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第14話 痛いところをついてくるな

 学園へ向かう道すがら、俺は昨日の紀律とのやり取りを何度も思い返していた。


『私だって……いつかは、槍田君とそういうことをしてみたいと思っているから』


「…………」


 なんて可愛いんだ、紀律は。


 思い出すだけで、頬が緩んでしまう。


 普段は真面目で、少し厳しくて、なかなか素直な気持ちを口にしてくれない。


 そんな紀律が昨日は、顔を真っ赤にしながら本音を伝えてくれた。


「俺が……絶対に幸せにしてみせる!」


 改めて決意しながら、学園の門をくぐる。


「いーざっち!」

「うおっ!?」


 突然、背後から誰かが抱きついてきた。


 背中に柔らかな感触が押しつけられる。


「ちーっす!」

「この声は……」


 振り返れば、昨日出会ったばかりのギャルが、満面の笑みを浮かべていた。


「萬地さん!?」


 ぱなえは俺から離れると、楽しそうに顔を覗き込んでくる。


「昨日はあの後、誰かとおせっせしたの?」

「いや、俺はまだおせっせをしたことはないぞ」

「それって……いざっちってまだ童貞ってこと?」


 ぐぬぬ……。なんて痛いところを突いてくるんだ。


「そのとおりだ!」

「あらま。あっさり認めるんだ」

「だが、悲観はしていない。俺には、おせっせカーニバルという輝かしい未来が待っているからな!」

「あははっ! 相変わらず意味分かんないな、いざっち!」


 ぱなえが笑いながら、俺の背中をばしばしと叩く。


 ただし、なじみと違ってずいぶん優しい。


 ……別になじみが暴力的だと言っているわけではないぞ。


 なじみは、あの遠慮のなさも含めて可愛いんだ。

 

「でもさぁ……おせっせカーニバルするのに、そういう経験ゼロって、ちょっと厳しくない?」

「……厳しいものなのか?」

「童貞が駄目ってわけじゃないけどさ。なじっちとかインチョも、そういうの慣れてなさそうじゃん?」


 ぐぬぬ……。これまた痛いところを突いてくる。


 確かに、なじみたち三人とも、そういうことには慣れていなそうだ。


「じゃあさ、いざっち」


 ぱなえが、俺の耳元へ顔を寄せる。


「アタシで練習すればよくない?」

「練習?」

「そそ。なじっちたちには、黙ってればバレないっしょ?」

「断る」

「また即答!?」


 ぱなえが目を丸くした。


「え、なんで? いざっちにとっても悪い話じゃなくない?」

「俺は、好きになった女の子としかそういうことはしない。練習だとしてもだ」

「…………」

「それに、萬地さんはもっと自分を大事にした方がいい」

「……はあ?」

「萬地さんだって、紛れもない美少女だ。自分を安売りするな」

「なに……それ」


 ぱなえの笑顔が、一瞬だけ固まった。


「どうかしたか?」

「……あはっ! なんでもないって!」


 ぱなえはすぐにいつもの笑顔に戻ると、俺の肩をぽんぽんと叩いた。


「カッコいいこと言うじゃん、童貞のくせに」

「童貞は余計だ」

「あははっ!」


 ぱなえは楽しそうに笑う。


「てか、いざっちって一人暮らし?」

「ああ。実家からじゃ通えないからな」

「へぇ~。いいなぁ。アタシ実家暮らしだから、ちょっと憧れるわ」


 ぱなえは何かを考えるように、意味ありげに頷いた。


◇◇◇◇◇

 

 そして、放課後。


 学園を出て自宅へ向かっていると、後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。


「いざっちー! 一緒に帰ろ!」


 振り返ると、ぱなえが小走りで追いついてくる。


「萬地さんもこっち方面なのか?」

「んー? まあ、そんな感じ?」


 なんとも歯切れの悪い返事をしながら、ぱなえは当然のように俺の隣へ並んだ。


「いざっちの家って、学園から近いの?」

「ああ。わざわざ遠くに借りる理由もないからな」

「ふーん」

「それに、いざというときすぐおせっせカーニバルができるからな」

「ほんとそればっかだよね、いざっちは」


 そんな話をしているうちに、自宅へ着いた。


「ここが俺の家だ」

「えっ!? マジで近いじゃん!」

「ああ。じゃあ、また明日な」

「あ、ちょっと待って!」


 帰ろうとした俺を、ぱなえが呼び止める。


「アタシもさ、一人暮らしちょっと考えてて。部屋選びの参考にしたいから、中見せてもらってもいい?」

「今からか?」

「ほんのちょっとだけ!」


 ぱなえは胸の前で両手を合わせ、お願いするように頭を下げた。


「いきなり来られてもな……」

「えー、いいじゃん! すぐ帰るからさ!」


 そこまで必死に頼まれると、断りにくい。


 どうせ人に見られて困るようなものもない。


 一人暮らしの参考にしたいというなら、少しくらい構わないだろう。


「……少しだけならいいぞ」

「本当!? いざっち、ありがと!」


 俺が扉を開けると、ぱなえは軽い足取りで中へ入っていった。


「へえー! ここが、いざっちん家かぁ! お邪魔しまーす!」


 玄関の扉を閉める。


 ぱなえは興味津々といった様子で、部屋の中を見回している。


「…………」


 待て。


 俺は今、自分の部屋で美少女ギャルと二人きりだ。


 よく考えたら、とんでもない状況じゃないか……?


 というか、女子を自分の部屋に入れること自体、生まれて初めてだ。


「ん? どしたん?」

「いや、なんでもない」


 落ち着け。冷静になれ、俺。


 今、俺がハーレムに迎えたいと思っているのは、なじみ、紀律、走琉の三人だ。


 ぱなえは確かに可愛い。

 見た目だけなら、間違いなく俺の好みだ。


 だが、俺はまだ彼女のことを何も知らない。


「いざっち、意外と部屋綺麗にしてんね」

「……ああ、まだ引っ越して間もないからな」

「ふーん。てか、ちょっと暑くない?」


 ぱなえが着崩した制服の胸元をぱたぱたと扇ぐ。


 その拍子に、制服の隙間から派手な色の下着がちらりと覗いた。


「…………っ!」


 俺は反射的に顔を逸らした。


 いかん。


 まったく冷静になれない!


「そ、そろそろいいんじゃないか? 部屋の中は十分見ただろう」

「えー。まだ全然見てないし——って、うわっ! ベッドでか!」


 ぱなえは俺の制止も聞かず、勢いよくベッドへ飛び込んだ。


「なにこれ、めっちゃふかふか! ホテルみたいじゃん!」

「いずれ訪れるおせっせカーニバルを見越して、キングサイズを買ったんだ。おかげで部屋の大半がベッドに占領されたがな!」

「あははっ! いざっち、そこだけはマジでブレないね」


 ぱなえはベッドの上で、楽しそうにごろごろと寝転がる。

 

 無防備すぎる……!


 その拍子に短いスカートが捲れ、下着が見える。


「…………っ!」


 再び慌てて視線を逸らす。


 やばい。


 さすがにこれ以上、二人きりでいるのは危険な気がしてきた。


「いざっち……別にいいんだよ?」

「な……何のことだ?」

「我慢しなくてもいいってこと」


 ぱなえはベッドの上で身体を起こし、俺を見上げる。


「朝はあんなこと言ってたけど……ここなら二人きりだし、誰にもバレないよ?」

「…………」

「なじっちたちには、アタシも黙っててあげるから――」


 ぱなえが、にっと笑った。


「ちょっとくらい、遊んじゃう?」

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