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(自白剤?…そんなの本当に存在するの?)


と私が青褪めていると、


「どうせ盛るなら媚薬の方が可愛らしいのに…ねぇ?」


そうディアナが同意を求めてきた。


(そもそも人に()()()はいけないし、媚薬が可愛いとか良く分からないです…お母様…)


私はそう心で返すと、


「あの…お母様?…私…自白剤を使われたとどうして判ったのですか?私にはその…自覚が無かったもので…」


おずおずと種明かしをディアナに求める。


すると彼女はお茶を一口飲むと、


「あらぁ、それは判るわよ。まずは表情でしょ?それから微かに()()()()がしてたもの」


と簡単そうに答える。


「表情?…甘い、香り?」


分からない…と私が頭を抱えていると、


「ステラ…貴女、ライオネル様の所で何か口にしたでしょう?」


とディアナが笑う。


それを聞いて私は、


(………お茶か!)


と思い出す。


「たぶんあの場所だとお茶かしら?それを飲んでから貴女は何か精神的に不安定になったり、足下がおぼつかなくなったりしなかった?」


「しました!」


思わず手を上げて答えると、


()()が自白剤を使われたときの症状よ。…まぁ、少量だったようだけど、婚約者に使うには色気の無い薬よね、ちょっとお母様不満だわ。あとで彼にはお手紙しましょうっと」


とディアナがお茶を飲みながら遠くを見たが、その目を見た私は背筋が凍りそうになる。


(…ディアナさん…お、怒ってる?…)


いつもの優雅な微笑みの後ろにブリザードが見える…


私は居たたまれなくて、両手を膝の上で握りしめ、少し俯く。


…こうなってしまったのも私が油断していたせいだ…


(…ライオネルが子どもとはいえ…油断出来ない相手だと薄々感じていたのに…)


これから先の困難を思えば、こんな事くらい見抜けなければ直ぐにシナリオ通りの結末になる可能性にだってあり得る…


今日だってお茶会の後半はソフィアから離れてしまって庭園に行った彼女に何か有ったかも分からないというのに…


(…悔しい…)


ぎゅうっと唇を噛み締め、私はツンとした鼻の痛みを堪える。


…すると、


「ステラ」


ディアナが私を優しく抱き締めてきて、私は驚く。


「お、母様…」


細身のわりに意外と豊かな胸の持ち主だったディアナの胸元に埋められ、何かに目覚めそうになる。


「心配しなくても大丈夫よ…」


そう言ってディアナは少し抱擁を緩めると、慈愛に満ちた眼差しで私を見つめ、


「自白剤はある程度前から耐性を付けといたし、少量だったのなら後遺症とかも無いと思うわ。今飲んだお茶も成分を流す作用がある物だから、安心して頂戴」


とキラキラした笑顔で語った。


……ディアナさん違う、そういうことじゃない。


というか娘に何の耐性付けようとしてるんですか。


「でも…ライオネルにも困ったものだわ…昔はあんなに素直で可愛かったのに」


「…?」


(…昔は、って事は…)


しかも、様、付けないで呼んでましたね?ディアナさん。


「…あの~…お母様と…その、ノースエッド様って…」


「え?」


とディアナが首を傾げた…その時、


「ステラ!」


扉が開くと、青いワンピースに身を包んだソフィアが私の方へと足早に近づき、


「あぁ…良かった…無事だったのね!」


と私を抱き締める。


「お、お、おぉお、お姉さま?」


あまりの動揺に舌が上手くまわらず、DJみたいなお姉さま呼びをしてしまった。


「心配してたの…その…ステラの姿がどこにも無くて…アバン様から私を庇ってくれたから…そのせいでステラが連れていかれたのではないかと…」


ぎゅうっと私を抱き締めながら、ソフィアが言い、私は驚いて、


「…気づいていたのですか?私はあんなに変装していたのに」


と呟いた。


するとソフィアは形の良い眉を下げ、


「当たり前じゃない…大事な妹なのよ?どれだけ変わっていてもね、私は貴女を見つけるわ」


と言われ、私の胸が早鐘を打つ。


こんなセリフ…日本で異性からも言われた事無いのに、こんな美少女から言われたら同性でもときめくわよね?ね?


もう何だか危ない思考になりつつある私に、更にソフィアは追い討ちをかけるように、


「あぁ…ステラ…無事で良かった…それと…ありがとう、私を守ってくれて」


と顔を少し離して最高の笑顔で微笑む。


(あぁ…もう!可愛すぎるわっ!)


心の中でそう叫んだ私はソフィアにつられるように微笑み、


「お姉さまのお役に立てて良かった…」


と自然とそう言葉に出した。


「ステラ…」


うるうると瞳を潤ませてソフィアが私を見つめると、再び私を抱き締め、


「大好きよ、私のステラ」


と耳元で告げられ、私は自分の耳まで赤くなってゆくのを感じ、彼女を抱き締める手に力が入る。


(…散々なお茶会だったけれど…ソフィアを守れて良かった…これからも私が守ってあげるからね?)


そう心で誓っている私の耳に、いつの間にかケーキ(あれ王妃お勧めのやつじゃない?)を食べていたディアナが、


「本当にうちの娘たちは仲良しさんね。…あ、そうそうソフィア、まだ正式な書類はまだだけど、貴女、王子様の婚約者として内定したの。おめでとうソフィア」


と笑い、それを聞いたソフィアと私はディアナを見た。


…ソフィアは赤面し、私は蒼白という顔色で…






*** *** ***






自室に戻った私はふかふかのベッドに思い切りダイブすると、


「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


と枕に叫ぶ。


シーツやワンピースが皺になろうが、綺麗な金髪が振り乱れようが知ったことか。


(シナリオめぇ~…どうあってもソフィアを不幸にしたいって訳ぇ!?)


ギリギリと白いシーツに爪を立て、私は悔しさに目尻に涙を浮かべる。


(…まさか()()が…分岐点だったなんて…!)


私はディアナの言葉を思い出し、枕に突っ伏す。





『貴女、王子様と中庭の奥にある薔薇の庭園に向かったでしょう?それはね、王子様の婚約者決定の合図なの。あの薔薇の庭園は王子と王子妃の為の薔薇園だから』





まさかの事実に、私はただ歯噛みをするしかなかった。


(…知っていたら…知っていたら!!)


―――ロクサーヌからの葡萄酒の洗礼をソフィアに受けさせて…二人を庭園に行かせなかった?


「…っ…!」


一瞬頭を過った葡萄酒まみれのソフィアの姿に私の胸がズキリと痛む…


(…っ…出来るわけ無いじゃないっ!あんなに可愛いドレス姿のとんでもなく可愛いソフィアが傷付く事なんて…いくらそれで婚約者内定を逃れられたとしても…私には出来ない!)


でも自分の無力さに苛立ちが収まらない…


(…どうあっても…この世界の(シナリオ)には勝てないの…?)


抗い続けても、ソフィアは王子に恋をして裏切られ、そして―――


(…婚約が決まって…カウントダウンは始まってしまった…)


私はむくりと起きあがりベッドを降りると机の上のオルゴールの引き出しを開ける。


――『穏やかで幸せな人生を送るためリスト』…


「…先ずは…やっぱり()()からよね」


ぼそりと呟いた私は窓の外の暗闇を見つめると、


(…絶対に…ソフィアを不幸になんてさせないんだから…!)


と強く思いながら、ある事に向けて準備を開始したのだった。


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