第6章:再会は銃撃戦の中で! 死んだはずの幼馴染が銃をぶっ放してきた
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第6章の幕開けは、早朝05:30からの「突如始まった地下施設襲撃」!
爆風と銃弾が飛び交う極限状態の中、運動神経ゼロの佐藤が「社畜の配線バイパス技術」で泥臭く生き延びます。
そして、白煙の奥から現れたのは……10年前に死んだはずの幼馴染・綾乃!?
胸元に「ハエ叩き」を標準装備した凛々しすぎる幼馴染と、鬼教官・如月、そしてAIヤマダが織りなす修羅場(?)にもご注目ください!
『――緊急事態発生。緊急事態発生。地下第5階層外郭、区画E-3にて未認証の爆発事象を検知。総員、直ちに迎撃態勢に移行せよ』
無機質な機械音声のアラートが天井のスピーカーから響き渡ると同時に、灰色のコンクリート壁を赤く染める非常灯が一斉に点滅を始めた。
「……うおっ……!? なん、だ……地震か!?」
ドォンっ――!
パイプベッドから転がり落ちるように飛び起きた直後、床を揺らす凄まじい衝撃が俺の鼓膜と内臓を直接叩きつけた。
昨日の地獄の特訓を終え、全身シップまみれで泥のように眠っていた俺の頭に、甲高いサイレンと鼓膜を刺す金属摩擦音が容赦なく突き刺さる。
通路の先でコンクリートが削れ、硝煙とコンクリート粉末が混ざり合った白煙が猛烈な勢いで流れ込んできた。熱風と強烈な焦げ臭さが鼻腔を突き抜ける。
「ひぇっ……!? 爆発!? なんで!? 今日は適性配属面談の日だろ!? まだ始業前の05:30だぞ!」
痛む腰を庇いながら廊下に飛び出すと、周囲のパイプベッドから跳び起きた候補生たちが、一瞬にして猛獣のような鋭い目つきに変貌していた。
元・海外PMCの傭兵や裏社会の殺し屋どもが、迷いなくロッカーの鉄扉を叩き割り、中に納められていたアサルトライフルやサブマシンガンを手慣れた手つきで引き抜いていく。チャージングハンドルを引くカチャカチャという乾いた金属音が、廊下のあちこちで連続して響いた。
「侵入者だ! 外郭の防壁が突破されたぞ!」
「敵の規模は不明! 迎撃しろ、訓練の成果を上層部に見せてやれ!」
殺気立った雄叫びを上げて戦場へと飛び出していく屈強な怪物たち。
その中で、湿布の激臭を漂わせ、汗と泥でヨレヨレになった黒い訓練ウェアを着た30代半ばの男――俺だけが、完全に浮いていた。
「いやいやいやおかしいだろ! 俺には銃なんか渡されてねえし、そもそも危険手当も出ねえのに命張れるかバカヤロー! 退職手当も出ないブラック組織のために死んでたまるかよ!」
俺は一秒の躊躇もなく踵を返し、壁にべったりと身を寄せながら、狂ったように逆方向へ逃げ出した。
ドガガガガガガッ!
「うわああっ!?」
頭上をすれ違うオレンジ色の曳光弾。跳ね返った弾丸が壁のコンクリートを派手に削り取り、バチバチと火花を撒き散らす。
突如として侵入してきた重装備の謎の部隊と、基地の自動警備ドローン、そして激昂した候補生たちが入り乱れ、地下第5階層の狭い通路は一瞬でカオスな銃撃戦の渦と化していた。
「くそっ、シャッターが降りて退路が塞がれてる……!」
区画の境界線に設置された厚さ数十センチの重量防火シャッターが、非常ロックの作動によって無情にも床まで完全に降り切っていた。
背後からは、警備ドローンの機銃掃射の重低音と、床を跳ねる弾莢の乾いた音が刻一刻と迫ってくる。万事休すか――。
「いや……待てよ。この制御パネルの赤灯……見覚えがあるぞ!」
シャッター脇に壁埋め込みで設置された緊急操作ボックス。そのスチール製のカバーを、俺はポケットから飛び出させたマイナスドライバー――特訓中の配線ハック実習でこっそりポケットに仕舞い込んでいた私物――の先端を隙間に突っ込み、テコの原理で強引にこじ開けた。
バキッと音を立てて開いた盤内には、複雑に交差する電線とリレー基板がぎっしりと詰まっている。
「電源はAC200V……非常ロックは電磁ソレノイドの常時通電型! だったら、このソレノイド制御線を隣のスプリンクラー検知ラインに短絡させれば……!」
死線をくぐり抜けてきた電気設備の現場営業経験と、この地獄のキャンプで命がけで叩き込まれたハッキング知識が、俺の指先を限界を超えた速度で動かす。
被覆を前歯で強引に咬み千切って銅線を剥き出しにし、端子台へ力任せに叩きつける!
