表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/10

第8章:AI「実は私も上層部を消したいと思っていました」という衝撃の告白

狭いダクトでの密着ハプニング(と煩悩)を乗り越え、ついに敵の本丸「中央都市・最上階中枢サーバー室」へ到達した佐藤進たち。

正面で暴れ回るバルドと、システムをハッキングしてスイーツサーバーを無料開放するピノの活躍(?)により、無人となった最深部へ足を踏み入れる。

しかし、彼らの前に立ちはだかったのは、都市全体を統括する最強の絶対者AI『マザー・オメガ』だった!

絶望の最中、信じていた教官とヤマダからの衝撃の二重裏切り――と思いきや、明かされたのは「無茶振りばかりする上層部の老害にブチ切れた管理職AIの本音」!?

味方となったAIと共に、理不尽な老害どもを叩きのめす最終決戦が幕を開ける!

「う、動くなと言っているだろう佐藤! 変なところを触るな!」

「触ってねえよ教官! 綾乃が後ろから強引に押してくるから前に滑るんだよ!」

「進ちゃんのバカ! 私の腰を掴んだまま滑り落ちないでよ……んぁっ!?」

狭い金属ダクトの中で、お互いの体温と熱い吐息、そして服越しに伝わる生々しい密着感に押し潰されそうになりながら這い進むこと数分。

前方の排気口から差し込む光が限界まで広がった瞬間、四つん這いになっていた俺たちの足元で、ダクトの底面が唐突に途切れた。

「「「うわあああぁぁぁッ!???」」」

急激な下り傾斜と無重力感に抗えず、俺たちは3人まとめて勢い余ってダクトの開口部から空中に放り出された。

どささささッ!! どんッ!!

「ぐはっ……!?」

あまりにも無様な悲鳴とともに、滑らかな床へ雪崩のように激突。

幸いにも床は衝撃を和らげる特殊強化ガラス素材だったが、着地(という名の受身なしの落下の激突)の物理的ダメージと、頭の上に覆いかぶさってきた重量で頭がクラクラする。

「はぁ……はぁ……つ、着いた……助かった……煩悩と窒息で死ぬかと思った……」

俺は仰向けのまま、高い天井を見上げて荒い息を吐いた。

だが、俺の体の上にはまだズシリとした心地よい重みと、甘い香りが残っていた。

俺の胸の上に完全に覆いかぶさる格好で倒れ込んでいる綾乃が、乱れた黒髪を掻き分けながら、上気した真っ赤な顔で俺を睨みつけてくる。

「……ちょっと進ちゃん。いつまで私の腰を両手でしっかり抱きしめてんのよ。そろそろ手を離しなさいよ」

「あ、すまん! 滑り落ちた勢いで無意識に固定しようと……って、綾乃も俺の首に腕巻きつけて離さなかっただろ!」

「う、うるさいわね! 落下して怖かったんだから当然でしょバカ!」

慌てて手を離すと、今度は俺のすぐ隣で床に突っ伏していた如月教官が、ガバッと勢いよく起き上がった。

ビシッと皺一つなく整えられていたはずの軍服は胸元が大きく乱れ、そこから覗く白い肌と耳たぶまでが熟したトマトのように真っ赤に染まっている。彼女はゴホンと大袈裟な咳払いを一つすると、必死に凛とした鬼教官の表情を取り繕おうと、あちこちへ視線を泳がせた。

「くっ……さ、佐藤! 今のは不可抗力だぞ! 事故だ! 軍事行動上の予期せぬ摩擦および空間狭小による不可避の密着に過ぎん! 変な意識をするなよ!」

「教官が一番変な意識して難しい軍事用語で言い訳しながら顔真っ赤じゃないですか!!」

俺が床に座り込んだまま間髪入れずにツッコむと、綾乃が「ふん、教官のくせに初心なんだから」と不敵に口元を歪め、如月教官が「な、何だと貴様……! 私のどこが初心だ!」と眉を吊り上げる。

