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20、皇族の諸事情

またしばらく開いてしまいましたが、続きです!

なかなか終わらない、赤の帝国編。


 選帝侯会議もすでに3日目。いまだに議会は紛糾しているらしく、マルガレーテの姉クラウディアも会議に出ずっぱりだ。


 とはいえ、選ばれる側である皇女の侍女として宮殿の後宮にいるマルガレーテには関係ない話だ。一応、逐次選帝侯会議の情報は入ってくるが、特に進展はなさそうに見える。


 今日のマルガレーテは、後宮内を見ておきたいというアリエノールに付き合って、第1皇子ジークハルトが暮らす離宮のあるあたりまで来ていた。ここは結構、王城からも近い。


 ミュラー宮殿に来てから、アリエノールは定期的に城内を見て回っていた。その間は、エリーザは部屋の中でおとなしくしている決まりだ。もともと彼女は出不精なので、放っておけば1日、本を読んでいたりする。それに、1人といっても近くにメイドが控えているはずだ。腐っても彼女は皇女である。


「っていうか、後宮を見て回る必要はあるの? アリエには知覚魔法があるんじゃないの? ……あたし、付き合ってるけどさ」


 最後に自分にツッコミを入れて、マルガレーテは尋ねた。アリエノールは自分とさほど身長の変わらないマルガレーテの眼を覗き込む。


「私は精神感応魔法テレパシーがあるだけで、探査魔法は使えないよ。まあ、どっちも知覚魔法ではあるけど。グレーテルのお姉さんが遠隔透視魔法クレヤボヤンスを使えるけど、精神魔法が使えないのと同じ」

「そうなの? うーん……」


 自身が魔術師ではないマルガレーテにはよく理解できない。でも、まあ、確かにエリーザも精神魔法を使えるけど、透視能力とかは持ってないね。


「やっぱり、何かあった時のためにこの宮殿の構造は知っておきたいわ。まあ、私たちは後宮しか出入りできないけど」


 王城の方は手出し不可能だ。そちらは出入りできる人、つまりクラウディアとエリーザに任せるしかない。


「あのっ。すみません!」


 てくてくとエリーザの部屋に帰ろうかと歩いていると、背後から声がかかった。高い声だが女性ではなく、声変わり前の少年だった。振り返ると、マルガレーテたちと同じくらいの背丈の、やたらと顔立ちが整った金髪碧眼の美少年が立っていた。年は10代前半くらいだろうか。

 赤の帝国の皇子かな、と思い、マルガレーテは丁寧な口調で尋ねた。


「何かご用でしょうか?」

「あの、この辺りで僕の妹を見ませんでしたか? 8歳の女の子で、これくらいの背丈で、金髪に薄紫の瞳をしてる子なんですけど」


 少年は身振りを交えながら訴えてきた。マルガレーテはアリエノールの方を見る。


「見た?」

「いいえ」


 アリエノールが素っ気なく首を左右に振ったのを見て、「そうですか……」とがっくりする少年。少し罪悪感を覚えたマルガレーテである。


「!」


 突然アリエノールが鋭い視線を周囲に走らせた。ここは宮殿の端で、庭園に面している。アリエノールが視線を向けたのはその庭の方だった。


「2人とも、さがって」


 アリエノールがマルガレーテと少年をつかみ、自分の後ろに下げさせた。


「どうしたんですか?」

「黙って」


 少年が不安げにアリエノールに尋ねたが、彼女は答えずに左手を前に出した。ロッドを携帯していないためだ。あれがないと、少々精度が落ちるらしい。


 一方のマルガレーテは、アリエノールの背後でおとなしくしていた。自分が戦力外であることを理解しているからだ。アリエノールがこれだけ警戒しているのだから、何かがあるに決まっている。


「誰? そこにいるのはわかってるわ。神妙に出てきなさい」


 何となく、アリエノールがグレイスに似てきた気がするマルガレーテである。


 その時、庭の方から火炎魔法が飛んできた。少年が驚いたのか一歩身を引いたが、アリエノールは振動魔法障壁でそれを防いだ。代わりに、アリエノールの空気振動魔法が庭に隠れている人間に直撃したようだ。お見事。

