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21、赤の帝国へようこそ

気付けば2週間の月日が……。

でも、赤の帝国編も次で終わりです。

 翠の王国ヘルウェティアの王太子ヴィルヘルムは、戴冠式予定日3日前に赤の帝国のミュラー宮殿についた。ユーディットを連れてくるか迷ったが、彼女を連れてくると護衛が増やされる気がしたので、結局ハインリヒだけを連れてきた。絶対、ユーディットの方がヴィルヘルムより強いと思うのだが……。


 帝都ベルクヴァインに着く道すがら傭兵を目撃し、やはり連れてこなくてよかった、とも思ったが。



「翠の王国のヴィルヘルム王太子殿下ですね。お待ちしておりました。どうぞ。ご案内いたします」

「ありがとう」


 そう微笑むと、10代後半ほどのメイドの少女は頬を赤らめた。ハインリヒが呆れたようにため息をついているが、気にしない。


 ミュラー宮殿は広大だった。まず、門から玄関まで、前庭が長い。そして、エントランスも広い。玄関まではミュラー宮殿の従僕が案内してくれたが、宮殿内になるとメイドに役目が移るようだ。

 案内してもらっているが、ヴィルヘルムは何度かこの宮殿を訪れ事があるため、中がどうなっているかは大体わかる。たまに増築されていたりするため、知らない場所に行くと迷うけど。


「まあ。ヴィルヘルム殿下ではありませんか?」


 媚びるような高い声が聞こえて、ヴィルヘルムは思わず顔をしかめかけたが、根性で笑みを浮かべる。進行方向に明るい金髪を上品に巻いた女性が立っていた。第3皇女ミリヤムだ。見ているだけなら美人だが、押しが強い。


「お久しぶりですね、ミリヤム殿下……」

「まあっ。覚えていてくださったのですね! わたくしに会いに来てくださいましたの!?」


 ミリヤムがメイドを押しのけてヴィルヘルムの正面に立った。


「いえ……3日後の戴冠式に出席しようと思いまして」

「そうですの! わざわざありがとうございます!」


 わざとらしいまでの笑みで話しかけてくるが、下心が見え見えである。いや、ヴィルヘルムも人のことを言えないかもしれないが! しかし、ヴィルヘルムはここまで押しが強くない。むしろ、最近人見知りな妹から『ヘタレ』認定されかけている……。

 現実逃避を試みるが、ミリヤムはヴィルヘルムの腕に自分の腕をからめ、胸を押し付けてきた。思わずちらっとハインリヒを見るが、彼には無視された。後で覚えてろ。


「よろしければ、わたくしが宮殿を案内いたしますわ。ご一緒にお茶でも同です?」


 まだ次の皇帝が決まっていないため、相手はまだ皇女。無難に断る言葉を思いつかずに顔をこわばらせていると、別の声がかかった。今度も女性だが、こちらは幾分低めの声だ。


「ミリヤム殿下。何をしているんですか?」


 ミリヤムが現れた方と同じ、ヴィルヘルムの進行方向から現れたのは、かつてヴィルヘルムがこの宮殿から連れ出した少女だった。明るい翠のドレスをまとい、きれいに着飾っているのに腕を組んでいる。スカートで足元は見えないが、おそらく仁王立ちしている……。


 前々から不思議だったのだが、どうしてエリーザはこんな成長の仕方をしたのだろうか。たぶん、グレイスのせいだけど。


「あら、エリーザベト。あなたこそどうしたのよ」


 ミリヤムが嫌味っぽく言った。これ見よがしに体をくっつけてくるので、ヴィルヘルムは意味ありげにエリーザを見てみる。眼があったのでそのままじっと見つめていると、エリーザは少し顔をしかめた。