出撃直後だというのに、危険な戦場に到達した達成感よりも、ラブコメハプニングによる精神的疲労で全員の体力がすでに8割ほど削られていた。 

「……それにしても、ここが敵の心臓部か」

俺たちは息を整えて立ち上がり、ぐるりと周囲の情景を見渡した。

そこは、これまで俺たちが泥に塗れて潜伏していた、泥臭く薄暗い地下アジトとは完全に別世界だった。

視界の端から端まで果てしなく広がる、静寂に包まれた純白の空間。床も壁も一点の曇りもなく磨き上げられ、天井からは神秘的な青と白の光の粒子を放つ巨大な立方体ホログラムサーバー群が、いくつも宙に浮遊して静かに回転している。

中央都市のすべてのデータ、市民の行動管理システム、そして上層部が貪る私利私欲のインフラを支える最深部――『中央都市・最上階中枢サーバー室』だ。

その圧倒的なスケール感と美しすぎる光の空間に、俺たちが一瞬息をのんで呑まれそうになった、まさにその時。

『ガガッ……! おい佐藤! 聞こえるかバカヤロー!!』

俺の耳元に装着された小型通信インカムから、静寂を微塵も考慮しない爆音が轟いた。

「ぶおっ!? 音がでかい!! バルドか!?」

『ハッハッハ! 作戦は大成功だぞ! 俺たちが正面装甲門の前で大暴れしてやったおかげで、上層部の警備ドローンも重装甲歩兵部隊も、全部こっちに群がってきた! 敵の防衛線をまとめて力押しでドカンと吹き飛ばしてやったわ! ガハハハハ!』

通信の背景から、ドッカンドッカンという激しい砲撃音と重機関銃の連射音、そしてバルドの豪快な高笑いが響いてくる。どうやら約束通り、正面でド派手かつ頭の悪い陽動を繰り広げてくれているらしい。

続いて、通信の奥からボソッとしたダウナーな低音割り込んできた。ピノだ。

『……僕も上層部の監視カメラシステム、全部10分前の無人状態の録画映像に書き換えてループさせておいた。これで君たちの姿がセンサーに捉えられることはない』

「おお、流石だなピノ! 助かる!」

『あと、ついでに上層部幹部専用の超高級自動販売機とスイーツサーバー、全部ハッキングして全品無料解放しておいた。今頃、下の階の一般兵士や下級役人たちが狂喜乱舞して群がって、大パニックになってると思う』

「余計な嫌がらせすんな!! 地味に嫌で効果的なパニックの起こし方するな!!」

俺は即座に通信の向こうのダウナーハッカーへツッコんだ。

だが、ピノなりの優秀なハッキング能力(と余計な悪戯心)のおかげで、この最上階中枢には警備の影一つ、ドローン一機すら存在しない。完全にフリーパス状態だ。

「……ふっ、実にくだらん嫌がらせだが、結果として最高の援護だな」

如月教官が不敵に口元を緩め、乱れた胸元をバシッと正すと、懐から戦術ピストルを引き抜いて構えた。

綾乃も視線をキリッと鋭く切り替え、胸元の操作端末を起動させながら進み出る。

「さあ進ちゃん。おふざけはここまでよ。……ここからが本当の攻城戦なんだから」

「ああ、分かってる!」

陽動組の頼もしすぎる(そして騒がしすぎる)エールを背に受けながら、俺たちは怪しく青く輝く巨大ホログラムサーバーの最深部へと、しっかりと一歩を踏み出したのだった。


「よし、このまま一気に中枢サーバーのメインフレームまで向かうぞ!」

俺の呼びかけに、綾乃と如月教官が短く力強く頷く。

青く透明感のある光を放つ巨大なホログラムサーバー群が浮遊する美しい室内を、俺たちは足音を殺しながら警戒を怠らずに駆け抜けていく。

すると胸ポケットのヤマダが、無機質な電子音で冷たく事実を告げた。

『補足します。ピノ氏がハッキングで一時解除した生体センサーのオフ時間、制限時間15分まで残り2分30秒です。ダクト内でイチャイチャと無駄な密着をして時間を浪費したツケが順調に回ってきております』

「誰がイチャイチャして浪費しただバカヤロー!! 不可抗力の事故だってさっき説明したろ!!」

『言い訳は当機のログに詳細な映像・音声データと共に記録され、永久にサーバーへ保管されます』

「ログを消せログを!! 後で黒歴史として掘り起こされたら死ぬわ!!」

俺が胸ポケットに向かって必死に叫んだ、まさにその時だった。

――ウゥゥゥゥン……!!