 すると、隠れていた庭師やこの城の使用人に変装した男たちが出てきた。いや、数人女性も混じっているけどね。


「下がって! 逃げるわよ!」


 アリエノールが魔法で応戦しながら叫ぶ。相手は剣やナイフなどを持っているが、こちらは丸腰だ。最も、武器を持っていたとしてもマルガレーテもアリエノールも使えない。アリエノールは完全に魔術師だった。


「なら、こっちに!」


 少年が先導して廊下を走る。無作法だが、緊急事態だ。しんがりはアリエノールで、魔法を撃ちながら走っている。


「きゃっ」

「アリエ!」


 小さな悲鳴に振り返ったマルガレーテも悲鳴をあげた。追ってきた男にアリエノールが髪をつかまれていた。それでも冷静にアリエノールは魔法を放とうとする。


「このっ!」


 少年がアリエノールの髪をつかんでいた男を蹴り飛ばした。少年でもやっぱり男だ。腹を蹴られた男はその拍子にアリエノールを解放する。


「エーリヒ! 伏せなさい!」


 何やら聞き覚えのある声が聞こえ、その瞬間、マルガレーテの隣を疾風が駆け抜けた。エリーザだ。


「遅いわ!」

「いや、私の部屋からどれだけ距離があると思ってるの」


 アリエノールの非難に、エリーザは剣を振るって怪しい侵入者たちを斬り倒していく。その手並みの鮮やかなこと。蹴り飛ばし、剣で串刺し、袈裟切りにする。


「エリーザ姉様、すごい!」


 少年が称賛を送る。エリーザを姉さんと呼ぶと言うことは、やはり皇子かな。


 やがて全員を沈黙させたエリーザは、左手に下げていた鞘に剣を戻した。ネイビーブルーのドレスには返り血ひとつついていない。奇跡。


「みんな、怪我はない?」

「平気よ」

「ん、無事」

「大丈夫です、姉様!」


 周囲に凄惨な光景が広がっている割に、マルガレーテもアリエノールも少年も元気だった。


「とりあえず、ここから移動し……」


 誰かが近づいてくる足音に、エリーザが一度しまった剣の柄に手をかけ、アリエノールが両手を前に出して臨戦態勢を取った。しかし、相手の姿を見て、エリーザがほっと息をつく。


「ヴィルヘルミーネ殿下」


 おお。これが件の第5皇女か。エリーザは帰ってきてから何度かあっているようだが、マルガレーテとアリエノールが会うのは初めてだ。思わずじっくり観察してしまう。

 彼女を一言で表すなら、『気の強そうな美女』だ。赤みがかった黒髪が揺蕩い、ヴァイオレットの瞳の目力がすごい。身長は高く、エリーザよりも長身だ。そのくせ、胸はでかい。思わずエリーザを見ると、うん。やっぱり控えめだわ。

 下馬評では、次の皇帝は彼女か、ジークハルトか、と言われているようだ。ジークハルトが内政に関わっているのに対し、ヴィルヘルミーネは軍部を統括している。


「ああ、エリーザベト。それ、お前がやったのか?」

「……そうですけど」


 ちらっと背後の死体の山を見て、エリーザがうなずいた。ヴィルヘルミーネは美しい顔に笑みを浮かべた。


「いい腕だな。ぜひ近衛に欲しいところだが」

「嫌です」

「だろうな。お前は頭もいいから」


 ヴィルヘルミーネは肩をすくめた。


「ところでエーリヒ。ヘルガだが、連れ去られそうになったところを保護したぞ。今はサンドラと一緒だ」

「本当ですか!? ありがとうございます、叔母上」


 少年が喜色満面に言った。あれ、ちょっと混乱してきたぞ。


「ねぇ、エリーザ。彼は……」

「ああ。第1皇子のジークハルト殿下の息子だよ。12歳」

「そう言えば、名乗っていませんでしたね。エーリヒです」


 少年、改めエーリヒが小首を傾げて微笑んだ。マルガレーテは驚きで顔を引きつらせる。はっきり言って、ジークハルトと似ていない。この柔らかな雰囲気とか!


