第18話 フルスイングはやめてくれ
こうして、俺のハーレムに四人目——萬地ぱなえが加わった。
「てことで、みんなよろー!」
ぱなえが明るく手を振る。
「やっぱり、ぱなえちゃんも仲間に入ったんだ!」
走琉は、自分のことのように喜び。
「槍田君が決めたのなら構わないけれど、勉強まで疎かにしないようにしてね」
紀律は、相変わらず真面目で。
「ああ……やっぱり、こうなるのね」
なじみは、深いため息をついた。
うむ。
みんな、ぱなえを快く迎え入れてくれたようだ。
新たな仲間も加わり、俺のハーレムはますます賑やかになっていくだろう。
「ぐはっ!」
突然、背中に鋭い衝撃が走った。
俺は大きく体勢を崩し、床に手をつく。
「ちょっと! 邪魔なんだけど。通路を塞がないでくれる?」
背後から、苛立った声が飛んできた。
「ただでさえ、このクラスに男がいるだけで反吐が出そうなのに。朝から騒がないでよね!」
振り返る。
そこに立っていたのは、金髪のツインテールを揺らす小柄な美少女だった。
俺を蹴り上げていた片脚を下ろし、汚いものでも見るような冷たい目を向けている。
「ちょっ、いざっち!?」
ぱなえが慌てて俺へ駆け寄ってきた。
「大丈夫!? ていうか、いきなり蹴るとかヤバくない!?」
「待て、ぱなえ」
「え?」
俺は何事もなかったように立ち上がり、制服についた埃を払った。
「心配する必要はない」
「いや、思いっきり蹴られてたけど?」
「あの金髪ツインテールに、こちらを見下すような態度。これは間違いなく——ツンデレだ!」
「…………はあ?」
「素直になれない女の子が、好意を隠すために相手へ強く当たってしまう。つまり、今の蹴りにも悪意などない!」
「バッカじゃないの!? 好意なんてあるわけないでしょ!」
金髪ツインテールの少女が、即座に叫んだ。
「アンタのことなんか、大っ嫌いだから蹴ったのよ!」
「なるほど。模範的なツンデレ発言だな」
「ほんっとムカつく!」
少女は苛立たしげにツインテールを揺らすと、俺たちの横を通り過ぎていった。
「…………」
遠ざかっていく背中を目で追う。
吊り気味の大きな瞳。
小柄な身体。
口元から覗く、尖った八重歯。
そして、見るからに気の強そうな態度。
間違いない。
彼女は、完成されたツンデレ美少女だ。
少女は教室の窓際にある席へ腰を下ろすと、こちらを見ることもなく頬杖をついた。
「なじみ。彼女は誰だ?」
「同じクラスなのに知らないの?」
「ハーレムメンバー以外は、覚えていない」
「はぁ……まあ、槍田くんだもんね」
なじみは窓際の少女へ視線を向けた。
「あの子は、照華玖詩ちゃん」
「照華……玖詩……」
名前を確かめるように呟き、もう一度窓際へ目を向ける。
すると——。
「…………」
ばっちり目が合った。
「なによ!」
玖詩はキッと俺を睨みつけると、ぷいっと顔を逸らす。
「玖詩ちゃん、いつもあんな感じなのよね」
「そうなのか?」
「うん。誰かに話しかけられても、『邪魔』とか『視界に入らないで』とか平気で言っちゃうし」
「……それは確かにひどいな」
そんな態度を取っていたら、周囲から人が離れていってしまうだろう。
「でも、悪い子じゃないんだよ」
「そうなのか?」
「うん。ちょっと……人付き合いが苦手なだけ」
「人付き合いが苦手……」
確かに、あの態度では友達を作るのも難しそうだ。
「俺は照華さんのことを、もっと知りたくなった」
「また始まった……。玖詩ちゃん、たぶん槍田くんのこと、本気で嫌いだと思うよ?」
「いや。さっきの蹴りも、俺には『もっと私のことを見て』と言っているようにしか思えなかった」
「ほんっと、おめでたい頭してるよね……」
なじみが、深いため息をつく。
「しかし、なじみは照華さんに詳しいんだな」
「テニス部で一緒だからね。それに——」
「それに?」
「玖詩ちゃんが学園で普通に話せる相手って、たぶん私くらいだから」
「なじみだけなのか?」
「うん。本人は、友達なんていらないって言ってるけどね」
「なるほど……」
人付き合いが苦手で、友達はなじみ一人だけ。
そう聞くと、ますます玖詩が気になってくる。
これは一度、テニス部の活動を見に行く必要がありそうだ。
玖詩について知るため。
そして何より——。
テニスウェア姿のなじみを、この目に焼きつけるためにな!
◇◇◇◇◇
そして俺は、なじみには内緒で、放課後のテニスコートへ向かった。
コートでは、テニスウェア姿の女子たちが楽しそうに汗を流している。
「おお……なんだ、この楽園は……!」
俺はテニスコート脇の物陰に身を潜め、フェンス越しに様子を窺った。
その中でもひときわ目を引いたのは、白いテニスウェアに身を包んだなじみだった。
「…………」
ああ……なんて可愛いんだ。
普段の柔らかな笑顔とは違う、真剣な表情。
ボールを追いかける軽やかな足取り。
鋭くラケットを振り抜くたびに、短いスカートがふわりと揺れる。
そこから覗く、健康的な太もも。
俺はフェンス越しに、食い入るようになじみの姿を見つめた。
「素晴らしい……実に素晴らしい脚だ、なじみ……! いつか、あの魅力的な脚を——」
ガシッ!
「ん?」
突然、背後から頭を鷲掴みにされた。
次の瞬間——。
ガシャァン!
「ぐはっ!?」
顔面をフェンスへ押しつけられる。
「い、痛っ! なんだ!?」
「何してんのよ、この変態!」
聞き覚えのある声だった。
顔をフェンスへ押しつけられたまま、どうにか後ろへ視線を向ける。
そこにいたのは——。
「照華さん!?」
なじみと同じテニスウェアに身を包んだ玖詩が、俺の頭を片手で掴んでいた。
その顔には、心底軽蔑した表情が浮かんでいる。
「女子のテニスウェア姿を、フェンスに張りついて眺めてるなんて……」
玖詩の指に、さらに力がこもる。
「この犯罪者!」
「誤解だ!」
「どこに誤解の余地があるのよ!」
「ぐあああっ!」
さらに強く、顔をフェンスへ押しつけられる。
「このまま警察に突き出してやるわ」
「待ってくれ! 俺はただ、なじみの可愛い姿をどうしても見たくて……」
「それを変態だって言ってんのよ!」
「いや、しかし——」
俺は痛みに耐えながら、改めて玖詩へ視線を向けた。
なじみと同じテニスウェア。
だが、玖詩が着ると、また違った可愛らしさがある。
「照華さんもよく似合ってるな」
「…………え?」
玖詩の動きがぴたりと止まった。
みるみるうちに、その頬が赤く染まっていく。
「可愛いと思うぞ」
「なっ……なななっ……!」
玖詩が右手に持っていたラケットを、大きく振りかぶった。
「おい……まさか……!」
「死ね! このゴミ! クズ! 変態!」
ブンッ!
「ぐはぁっ!?」
玖詩のラケットが、今日二度目となる俺の顔面を襲った。
なるほど。
照華玖詩。
彼女は間違いなく——生粋のツンデレ娘だ。