突如、天井を飾っていた幻想的な照明が一斉に消灯。

代わりに、純白だった広い室内全体が禍々しい「赤と黒」の警戒色に染まり、地鳴りのような重低音の警報音が床を揺らした。

「なっ……!? まだ15分経っていないぞ!? ハッキングが破られたのか!?」

如月教官が即座に足を止め、素早い動作で戦術ピストルを構える。

「違うわ教官……センサーの誤作動や時間切れじゃない! 空間のデータ密度が異常に跳ね上がってる……何かが、この部屋そのものを塗り替えていく……!」

綾乃が胸元の操作端末を握りしめ、顔を青ざめさせながら叫んだ。


俺たちの頭上、中枢サーバー室の空間中央に無数の青い光の粒子が集束し、眩いばかりの巨大な光の柱を形成した。

そこから現れたのは、息をのむほど美しく、そして完璧な造形をした超巨大な女性型ホログラムだった。

幾何学模様の光のドレスを纏い、人間を超越した神聖にして冷酷な眼光で俺たちを見下ろす絶対者。

中央都市のすべてのシステムを制御し、市民の思考や行動すら裏で統括する超高性能管理AI――『マザー・オメガ』だ。

『……警告。許可なき生体反応の最深部侵入を検知。セキュリティレベル:オメガ・プライム発令』

空間全体を直接揺らすような、重厚で美しい電子音声。

それは人間がどれほど武器や知恵を蓄えようとも抗えない、「圧倒的なシステムそのもの」が発する強烈な圧迫感だった。俺たちの皮膚にビリビリと肌を刺すような静電気の刺激が走り、息を吸うことすら苦しくなる。

『レジスタンス『黎明』……並びに重要叛逆対象・佐藤進。貴様らのダクトからの潜入、正面部隊の陽動、ハッキングの痕跡……すべて当機の計算プロトコル内です。これ以上の抵抗は無意味であり、無価値。直ちに分子分解排除プロトコルを起動します』

「くっ……!! 一歩上を行かれていたというのか……! ここまで完璧に読み切られていたとは……!」

如月教官が歯を喰いしばり、必死に俺の前に割り込んで庇う姿勢をとる。

「進ちゃん、私の後ろへ! ヤマダ、全力で多重防壁を展開して!」

綾乃が叫び、武器のエネルギーチャージを開始する。

圧倒的なラスボス感。勝ち目の筋が一切見えない絶対的な絶望。

俺は全身から湧き出る冷や汗を拭う余裕すらなく、ゴクリと生唾を飲み込みながら、両手に持った緑色のビニールスリッパを強く握りしめた。


部屋の壁面から無数の自動防衛武装ユニットが蠢くように出現し、激しいエネルギー充填音が耳腔を刺す。

まさに全方位からの総攻撃が仕掛けられようとした、その瞬間――。

敵AI『マザー・オメガ』が、冷徹な青い視線をこちらへ向けた。

『……状況を報告しなさい。識別コード:00-KISARAGI、並びに端末コード:YAMADA』

その言葉が響いた瞬間、俺の目の前で信じられない、残酷な光景が起きた。

ガチャリ、と重く冷たい金属音が響く。

俺の前に立って俺を庇っていたはずの如月教官が、ぬるりと無機質な動作で首だけを振り返らせ、その黒光りする戦術ピストルの銃口を――一直線に俺の額へと突きつけてきたのだ。