「とりあえず、ここではなんだから少し移動しよう」


 ヴィルヘルミーネの提案に賛成し、マルガレーテたちは、とりあえず死体から離れたところに移動した。


「さて。エーリヒが襲われたのか?」


 ヴィルヘルミーネに尋ねられたのはエリーザだが、彼女は途中参加なので事情がよくわからないのだろう。マルガレーテたちを見た。


「そうなの?」

「……まあ、あたしたちは襲われる理由もないし」


 マルガレーテはそう言ったが、アリエノールはツッコミを入れた。


「でも、グレーテルはクラウゼヴィッツ伯の妹じゃない」

「それはそうだけど」


 人質にしようとしたとでも言うのか? そんなもの、後宮から誘拐するリスクが高すぎるだろう。ハイリスクだ。


「お前、交友関係が広くないか?」

「気のせいです」

「それと、お前の剣、生前のシャルロッテ様が使っていたものだな。気のせいか?」

「それは気のせいではありません。私のもとの剣は、宮殿に入った時点で取り上げられたので」

「ああ、なるほど。取り計らっておこう」

「ありがとうございます」


 思いっきり話がずれているが、いいのだろうか。しかし、すぐに皇女2人は本題に戻った。


「ヘルガが誘拐されかけたのなら、エーリヒが狙いだったのでは?」

「ひいてはジークハルト兄上を狙っているということか……子供を人質にとるとは」


 ヴィルヘルミーネが吐き捨てた。どうやら、正義感の強い人らしい。

 ここで、エリーザは踏み込んだ。


「選帝侯会議がどうなっているかわかりますか?」


 だが、ヴィルヘルミーネは首を左右に振った。


「わからないんだ……。どうやら、ジークハルト兄上と、もう1人とが有力らしいが」

「誰です?」

「先帝の異母弟、ヨーゼフ殿下だ」

「……」


 エリーザが呆れた表情になった。


「……とりあえずエーリヒ、あなたのお父様の離宮に戻る? きっとヘルガも待ってるよ」

「そうします……それじゃ、エリーザ姉様。助けてくれてありがとうございます。侍女のお2人も」


 エーリヒはニコリと笑って、後宮近衛の1人に護衛されて離宮に戻って行った。


「……何故私は『叔母上』なのに、お前は『姉様』なんだ」

「さあ。私が昔、一緒に遊んであげたからじゃないですか」


 かなり投げやりにエリーザが答えた。それ、マルガレーテも気になった。ラウルス城でも、エリーザは妙に子どもたちから人気があった。


「さっきの話だが……選帝侯の中に、ヨーゼフ殿下に取り込まれているやつがいるらしくてな。議会は紛糾している。今のところ、ジークハルト兄上とヨーゼフ殿下で半々。クラウゼヴィッツ伯はお前を支持しているようだが」