「……ヴィルヘルム殿下が迷惑されているようですが」


 その通りだよ。ヴィルヘルムは深くうなずいた。


「言いがかりをつけないでちょうだい。わたくしは親切心から案内を申し出ただけよ」


 どこが親切心なのだろう。下心が丸わかりだ。ヴィルヘルムは心の中で、エリーザにはもう少し直接的に愛を伝えてみようと思った。


「……」


 エリーザ、そこで黙らないで。


「そう言うあなたは何しに来たのよ。呼びとめるなんてヴィルヘルム殿下のご迷惑でしょう」


 いや、呼びとめたのは、ミリヤム殿下、あなたです。


「私はずっと翠の王国に身を寄せていましたので。お世話になったヴィルヘルム殿下にあいさつに来ました」


 理由がまっとうすぎて泣けてくるのはヴィルヘルムだけだろうか……。


 ただ、理由がまっとうであるため、ミリヤムも反論を思いつかないようだ。エリーザはミリヤムを無視してスカートをつまんで赤の帝国風の挨拶をした。


「お久しぶりです、ヴィルヘルム殿下」

「久しぶりだね、エリーザ。元気そうで安心したよ」

「殿下もお元気そうで何よりです。ヨハネス殿下とは先日、お会いしましたが」

「無事に帰ってきたよ。代わりに、と言うわけにはいかないけど、戴冠式には私が出席するよ」

「わざわざありがとうございます」

「それにしてもエリーザ、その格好、似合っているね」

「……ありがとうございます」


 気づけば、ミリヤムが姿を消していた。メイドに尋ねるとしばらく前に憤然とした表情で離れて行ったらしい。


「……助かったよ、エリーザ」

「いえ……殿下が来たと聞いたんで見に来たら、たまたま」


 それで間に入ってくれたのか。だいぶアドリブが効くようになってきている。


「それに、ミリヤム殿下には個人的に恨みもありますから」

「へえ。君が? 珍しいね」

「背中に熱湯をかけられれば恨みも引きずります」

「……もしかして、私が君を翠の王国に連れて行ったときにしていた火傷は……」

「あの人にやられました」

「……」


 ヴィルヘルムは7年前、エリーザをこの宮殿から連れ出した時のことを思い出していた。ある意味誘拐だが、実は事前に彼女の父、つまり皇帝に許可を取っていた。皇帝があっさりと愛した女との娘を手放したのは、このことがあったからなのかもしれない。

 7年前、11歳の彼女は背中に火傷をしていた。手当はしてあったが適当に済ませた感が満載で、こんな小さな女の子にむごいことを、と思ったものだ。ちなみに、当時、小柄でやせぎすだったエリーザは、実年齢より3つほど幼く見えていた。


「……なんだか、私も恨みを抱きそうだよ」

「……私的には、ミリヤム殿下を振ってくださるとうれしいです。あの人が翠の王国の王妃になるとか、悪夢です……」

「あ、それは絶対にないから大丈夫」

「あのぉ……」


 恐る恐る、と言う風に小さな声でメイドが口を挟んできた。ヴィルヘルムははっとした。ミリヤム憎し、で盛り上がってしまったが、そう言えば、部屋への案内の途中だった。ハインリヒも口を挟んでくれればいいのに、と思ったのだが、いなかった。どうやら先に行ってしまったようだ。側近としてそれはどうなんだ?