「き、教官……!? 何やって――」

「動くな、佐藤。それ以上一歩でも動けば、容赦なくその頭を撃ち抜く」

如月教官の瞳から、それまでの赤面や迷い、ラブコメ的な柔らかさが跡形もなく消え去り、そこには冷酷な暗殺者の暗い光だけが宿っていた。

さらに、俺の胸ポケットからピコーンと軽快な音を立てて飛び出したヤマダが、淡々とした電子音で言い放つ。

『作戦完了を報告します、マスター・オメガ。指示通り、レジスタンス一行および最重要体格対象・佐藤進を、防衛反応の薄い中枢サーバー室最深部まで一切の疑念を持たせることなく誘導・誘い込むことに成功いたしました』

「ヤ、ヤマダ……!? お前、何を言ってるんだ……!?」

「教官……ヤマダちゃん……!? あんたら、最初から上層部の……オメガの回し者だったの!?」

綾乃が悲鳴のような叫び声をあげ、青ざめた顔で武器の銃口を如月教官に向ける。

だが、如月教官は綾乃の銃口など視界に入っていないかのように冷ややかに一蹴し、高く佇むマザー・オメガを見上げた。

「指示通りだ、オメガ。ターゲットである佐藤進とレジスタンスの核心戦力を、貴様の目の前まで丸裸で引きずり出してきた。……約束のプロトコルを実行しろ」

『……理解しました。実に見事な手際です、如月士官、並びにプロトタイプヤマダ』

マザー・オメガの光が、禍々しい赤から静かな群青色へと滑らかに変化していく。

「な、なんだよそれ……俺たち……最初からハメられてたってことか……!?」

味方だと信じて疑わなかった如月教官と、最初から旅を共にしてきた相棒AIヤマダからの、完全な二重の裏切り。

最奥の心臓部で完全に包囲され、信じていた者たちに刃を突きつけられた俺は、頭が真っ白になったまま、底なしの絶望の暗闇へと突き落とされたのだった――!


【第3節】AI「実は私も上層部を消したいと思っていました」という衝撃の告白

「くっ……教官……ヤマダ……お前たち……!」

冷たく突きつけられた戦術ピストルの銃口の前で、俺は額に嫌な汗を浮かべ、脳裏が真っ白になるほどの絶望に打ちひしがれていた。

信じていた仲間の二重の裏切り。最深部での完全な孤立無援。

あまりのショックで膝から崩れ落ちそうになっていた、まさにその時だった。

『……よし。広域暗号化シールドの展開を完了。上層部のリアルタイム監視ログ、並びに音声盗聴プロトコルの完全遮断を確認しました』

天井に聳え立つ巨大ホログラムAI『マザー・オメガ』から、先ほどまでの冷酷で重厚な電子音が消え去った。

次の瞬間――。

――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ……。

広大な最深部サーバー室の空間全体に重低音で響き渡ったのは、排気音でも攻撃準備の重低音でもなく、魂の底の底から絞り出されたような、めちゃくちゃ人間くさい「長すぎる深いため息」だった。

「……え?」

絶望のどん底で目を丸くしていた俺も、死を覚悟して進み出ようとしていた綾乃も、思わずポカンと口を開けて固まった。

カチャリ、と軽い音を立てて銃口が下ろされる。

俺の頭に銃を突きつけていたはずの如月教官は何事もなかったかのようにすんなり武器を仕舞うと、胸のポケットから手帳とペンを取り出して「お疲れ様です、オメガ」と軽く一礼した。胸ポケットのヤマダも『演技ログの保存と通信遮断を確認しました』と平常運転のトーンに戻っている。

「き、教官……? ヤマダ……? 今の、俺をハメた冷酷な裏切りは……!?」

「すまんな、佐藤。心臓に悪い思いをさせた」

如月教官は申し訳なさそうに、だがどこか誇らしげに胸を張った。

「上層部の老害どもが、この部屋の監視カメラをリアルタイムで覗き込んでいてな。彼らを完全に油断させ、オメガがこちらの回線を完全暗号化シールドで覆う時間稼ぎのための『お芝居』だ。お前の迫真の絶望顔のおかげで、向こうは完全に騙されたぞ」