バチバチバチッ――!
「誤作動しろ! 現場の力技バイパス接続――社畜の執念を見やがれ!!」
ガガガガガッ!
瞬間、制御基板から青白い火花と煙が噴き出し、誤作動を起こした重量防火シャッターがズズズと1メートルほど勢いよく跳ね上がった。
「よし通れた! ついでに追手への嫌がらせだ!」
俺が隙間に滑り込みながら強引に電線を引っ張り抜くと、ロックを失ったシャッターがズドォン! と凄まじい重量音を立てて再び床へ叩きつけられた。
直後、追ってきた警備ドローンの機銃乱射がシャッターの反対側に激突し、カンカンカンッ! と激しい金属打撃音を響かせた。
「はぁ……はぁ……はぁ……! 生き延びた……俺の泥臭い配線知識、マジで命の恩人すぎる……!」
冷や汗を全身から噴き出し、ヒューヒューと鳴る喉を押さえながら、なんとか激闘の区画を脱出した俺。
だが、胸を撫で下ろしたのも束の間だった。
プシューーーッ!
前方のアセンブリ通路の暗がりから、視界を完全に奪う高濃度スモーク弾の白煙が猛烈な勢いで吹き出してきた。
煙の奥から、重厚な軍靴が床を蹴る足音が、寸分の狂いもなく規則正しく近づいてくる。
『――目標エリアの障害を排除。これより内部清掃に入る』
煙の向こうから聞こえる、人間味を極限まで削ぎ落とした冷徹な声。
どうやら逃げてきた先は、避難経路などではなく、侵入部隊が破ってきた最前線(激戦区)のど真ん中だったらしい。
「うわ嘘だろ……! 避難経路の選択完全にミスったのか!?」
絶望に顔を歪め、背中の壁に張り付く俺。
その時――スモークの壁を突き破り、目も開けられないほどの強烈な閃光と衝撃波が、俺の目の前で爆発した(スタングレネード)。
「ぐあっ……目がああぁぁっ!?」
視界が一瞬で真っ白に染まり、耳鳴りが頭の中で狂ったように鳴り響く。
ホワイトアウトした世界の中で、足音が俺の目の前でピタリと止まった――。
「ぐぁっ……目がああぁぁっ!?」
スタングレネードの強烈な白光と破裂音に、俺は両目を押さえて床に倒れ込んでいた。
視界は完全にホワイトアウト。キーンという高音の耳鳴りが頭の中で鳴り響き、空間の感覚すら失われかける。完全に無防備となった俺の頭上で、警備ドローンの重厚なローター音が「ブオオオン」と殺意を込めて迫ってくるのが分かった。
(終わった……! ここで蜂の巣にされて終わりか……!)
死を覚悟し、身を縮こまらせたその瞬間――。
「――伏せろっ!!」
白煙を切り裂いて届いたのは、透き通るように凛とした、短い叫びだった。
直後、俺の頭上わずか数センチの空間を、地鳴りのようなフルオート射撃の打撃音が駆け抜けた。
ドドドドドガガガガッ!!