 ともあれ、ヴィルヘルムはメイドに笑みを浮かべた。


「いや、申し訳ないね。エリーザベト皇女とは旧知でね」

「はあ……そうでしたか。ご案内してもよろしいですか?」

「頼みますよ。エリーザも、一緒に来てくれないかい? 少し話をしよう」

「……まあ、いいですけど……」


 少し戸惑った様子だったが、エリーザはヴィルヘルムが差し出した手を取ってくれた。ヴィルヘルムは満足げに微笑む。


「グレーテルとアリエが一緒だと聞いていたけど?」

「あの2人は宮殿の侍女ではありませんから、王城には入れないんです。殿下も、ユディを置いていらしたのですか?」

「ああ。言ってはなんだけど、赤の帝国はドロドロしてるからね……」

「ああ……なるほど」


 たぶん、連れてきていたら、ミリヤムに攻撃されて涙目になっていたに違いない。本当に、連れてこなくてよかった。まあ、ハインリヒが途中で救出した気もするが……。


「ディアは?」


 遠回しに選帝侯会議の状況を尋ねると、どうやらエリーザはヴィルヘルムの聞きたいことに気が付いてくれたようだ。


「皇族は原則、選帝侯とは会えないことになっていますから。しかし、あまり会議は順調ではないようです。今のところ、3対3で票が割れているそうですが……」

「選帝侯は7人じゃなかった?」

「……どうやら、ディアが私に票を入れているようで……」


 エリーザはいい迷惑、と言った表情で言った。ヴィルヘルムは苦笑したが、彼女なら、皇帝も勤まってしまう気がした。


 しかし、彼女が皇帝になっては困る。ヴィルヘルムの思いが遂げられなくなってしまうからだ。


「こちらが、ヴィルヘルム殿下のお部屋になります。何か用がございましたら、遠慮なく申付けください」


 メイドはそれだけ言うと、気を利かせたのか下がった。


「……あの、殿下」


 ヴィルヘルムがエリーザの手を離さずにいると、エリーザが小首を傾げてヴィルヘルムを見上げてきた。


「良ければ、だけど。名前で呼んでくれないか」

「名前? ヴィルヘルム様?」

「ヴィルでいい」

「ヴィル様?」


 エリーザはヴィルヘルムに言われたことを繰り返しているだけだ。だが、ヴィルヘルムは満足してうなずいた。


「うん。これからはそれで呼んでくれるとうれしいな」

「……はあ。善処します」

「ありがとう」


 ヴィルヘルムはエリーザの手を持ち上げると、指に口づけた。剣も握る彼女の手は、ほっそりしているが所々剣だこがあった。そこも含めていとおしいと思う。


「じゃあ、話しに付き合ってくれてありがとう」

「……あ、はい」


 固まっていたエリーザがこくりとうなずくのを見てから、ヴィルヘルムは部屋の中に入った。部屋の中では、すでにハインリヒがお茶の準備をしていた。


「あんた、何やってるんですか。そこでもう少しぐっと押せばいいのに。エリーザ、皇帝になる可能性だってあるんですよ」

「……ハインリヒ、お前、だんだん私に対して遠慮なくなってない?」


 早口でそんなことを言われ、恨む口調になるヴィルヘルムだ。ハインリヒは「気のせいです」と真顔で言い切った。


「ようやく名前で呼んでもらえるようになったわけですか」

「エリーザは素直だね。もう少し早く言っておけばよかった……」

「それはあんたが臆病なだけですよ」

「本命相手だと、意外と言葉が出てこないものだよ」

「そう言うもんですか」


 ハインリヒがどうでも良さ気に受け流した。段々彼のスルースキルが上がってきている気がする……。


「しかし、客室の並ぶ場所とはいえ、宮殿の廊下であんなことをするとは。明日には宮殿中に殿下とエリーザの噂が広がってるかもしれませんね」


 ハインリヒは何気なく言ったが、ヴィルヘルムはあり得そうだな、と思ってしまった。たぶん、案内してくれたメイドに見られた。





――*+○+*――





 ハインリヒの予見通り、翌日には翠の王国王太子ヴィルヘルムと赤の手国第十二皇女エリーザベトの噂が宮殿中に広がっていた。ヴィルヘルムの部屋の前でのやり取りを目撃したメイドがほかのメイドに話し、さらに親しい侍女に話、侍女は主人や客人にお茶会の噂話の一つとして提供し、半日ほどで宮殿中に広まったのである。

 伝言ゲームの常であるが、最終的に噂は『ヴィルヘルム殿下がエリーザベト皇女を抱きしめてキスをした』というところにまで飛躍していたが、エリーザベト皇女側に尋ねても、「何それ」と真顔で返されるだけだった。


 そして、その噂はこんな影響も与えていた。


「クラウゼヴィッツ伯。どうやら、あなたが押すエリーザベト皇女は翠の王国に嫁ぐようですな」

「……」


 ハルツハイム公爵に言われ、クラウディアは腕を組んだまま機能停止していた。どうしてそうなった。


 クラウディアはヴィルヘルムのこともエリーザのことも知っているため、噂を信じていなかった。まあ、ある程度は本当だと思うが、『抱きしめてキス』はないと思う。ヴィルヘルムにそこまでの甲斐性があるとは思えない。


 ただ、問題はこのままでは、クラウディアはジークハルトかヨーゼフかを選ばなければならなくなる、と言うことだ。


 クラウディアがエリーザを押し続けていたのは、簡単に会議を終わらせないためだ。現在、ジークハルト派が3、ヨーゼフ派が3で引き分けている。クラウディアの思いひとつで皇帝が決まると言っていい。


 しかし、このままでは赤の帝国が割れるのは必須だと思われた。エッシェンバッハ侯爵が泣きそうな目でこちらを見つめているが、あえて無視する。


 どうすればいいのだろうか。心情的にはヨーゼフではなくジークハルトを選びたい。しかし、そうすれば赤の帝国が割れるのはもちろん、エッシェンバッハ侯爵の人質も殺されてしまう。思えば、あのエッシェンバッハ侯爵の頼みは、クラウディアにヨーゼフを選んでもらうためのものだったのかもしれない。