 何してるのよ、姉さん。ほら、エリーザの目が細まったわ。怒ってるわよ。マルガレーテは心の中でつぶやいた。


「議会を早期終結させないためですか……今後にしこりを残さないために、できれば満場一致で皇帝を選びたいですからね。ところで、その情報はどこから?」


 エリーザの最もな問いに、ヴィルヘルミーネは笑ってごまかした。


「まあいいじゃないか、細かいことは。もし内乱になるようなことがあれば、力を貸してくれるか?」

「内乱になる前に止めて見せます」

「いい心がけだ」


 ヴィルヘルミーネは冗談と受け取ったようだが、マルガレーテはエリーザが本気であると思った。彼女なら、それくらいできるだろう。


「……では、ヴィルヘルミーネ殿下。私はこれで。グレーテル、アリエ。部屋に戻ろう」

「はい」


 マルガレーテとアリエノールは素直にうなずいてその凄惨な現場から離れた。マルガレーテはヴィルヘルミーネの姿が見えなくなったところで尋ねた。


「どうしてここにいるってわかったの?」

「アリエのテレパシーが来たからだよ。遅くなって悪かったね」


 マルガレーテは首を左右に振った。助けてもらったのにとんでもない。


「さっきの女の人がヴィルヘルミーネ皇女? 確か、軍事関係に関わっているって聞いたけど」

「そうだね。剣術の天才でもある。特に近衛騎士団を統括しているね。母親は第2后妃」

「ふぅん」


 マルガレーテは一つ相槌を打った。ヴィルヘルミーネの姿を思い出す。


「……同じ剣術の天才でも、ずいぶんエリーザと違ったわね。特に、胸のあたりが……」

「グレーテル。さすがに怒るよ」


 そう言いながら、エリーザの口調はいつも通りのあまり抑揚のないものだった。むしろ、怒ったところを見てみたいものである。


「エリーザは」


 アリエノールが声を発した。彼女は鋭い目つきで、前を歩くエリーザの後頭部を睨み付けた。


「ひと波乱あると思う?」

「……さあね」


 エリーザは一言だけ付けくわえた。


「ただ、簡単には次の皇帝は決まらないと思う」






――*+○+*――






 赤の帝国皇帝フェルディナンド2世は偉大な君主だった。


 西のフェルディナンド2世。

 東のシェラン皇帝。


 この2人がいるからこそ、西大陸と東大陸のパワーバランスが釣り合っていたと言える。

 しかし、8年ほど前にシェランが亡くなり、パワーバランスが崩れた。東大陸は急速に勢力を失い、今は黄の皇国斉の現在の皇帝リンユンが何とか小健康状態を護っている。

 そこに、フェルディナンド2世の死。暗殺かに思われたが、単純に老衰で亡くなった。これで、西大陸も荒れるだろう。




 赤の帝国第五皇女ヴィルヘルミーネは異母妹である第12皇女エリーザベトが蹴散らした刺客を片づける指示を出しながら、その異母妹のことを思い出していた。


 7年前、彼女は通称『黒の王国』と呼ばれるラウルス城に移り住んだ。移り住んだというか、逃げて行った。少なくとも、ヴィルヘルミーネはそう認識していた。


 リューベック将軍の娘であるエリーザベトは、母親にそっくりの容姿をしている。しかし、中身は別で、豪胆だった母親に対し、娘はおっとりしていて気性が優しい。ヴィルヘルミーネはシャルロッテを尊敬していたが、だからこそ、そんなエリーザベトにがっかりした。


 考えてみれば、エリーザベトがシャルロッテとは違うのは当然の事なのだ。2人は別の人間で、シャルロッテはエリーザベトが2歳の時に亡くなっている。エリーザベトは母親の影響を受けることなく育った。


 あまり表情のない子供だったのはおそらく、自分の母がすでに亡くなっていることをわかっていたからだ。育ての母はいたが、全く自分と似ていないから気づくだろう。それでも、ひねくれずに育ったのはすごいとは思う。


 性根の優しい彼女は、いじめられる小さな弟妹達をかばって、それでたびたび異母兄弟からいじめられていた。暴言や誹謗中傷に始まり、殴る蹴るなどの暴力。とある異母姉が彼女の背中に熱湯をかけた時はさすがにヴィルヘルミーネも眉をひそめた。そのすぐ後、彼女はいなくなった。


 そんな彼女が、宮殿に帰ってきた。『黒の王国』と呼ばれるラウルス城にいたのは知っていた。そこでエリーザベトは力を手にして戻ってきた。文字通りの武力、そして、使いこなせなかった魔術を使いこなし、教養も学んでいる。相変わらず表情がないのが残念だが、母親によく似た美女に育ちつつある。


 彼女の剣の腕はほれぼれするほどだ。最小限の動きで敵を無力化する。もともと運動神経がよかったのだろう。ヴィルヘルミーネはエリーザベトに会うたびに近衛隊へ誘っていたが、その願いが聞き届けられることはなかった。


 いわく、

『力のない私にまったく興味がなかったのに、力を手に入れた途端それですか。虫が良すぎるとは思いませんか』

 だそうだ。否定できずに、ヴィルヘルミーネは黙り込んでしまった。


 ヴィルヘルミーネは、エリーザベトがいじめられているのを知りながら、彼女を助けるために何もしなかった。それはジークハルトも同じで、だから、エリーザベトはジークハルトに心を開かないのだろう。ヴィルヘルミーネの場合も一緒だ。


 エリーザベトは弱かったのではない。強くなる『機会』が与えられなかっただけなのだ。与えなかったのは、手を差し伸べなかったヴィルヘルミーネたち全員だ。


 シャルロッテの異母妹を母に持つ第8皇子ギルベルトなどはエリーザベトをいじめから助けたりしていたようだが、そんな彼も、学識を与えるだけで力は与えなかった。しかし、彼女は彼にはなついている。それがわかるのは、彼のことは『お兄様』と呼んでいるからだ。


 彼女は父親であるフェルディナンド2世が亡くなったため、この国に戻ってきた。選帝侯の1人、クラウゼヴィッツ辺境伯の妹を連れていたが、皇帝になる気はないそうだ。もう1人、魔術師も連れていたが、彼女もいい腕だ。