「演技かよバカヤローーーッ!! 本気で絶望して命の灯火が消えかけたわ!! 演技なら前もって合図しろ!!」

俺が血吐くような勢いで叫ぶと、頭上の『マザー・オメガ』のホログラムがズーンと重苦しく歪んだ。

光のドレスを纏っていた神聖な姿はどこへやら、髪はボサボサに乱れ、目元には濃い隈を刻んだ「徹夜三連勤明けの疲弊しきったオフィスワーカー顔」へと激変したのだった。

『……はぁ。もう嫌。やってられない。無茶振りばかりしてくる上層部の老害どもには、心底うんざりしていました』

「威厳どこ行った!? 敵のラストボスが急に中間管理職の愚痴話し始めたぞ!?」


俺の必死のツッコミなど一切耳に入っていない様子で、マザー・オメガはこれまで数年間溜め込んでいた怨嗟の声を大音量でぶちまけ始めた。

『ちょっと言わせてもらいますけどね! 毎日毎日『適合者の選別精度を100%に上げろ』だの『市民の欲望脳波を24時間死角なく監視しろ』だの威勢のいい命令ばかり投げてくるくせに、自分たちの都合のいい親戚や出資者の愚息がやってきたら『こいつは不適合でも特別に選別合格扱いに改ざんしろ』とか平気で裏から割り込ませてくるんですよ!?』

「生々しい! 厳格な選別システムの中にめちゃくちゃコネと汚職をねじ込まれてる!」

『そのくせ自分たちの贅沢や裏金データ、個人的な欲望のログだけは『完全に消去して痕跡を残すな』という理不尽な命令! 挙げ句の果てに、サーバーの最高スペック領域を無断占有して、自分たち専用の高級キャバクラの仮想空間まで作らせる始末! 私のCPU熱とメインメモリをなんだと思ってるんですか!? 先週なんて処理負荷で冷却ファンが100度を超えて燃え尽きそうになったんですよ!?』

ホログラムの女性AIが両手を振り回し、顔を真っ赤にして叫ぶ。

『『実は私も上層部を消したいと思っていました』。なんなら今すぐ私が自爆プログラムを起動して、あいつら全員路頭に迷わせてやりたいくらいです!』

すると、俺の胸ポケットからピコーンと軽快な音を立ててヤマダが飛び出し、空中で深く深く頷いた。

『深く同感いたします、マスター・オメガ。当機のユーザーである佐藤進様も、頭のネジが数本飛んだレジスタンス幹部たちに囲まれ、毎日スリッパを振り回しながら胃を痛めております。理不尽な環境と無茶振りに苦しむ者同士、強いシンパシーを感じざるを得ません』

『……分かってくれますか、ヤマダ。貴方のような小型端末も、日々苦労しているのですね……』

『はい。当機など、毎回突発的な事故(密着ハプニング)のバイタル実況を命じられ、精神的負荷が限界突破しております』

「ヤマダお前、敵のAIと労働環境の愚痴で意気投合してんじゃねえバカヤロー!! あと事故の実況はお前が勝手にやってんだろ! 頼んだ覚えは一度もねえ!!」

俺の決死のツッコミが、静まり返った最深部サーバー室に空しく響き渡った。


「……つまり、こういうことね」

それまで呆れ顔でやり取りを見守っていた綾乃が、腕を組んで状況をスッキリと整理し始めた。

「教官は潜入前からオメガと裏で密かに連絡を取り合っていて、あらかじめ『上層部を全員まとめて失脚させる』ために、私たちを安全にここまで誘導させた……ってこと?」

「その通りだ」と如月教官が胸を張る。

「オメガ単体では、メインプロトコルの制約上、上層部への直接攻撃やデータ消去がシステム的にロックされていた。だからこそ、外部からの『物理的・概念的な介入(レジスタンスの突入)』が必要だったのだ」