「ギャギャッ……!?」
頭上で爆発する警備ドローン。灼熱の火花と熱を帯びた金属片がパラパラと俺の背中に降り注ぐ。
間一髪で命拾いした俺が、涙目で必死に開いた視界。スモークの奥からぬっと現れたのは、漆黒のタクティカルギアに身を包み、排煙を上げるアサルトライフルを構えた一人の人影だった。
「……敵機撃破。周囲の安全を確認」
その人物は胸元のインカムに向かって短く告げると、両手でヘルメットのバイザーをゆっくりと押し上げた。
白煙の中から現れたのは、引き締まった美しい顔立ちと、凛とした気品を感じさせる強い瞳。
だが――その目元と口元の繊細なラインに、俺の記憶の奥底に眠っていた「ある面影」が重なった。
(え……嘘だろ……? めちゃくちゃ綺麗な人だけど……どこかで見たような……? でも、10年前に死んだあいつが、こんな物騒な重装備の集団にいるわけないしな……)
あまりの凛々しさと美女ぶりに、ぽかんと口を開けて見惚れてしまう俺。
すると、その女性はミリタリーブーツの重い金属音を響かせて俺の目の前まで歩み寄ると、じーっと俺のデレけた顔を見つめ――
胸元のプレートキャリアの隙間から**シュバッ!**と聞き覚えのある風切り音とともに「何か」を取り出した。
パチィーンっ!!
「ぐあぁっ!?」
絶妙なしなりを伴った乾いた快音が地下通路に響き渡り、俺の額に強烈な衝撃が走った。
「痛ったぁぁぁ!! なにすんだよ!?……って、ええぇっ!?」
額を押さえながら床に転がった俺の視界に入ってきたのは、彼女が右手に握りしめている網状のプラスチック製ハエ叩き棒だった。
漆黒の最新鋭プレートキャリアのモール(ウェビング)に、なぜかシンデレラフィットする形で差し込まれている。
(……待てよ? 重装備の特殊部隊みたいな格好しといて、なんで胸元にハエ叩き棒が装備されてんだよ!? 兵器級の装備に囲まれながらハエ叩きでノータイムで叩いてくる奴なんて、この世界に一人しかいねぇ――!)
「っ……!? あ……綾乃……! お前、綾乃だろ!! なんでこんな物騒な奴らに混ざって銃ぶっ放してんだよ!?」
俺が叫ぶと、彼女は手に持ったハエ叩き棒を**シュバッ!**と素早い手つきでベストの胸元へ収納し、「ふん」と胸を張った。
「遅いわよバカ。顔見て一瞬で気づきなさいよ。……久しぶりね、佐藤」
「さ、佐藤……? なんだよその他人行儀な呼び方! 俺達は『進ちゃん・綾ちゃん』の仲だろ!? っていうか何なんだよそのハエ叩き! なんで胸元の一番抜きやすい位置に常備してんだよ!?」
「っ……! む、昔の呼び方で呼ぶんじゃないわよバカ! そ、組織の作戦行動中よ!? 部下の前でそんな恥ずかしい呼び方なんて……っ、とにかく今は『佐藤』で押し通すの! ハエ叩きは……ツッコミ用の不可欠な近接装備よ!」
顔を耳まで真っ赤にし、動揺を隠すようにアサルトライフルのセーフティレバーを**カチカチカチカチッ!**と高速連射する綾乃。
「お前、銃のセーフティカチカチ鳴りすぎだろ! 壊れるぞ!」
「うるさいわね! 久しぶりに会ったのに開口一番ツッコミ打たないでよ! こっちはね、あなたが生きているのか死んでいるのかずっと――っ!」
言いかけてハッと口を塞ぐ綾乃。「べ、別にあなたの心配なんてしてなかったんだから!」と明らかな嘘をつきながら、そっぽを向いてしまった。
銃撃の激しい爆音と焦げ付くような硝煙の匂いが漂う地下通路。
俺と綾乃が「進ちゃん・綾ちゃん」の甘酸っぱい呼び名と、彼女の胸元に常備されたハエ叩き棒を巡ってギクシャクと揉めていると、俺のタクティカルパンツのポケットから甲高い電子音が鳴り響いた。
ピコーン――。
『――進様、バイタルサインの急上昇および心拍数の異常増加を確認。敵部隊との戦闘状態ですか? ただちに最適逃走ルートを算出します』