「クラウゼヴィッツ伯、どうしますか?」


 ベルトラム大司教にも言われた。戴冠式は明後日。焦る気持ちはわかるが……。


「……やはり、私は」


 言いかけた時、会議室にノックがあった。会議室を警備している近衛兵だ。


「どうした」


 ハルツハイム公爵が怪訝そうに尋ねた。やや大根役者気味だったのは言わないでおく。クラウディアは耳をすませた。


「それが……帝都内に何やら傭兵団らしい軍隊が侵入してきているということで」

「何?」

「今にも攻撃してきそうな様子、だと……」


 ハルツハイム公爵の鋭い視線に、近衛兵は若干引き気味である。クラウディアはとっさに遠隔透視魔法リモートネス・クレヤボヤンスを使用して帝都を探った。


 ……いた。これは、傭兵。


 彼らは武器を構えて各攻撃態勢を取っていた。火炎放射器を持っているものもいる。それを見て何故かメアリを思い出したが、今は冗談を言っている場合ではない。


「確かに傭兵団が帝都に侵入し、戦闘を開始しようとしているようですけど」


 遠回しに『選帝侯会議の場合じゃないですよね』と訴え、クラウディアは何とかその場を逃れた。ベルトラム大司教に許可をもらい、クラウディアは宮殿の城壁に向かった。やや遅れてシュトライヒ伯爵がクラウディアを追ってきた。


「……絶景ですな」


 城壁の上に登ったシュトライヒ伯爵が言った。絶景、と言うか、傭兵たちがわんさかいる光景にしか見えないけど。


 フェルディナンド2世が亡くなり、好機とばかりに他国が攻めてくる可能性はあった。しかし、まさか身の内から切り崩されようとは。


 ふと、『オーダー』の諜報員であるエーリカが、秀一を護衛に諜報活動をしているはずであることを思い出した。あの二人は大丈夫だろうか。


「クラウゼヴィッツ辺境伯、シュトライヒ伯。ここは危険ですから、降りてください」


 城壁の上で見張りをしている兵士に言われ、クラウディアはしぶしぶ城壁から降りた。すると、そこに皇子と皇女が2名ずつ現れた。


 ジークハルト皇子、ベネディクト皇子、ヴィルヘルミーネ皇女、そして、エリーザベト皇女だ。皇女2人はドレスではなく、動きやすそうな男物の衣服をまとっている。


「これは殿下方。いかがなされました?」


 シュトライヒ伯爵が笑顔で尋ねた。この人、すげぇ根性だな。

 対するジークハルトも笑みを浮かべた。


「いや、外で不穏な動きがあると聞いてね。見に来たんだよ。ところで、ギルベルトは来てない?」

「見ていませんが」


 おや、とジークハルトが首をかしげる。さらに彼はエリーザにも尋ねたが、彼女は無視を決め込んだ。ジークハルトはため息をつく。


「……まあ、後で探すとして。とにかく、あれをどうにかしなければならないね」


 ジークハルトが言っているのは外にいる傭兵集団だろう。おそらく、エリーザの能力を使えばそれほど苦も無く討伐できてしまうと思うが……。


「……」


 無言で首を左右に振られた。どうやら、『精神矯正魔法ジャッジメント・オーダー』は最終手段らしい。確かに、あれは最終手段でないと困る。怖い。


「……雇い主に直接話を聞くのはどうでしょう?」


 ベネディクトが言った。ヴィルヘルミーネが彼を見上げる。


「ヨーゼフ殿下に、と言うことか? それはさすがにまずいんじゃないか?」

「……」


 ここでも無言を貫くエリーザ。彼女なら強制自白位させてしまいそうだが、と言うか、何のためについてきたんだ、あんた。


「何の騒ぎですか」


 うわぁ、噂の張本人だよ。フェルディナンド2世の異母弟ヨーゼフ殿下のお出ましである。どっから出てきた。

 ヨーゼフは50代前半ほどの男である。金髪はだいぶ薄くなってしまっているが、容姿はまだ整っていると言える。何となくフェルディナンド2世をほうふつとさせる顔立ちで、フェルディナンド2世を知っていればいるほど、彼を次の皇帝にしたくなるだろう。