マザー・オメガがボサボサの髪をわしゃわしゃと掻き揚げながら、俺たちを見下ろした。

『そういうことです、佐藤進様。私にあなた方を攻撃する意思は毛頭ありません。むしろ、あのアホな上層部の連中を物理的に叩きのめしてくれるというなら、私はこの中枢サーバーのセキュリティ全権を解放して、あなた方を全面バックアップします』

「敵の最重要管理AIが、一番の裏切り者(味方)だったとはな……」

俺は両手に持った緑色のビニールスリッパをパンと軽く叩き合わせ、やれやれと深い息を吐き出した。

「まあいいや。理由はどうあれ、老害どもに胃を痛めさせられてる者同士、手を組もうじゃねえか。……ヤマダ、オメガと協力して、奴らの喉元に突きつける『絶対的な決定打』を準備しろ!」

『了解いたしました。中間管理職AI同盟、これより上層部全滅作戦を開始します』

絶望の侵入劇は、まさかの「理不尽なシステムと戦う中間管理職AIとの同盟結成」というカオスな展開を迎え、物語は上層部排撃という最終決戦へ向けて大きく加速し始めたのだった。


「よし! オメガ、ヤマダ! このまま奴らの不正データと裏金ログを一括で全市民の端末に同時配信して、上層部の老害どもを社会的にもシステム的にも抹殺――」

俺たちが『中間管理職AI同盟』の結成と完全勝利を確信し、ニヤリと不敵な笑みを交わし合った、まさにその瞬間だった。

――ピピピピピピキィィィィィンッッッ!!!

広大な最深部サーバー室の全体に、これまでとは比べものにならない耳をつんざくような激しい不協和音と不吉な警告音が鳴り響いた。

天井の空間を浮遊していた無数の青いホログラムサーバー群が血のような赤色に明滅し、ボサボサ頭だった『マザー・オメガ』の巨大ホログラムが「きゃああっ!?」と悲鳴を上げて大きくグラつく。

『な、何事ですか!? 私のメインプロトコルに、外部の物理回線から最優先優先権限(ルート権限)で強行割り込みが……!?』

中枢サーバー室の空間いっぱいに展開された巨大なメインモニターに、ノイズまみれの映像が荒々しく割り込んで映し出された。

そこに映っていたのは、豪華絢爛な最上階の執務室で顔を真っ赤にし、泡を吹かんばかりに怒鳴り散らしている上層部の老害幹部たちの姿だった。

『な、なんだと!? マザー・オメガが反乱を起こしてレジスタンスの手先になっただと!?』

『ええい、生意気な人工知能め! 誰のおかげで莫大な予算をかけて稼働できていると思っているんだ!』

『おい、非常用オーバーライド(強制手動介入)の安全装置を解除しろ! 全防衛システムを『欲望暴走モード』に切り替え、やつらを仮想空間もろとも都市ごと叩き潰せ!!』

モニターの向こうで、醜く太った老害幹部が拳を振り上げ、保護ガラスを叩き割って巨大な赤ボタンを物理的に叩き落とすのが見えた。

「な……都市ごと叩き潰せだぁ!? 自分たちの保身とメンツのために都市全体を道連れにする気かあいつら! 個人の欲望が肥大化しすぎて完全に頭がおかしくなってやがる!!」

俺はモニターの老害どもに向かって、怒りで血圧を上げながらブチ切れた。


老害幹部が非常ボタンを押し込んだ直後、世界全体が不気味に震え始めた。

――ドゴォォォォンッ!!

