。


(…やれやれ…)


心で盛大に溜め息を吐いた俺は、ライオネルがノブに手をかける前に扉の前に立ち、気配を窺い、安全を確認してそれを開いた。


「さて…お茶会は成功したのかな?」


そう呟く主の顔は齢9歳にして悪どい顔をしている。


(…キャンベル家もまたえらいのに娘を婚約させたもんだ…)


俺は内心ステラ嬢…の影武者かもしれない少女に同情しながらライオネルの後ろに付き、華やかな中庭へと歩いて行った。

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