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第27話 デートって何をすればいいんだ

 しかし、困ったな。


 デートをしろと言われたものの、俺は沙奏のことをまだほとんど知らない。


 何が好きなのか。


 どこへ行けば喜ぶのか。


 そもそも普段、何をして過ごしているのかすら知らない。


「…………」

「…………」


 隣を歩く沙奏も、先ほどから落ち着かない様子で辺りをきょろきょろと見回している。


 分かってはいたが、沙奏もデートにはまるで慣れていないようだ。


 とはいえ、このまま目的もなく街を歩き続けても仕方がない。


 どこか、二人で楽しめそうな場所は——。


「ん?」


 ふと、賑やかな電子音が耳に入った。


 視線を向けると、大きなゲームセンターが目に留まる。


「…………」


 なるほど。


 デートについては何も分からない俺だが——。


「まずは、ここへ行くぞ」

「ゲームセンター?」

「ああ」


 俺は自信満々に頷いた。


「ここなら少しは心得がある」

「私、ゲームセンターって入ったことない……」

「そうなのか?」

「うん……」


 それなら、ちょうどいい。


 俺たちはゲームセンターへ入り、まずは入り口付近にずらりと並んだクレーンゲームを見て回ることにした。


「最近の流行りものばかりだな。俺にはさっぱり分からん」

「あっ!」


 突然、沙奏が大きな声を上げた。


「ちょんまりん! 私、ちょんまりん好き!」

「ちょんまりん……だと?」


 沙奏が指差した先にいたのは、頭にちょんまげを生やした犬のような謎のキャラクターだった。


「…………」


 なんだ、こいつは。


「あまり……可愛いとは思えんな」

「ええっ!? 伊阪利ちゃん、ちょんまりんの可愛さが分からないの!?」

「分からん」

「こんなに可愛いのに!」


 沙奏はクレーンゲームへ駆け寄ると、アクリル板にぴったりと張りついて景品を覗き込んだ。


「ちょんまりん……可愛い……」


 大きな胸がアクリル板へ押しつけられ、柔らかそうに形を変えている。


「おい、見ろよ……あの胸のでかい子」

「やばっ。しかも、めちゃくちゃ美人じゃん」


 周囲から、ひそひそと話す声が聞こえてきた。


「…………」


 やはり目立つな。


 当の本人はちょんまりんに夢中で、周囲の視線などまったく気づいていないようだ。


「姉唐さん……とりあえず、そこから離れないか?」

「ええっ!? ちょんまりん欲しい!」


 沙奏が不満そうにその場で跳ねる。


「欲しい、欲しい! ちょんまりん欲しい!」

「分かった、分かった!」


 完璧なお姉さんになると息巻いていた女とは思えない。


「俺が取ってやるから、一度離れてくれ」

「……いいの?」

「ああ。任せろ」


 俺は百円玉を投入し、操作台の前へ立った。


 一回目で、アームの強さと景品の重心を確認。


 二回目で、景品を取り出し口の近くまでずらす。


 そして三回目、重心からわずかに外れた位置へアームを下ろした。


 ゴトン。

 

「あっ!」


 ちょんまりんが、取り出し口へ落ちた。


「取れた! すごーい! 伊阪利ちゃん!」


 沙奏が目を輝かせながら、俺のもとへ駆け寄ってくる。


「ふっ。クレーンゲームには少し心得があってな。ただ闇雲に持ち上げればいいわけじゃない。景品の形と重心、それからアームの強さを見極めて——」

「あっ! こっちには、違うポーズのちょんまりんがいる!」


「…………」


 まったく聞いていないな。


 沙奏は俺の説明などそっちのけで、隣のクレーンゲームへ駆けていく。


「ねえ、伊阪利ちゃん」


 先ほど取ったちょんまりんを胸に抱きながら、期待に満ちた瞳で俺を見つめてきた。


「こっちも欲しいなぁ……」

「…………」


 完全におねだりの顔だ。


 しかも、抱き締められたちょんまりんが、その豊かな胸にむぎゅっと押し潰されている。


「…………」


 ちょんまりん。


 なんと羨ましいやつなんだ。


「……分かった。取ってやる」

「本当!? やったぁ!」


 沙奏が無邪気に笑い、その場でぴょんっと飛び跳ねる。


 それに合わせて、豊かな胸も大きく弾んだ。


「…………」


 思わず目で追ってしまう。


 くそ。


 なんて良いものを持っているんだ……。


「やったぁ! 二人揃った!」


 二体目のちょんまりんも手に入れると、沙奏は両腕にぬいぐるみを抱え、嬉しそうにはしゃいでいた。


「こっちが座ってるちょんまりんで、こっちが寝転がってるちょんまりん!」

「そ、そうか」


 やはり俺には、どちらも可愛いとは思えない。


「えへへ……可愛い……」


 沙奏は二体のちょんまりんへ頬を寄せ、幸せそうに笑っている。


「…………」


 作り物めいた艶っぽい微笑みとは、まるで違う。


 そこにいるのは、お気に入りのぬいぐるみを手に入れて無邪気に喜ぶ、普通の女の子だった。


 完璧なお姉さんになる。


 つい先ほどまで、そう意気込んでいたはずなのだが——。


 今の沙奏は、理想のお姉さん像から全速力で遠ざかっている。


「伊阪利ちゃん! あれは何?」

「あれはゾンビシューティングだ」

「私……やってみたい!」

「よし。なら、やってみるか」


 俺たちは並んで筐体の前に立ち、それぞれ銃を構えた。


『ヴァアアアアッ!』


 ゲームが始まってすぐ、画面の端からゾンビが勢いよく飛び出してくる。


「来たぞ、姉唐さん!」

「ふええええっ! 来ないでぇぇぇ!」


 バン! バン! バン!


「って、どこを撃っている!?」


 沙奏は完全に目を閉じたまま、明後日の方向へ銃を乱射していた。


「無理無理無理! 怖いぃぃ!」

「自分からやりたいと言ったんだろう!?」

「こんなに怖いなんて聞いてないもん!」


 その間にも、画面では次々とゾンビが迫ってくる。


「くっ……このままでは、最初のボスにすら辿り着けん! 姉唐さん、その銃を貸してくれないか!」

「えっ?」

「俺に任せろ!」


 沙奏の手から銃を受け取り、両手に一丁ずつ構える。


「うおおおおおっ!」


 左右から迫るゾンビを、次々と撃ち抜いていく。


 そして——。


『STAGE CLEAR!』


「よし!」


 なんとか第一ステージをクリアできた。


「ふぅ……危なかったな」

「…………」


 返事がない。


 振り返ると、沙奏が二体のちょんまりんを胸に抱えたまま、きらきらと瞳を輝かせて俺を見つめていた。


「伊阪利ちゃん……かっこいい」

「…………っ!」


 そこに、計算された仕草も、わざとらしく甘い声音もない。


 ただ、心からそう思ってくれたのだと分かる、素直な一言だった。


 あれほど妖艶に迫られても高鳴らなかった胸が——飾り気のないその言葉だけで、大きく跳ねた。

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