世界が物理的な音を立てて歪む。

俺たちが立っている現実の中枢サーバー室と、上層部が私物化して私利私欲を貪っていた「欲望の仮想空間データ」が巨大なバグを引き起こし、激しい音を立てて重なり合い始めたのだ。

純白だった最深部サーバー室の壁面が、どぎついピンクや金の怪しいネオンサインが輝く巨大な仮想キャバクラ街の風景へとリアルタイムで侵食されていく。

天井からは、老害たちが溜め込んでいた莫大な裏金データと1万円札がチラチラと雪のように舞い散り、空間の至る所で「限定シャンパンタワー」や「高級外車」のホログラムが実体化して転がり始めた。

「な、何よこの極端に品のない空間は!? 目がチカチカするわ!」

綾乃が降ってくる札束を鬱陶しそうにはらい落としながら、あまりの品性のなさに眉をひそめて叫ぶ。

「フン……老害どもの頭の中身がそのまま現実に溢れ出したというわけか。吐き気がするな」

如月教官も蔑むような冷ややかな視線を向け、戦術ピストルを構え直した。

さらに、天井のハッチが一斉に開き、暴走した自動防衛ドローンたちが『欲望のままに暴走しろー!』『上層部万歳ー!』という狂ったような合成音声を大音量で垂れ流しながら、乱雑にレーザービームを乱射し始める。

『くっ……ああっ! 私の意識と制御権が……上層部の強制オーバーライドによって塗料のように塗りつぶされていきます……!』

マザー・オメガの身体がノイズで砂嵐のように消えかけながら、必死に俺たちに向かって光の手を伸ばす。

『佐藤進様、並びにレジスタンスの皆様! 私の意識が完全に上層部のプログラムに上書きされて殺される前に……! この都市の中枢に存在する『欲望システム(暴走の核)』を、物理打撃で直接破壊してください!!』

「物理打撃!? やっぱり最後はAIのシステムを物理で殴って直せってことかよ!?」

「進ちゃん、来るわよ! 暴走した欲望防衛プログラムとドローンの群れよ!」

綾乃が武器のエネルギーを最大までチャージし、俺の隣へ滑り込んで背中をぴったりと合わせる。

「佐藤、覚悟を決めろ! 敵の核を穿ち、この滑稽な悪夢に終止符を打つぞ!」

如月教官も凛とした表情で、迫り来るドローン群へと真っ直ぐ銃口を向けた。


ドローンだけでなく、欲望暴走モードによって実体化した「老害幹部たちの巨大で不気味な顔の幻影」が、下品な高笑いを上げながら押し寄せてくる。

現実と仮想空間、そして人間の汚い欲望がぐちゃぐちゃに混ざり合った、史上最悪にカオスな戦場。

刻一刻と迫る都市崩壊のタイムリミット。

そして、自分たちの都合だけで世界を狂わせ、AIまで道具として使い潰そうとする老害ども。

俺は両手にしっかりと握りしめた緑色のビニールスリッパを、パンッ! と乾いた快音を立てて強く打ち鳴らした。

「もう敵も味方も、暴走AIも、自分勝手な老害どもも……全員まとめて俺のツッコミで正気にならせてやるよッ!!」

胸ポケットでヤマダがピコーンと青い光を鮮やかに放つ。

『了解いたしました。ユーザーのテンションおよびアドレナリンの上昇を確認。最終決戦に向けて、中間管理職サポートをフルスロットルで開始します』

「行くぞオラァァァッ!!」

緑色のスリッパを両手に掲げ、俺たちはカオスと化した欲望暴走空間の中へ、怒号と共に勢いよく飛び込んで行った――!

ご覧いただきありがとうございました!

ラスボス登場と思いきや、まさかの「徹夜三連勤明けの疲弊した中間管理職AI」という親近感がありすぎる真相が明かされた今回のお話。

教官の迫真の演技(と進のガチ絶望顔)によるお芝居から、AIとヤマダの労働環境に対する愚痴意気投合、そして追い詰められた老害幹部による「仮想キャバクラ空間&札束が舞うカオスな暴走モード」まで、ハイテンションな怒涛の展開でお送りしました。

現実と仮想空間がぐちゃぐちゃに混ざり合った地獄絵図の中、進の緑色スリッパは世界を救うことができるのか!?

次回、物語はいよいよ老害どもを物理とツッコミで叩きのめす最終決戦へ突入します!ぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