 エリーザベトもあの魔術師の少女も、遊ばせておくには惜しい。しかし、誘っても彼女らは首を縦に振らないだろう。それだけ、ヴィルヘルミーネに信用がないと言うことだ。


 自分で言っていてため息が出た。


 とはいえ、この状況で仲間割れをしているほどみんな馬鹿ではない。兄弟たちよりむしろ、母親たちが自分の子を皇帝にしようと必死だ。自分の子が皇帝になれば、自分は皇帝の母として権力を振るえると思っているのだろう。たぶん、だれもそんなことをさせないだろう。


「エリーザベト。約束の剣だ。お前ので間違いないな?」


 エリーザベトの部屋の前で、ヴィルヘルミーネは取り上げられていた彼女の愛剣を返した。エリーザベトは剣を少し抜いて刀身を眺め、うなずいた。


「間違いありません。私のものです。ここまでご足労いただき、ありがとうございます」

「いやいや。かわいい妹のためだ。これくらいはな」


 さりげなく『かわいい』と言ってみたが、エリーザベトの表情は変わらなかった。強敵だな、この子は。


「今日の選帝侯会議の結果はわかりますか?」

「ああ。わかるぞ。と言っても、これまでと代わり映えがないそうだが」


 今はとにかく、簡単に皇帝が決まらないように調節中だとヴィルヘルミーネに情報を与えている人は言っていた。


「……そうですか」

「選帝侯会議で結果が出るか、不安だな」

「……」


 その言葉に、エリーザベトは何も答えなかった。このままでは戴冠式予定日までに皇帝が決まらない可能性がある。


「……それではエリーザベト。私はこれで。何かあれば相談してくれ」

「はい。ありがとうございます」


 律儀に頭を下げてエリーザベトはそう言った。ヴィルヘルミーネはそのままジークハルトのもとに向かった。ジークハルトの離宮に行くと、再びエーリヒとヘルガに礼を言われた。


「兄上。何か問題でも?」


 呼び出された理由を尋ねると、ジークハルトは珍しく困った表情だった。


「それがだね。帝都郊外のマイツェンに傭兵がうろついているらしい。そのさらに向こうには軍が展開しているという話もある」

「……なんだか、あからさまになってきましたね」

「選帝侯会議が進展を見せないからだろうね」


 ジークハルトはそう言って肩をすくめた。ヴィルヘルミーネも乾いた笑い声をあげた。

 選帝侯会議は不可侵だ。法律でそう決められている。それを犯したのだ。いくらでもやりようがある。

 しかし、やはりあちらから引いてもらう方がいい。彼はヴィルヘルミーネたちにとっても叔父にあたるのだから。


「軍を派遣しましょうか? 圧倒的軍事力で叩き潰し、かなわない、と思わせるのも手かと」


 ヴィルヘルミーネには、それだけの自信があった。己の力を過信しているわけではないが、自分には優秀な部下がついている。


「それもいいけど、うーん……もっと穏便に行こうよ。誰か、この人こそ皇帝だ! っていう人がいればいいんだけど」

「私どもからすれば、兄上がそうですが」

「うん。ありがとう。うれしいけど、そう言うことじゃないんだよね……この人しかありえない! と思わせる人でないと」


 その言葉でヴィルヘルミーネの脳裏によぎったのは父のフェルディナンド2世……ではなく、異母妹のエリーザベトだった。正確には、彼女の母親シャルロッテ。あの人は「この人しかありえない!」と思わせる指揮官だった。

 シャルロッテは気さくな人で、幼いヴィルヘルミーネに剣の稽古をつけてくれた。結局、一勝もできないまま彼女は他界してしまったが。

 ことが終われば、エリーザベトに一戦申し込んでみようか。母親の代理戦はしないと言われるかもしれないが、ヴィルヘルミーネは小さな目的を作ってみた。言うではないか。目標がある方がやる気が出る、とか。


 ヴィルヘルミーネがひそかにそんなことを考えていると、ジークハルトはぽつりと言った。


「何とかならなかったら、最終兵器でも使ってみようか」






 ……何故最終兵器?







ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


ジークハルトの口調が一定にならない。たぶん、ヴィルヘルミーネに対してはエリーザに対するようなふざけた口調ではないと思うんですけど。


あと、2話か3話くらいで完結できるといいなぁ……。

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