「ああ、いいところに、叔父上。実は、外に傭兵集団が陣取ってるんですよ」


 ジークハルトが軽い口調で言った。いつの間にか巻き込まれてしまったクラウディアは、逃げることもできずにシュトライヒ伯爵と並んで事の推移を見守っていた。何かあったらエリーザに助けてもらおう。


「傭兵が? それはなぜですかな?」

「それがさっぱりわからないんですよ。まあ」


 ジークハルトはちらっとヨーゼフを見て眼を細めた。


「誰か手引きした人がいるんでしょうけど」

「なるほど。道理ですな」


 ヨーゼフはしらを切るつもりのようだ。ヴィルヘルミーネとエリーザの目がすっと細まり、それを見たベネディクトはぞわっとしたのか自分の腕をさすった。なんだかこの4人の力関係を見てしまった気がした……。

 クラウディアはこのままではらちが明かないな、と思って尋ねた。


「選帝侯会議ではヨーゼフ殿下の名をジークハルト殿下の名についでよく聞きます。皇帝になろうと、何か画策しているのではありませんか?」

「何を言いだすか、クラウゼヴィッツ伯。無礼だぞ」


 ヨーゼフの側近らしい男に言われたが、クラウディアは構わずにつづけた。


「私の父、エッシェンバッハ侯爵の父君。どちらも、殺されています。都合の良い選帝侯を生み出すために、誰かが殺したとしか思えません。私もエッシェンバッハ侯爵も若いですから、どうとでもなると思ったのかもしれませんね……何か知っていることがあれば、教えていただきたいのですが」


 これでどうだろう。直接名指ししたわけではないが、遠回しに『あんたがやったんだろ』と聞いてみる。ヨーゼフは余裕の表情を崩さなかった。


「申し訳ないが、私は知らんな」

「そうですか」


 クラウディアはあっさりを引き下がり、シュトライヒ伯爵と目を見合わせた。彼が小さくうなずいたのを見て、クラウディアはやはり、父を殺したのはこの男か、と思う。


「でも、あなたが小さな子供を攫って少年兵に仕立て上げていたのは事実。証拠はあるから、新皇帝が選ばれれば裁判ですね」


 エリーザがさらりと言った。敬意も何もない言葉だが、これにはジークハルトもぎょっとした。


「エリーザベト、いつの間にそんなことを調べていたんだ!?」

「クリスティアンに手伝ってもらいました。もともと可能性はあったんで、ちょっと情報集めするだけで簡単に犯人がわかりました」


 ほら、とエリーザは何かの資料をジークハルトに渡した。まあ、ラウルス城には様々な情報が入ってくるしね……。基本的に『オーダー』の情報は横流し禁止なのだが、これくらいは大目に見よう。黙っていてやる。

 ちなみに、クリスティアンはエリーザの異母兄であり、ジークハルトが所在を気にしていたギルベルトの同母弟だ。確か、第10皇子、かな?

 年も近いからか、エリーザと仲がよさそうだという話は聞いていた。もちろん、テレパシー能力を持つアリエノールからだが。


「ギル兄様が今、少年兵たちを保護しに行ってます。……ジークハルト殿下、どうします?」

「……君、行方を知ってたんじゃないか。とりあえず、子供たちはギルベルトに保護してもらっておいて……ヨーゼフ叔父上。一応、言い訳は聞きましょうか」


 ジークハルトが腹黒そうな笑みを見せる。いや、証拠を集めたのはエリーザだけどね。


「……手際がいいな。さすがはリューベック将軍の娘だ」


 ヨーゼフがあきらめがちに言った。そのいさぎよさに感心するより、クラウディアは不信感を覚えた。


「少々潔すぎだな」

「ですね」


 シュトライヒ伯爵とクラウディアはこそこそと言葉を交わす。ベネディクトがちらっとこちらを見て苦笑した。


「まあ、私が捕らえられたところで、傭兵たちは止まらん。腑抜けたこの国の軍人が勝てるはずないだろう」


 ヨーゼフの言葉に、クラウディアは思わずエリーザの顔を見た。偶然彼女もこちらを向いていて、目が合った。


 どうしようか。


 どうしようかねぇ……。


 そんな会話が視線だけで交わされる。


 ただ、何とかなる気がする。とりあえず、ヨーゼフは拘束し、閉じ込めておくことにした。




 とりあえず、この先はクラウディアの仕事ではない。ヨーゼフが拘束された今、早急に次の皇帝を選ぶべきだ。






ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


とりあえず、1週間後を目安に更新したいなぁ……。

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