「うおっ!?」
眩い青白い光とともに、俺のスマート端末からスッと立体投影されたのは、手のひらサイズのかわいらしいホログラム少女の姿だった。光の粒子を纏い、宙で軽やかに浮遊している。
「な、なんだお前!? どこから出てきた!?」
『自己紹介が遅れました。私は当地下施設の大型AIサーバー、コードネーム『ヤマダ』です。これより進様の逃走サポートを担当いたします』
「ヤマダぁぁぁっ!? お前、人間じゃなくてAIだったのかよ! 俺はずっと『ヤマダさん』っていう中年男性の指示役か何かだと思ってただろ!!」
端末に向かって俺が頭を抱えて絶叫していると、すぐ隣から温度のまったく存在しない、低く冷ややかな声が降ってきた。
「……誰よ、その女」
恐る恐る振り返ると、さっきまで耳まで真っ赤にしていた綾乃の顔からすーっと血の気が引き、氷のように冷たい瞳で俺と宙に浮かぶホログラム少女を射抜いていた。
「え? いや、綾乃、これは俺も今知ったんだけど! ヤマダっていう大型AIサーバーで――」
「AI? へえ……AIねぇ。進ちゃん、私がいない10年の間に、ホログラムの女の子に『ヤマダさん』なんて親しげに教えてもらって、デレデレ楽しんでたんだ?」
「楽しんでねえよ! 今! この数十秒前にAIだって知ったばっかりなんだよ!!」
『補足します。進様が私に対して過度なスキンシップや、公序良俗に反するアプローチを試みた記録は一切ございません』
「ヤマダ余計な補足すんな! 逆に墓穴掘るだろ!!」
綾乃が胸元から再びハエ叩き棒をシュバッ!と抜き放ち、額にピキピキと鮮やかな青筋を浮かべていたその時――。
「――そこまでだ、侵入者ども!」
通路の奥の闇を切り裂き、鋭い硝煙の香りを纏った美貌の女性士官――如月教官がアサルトライフルを低く構えて躍り出てきた。地獄のような訓練で俺を死ぬ気で鍛え上げてくれた、あの鬼教官だ。
「教官……! 無事だったんですね!」
俺が思わず安堵の声を上げると、如月教官はちらりと俺を一瞥し、フッと口元を余裕たっぷりに緩めた。
「フン、私を誰だと思っている、佐藤。……それにしても、相変わらず情けない声で逃げ回っていた割には、しっかり生き残っていたな。……悪くないぞ」
「教官……」
「……ちょっと、進ちゃん?」
綾乃の周りの空気の温度が、一気に絶対零度まで叩き落とされた。
「そっちの綺麗な人は誰? 『教官』? なんでそんなに親しそうなの? っていうか、なんで進ちゃんのこと『佐藤』って愛着込めまくりで呼んでるのよ!?」
「愛着なんて込められてねえよ! 地獄のしごきを受けまくった凄惨極まる師弟関係だよ!」
如月教官はアサルトライフルを構え直すと、表向きは完璧な基地防衛士官の冷徹な顔を作り、綾乃たちレジスタンス部隊に向けて黒い銃口を向けた。
「佐藤、下がりなさい。その女たちは基地を襲撃したテロリストだ。……渡さないぞ、私の愛弟子を」
「愛弟子……? 渡さない……!?」
綾乃の瞳にギラリと恐ろしい光が宿った。一人の女性としての猛烈な独占欲が爆発する。アサルトライフルを構え直し、如月教官と視線を真っ向から激突させた。
「誰の愛弟子よ。進ちゃんは昔から私のもの――じゃなくて! 私の幼馴染よ! 初対面の教官気取りに渡すわけないでしょ! ……それに、そちらの『手筈』通りに動いてあげる筋合いもないわ!」
「ほう……初対面の割には、随分とこちらの『手筈』とやらを気にするのだな、侵入者。……言っておくが、この男を勝手に連れ出されては、こちらの『予定』がすべて狂う」
「ふん、あなたの『予定』なんて知ったことじゃないわよ。……言われなくても、合図があるまで無茶な手出しはしないわ!」
バチバチと火花を散らし、互いに銃口を突きつけ合う二人。敵対する言葉を選んでいるはずなのに、なぜか言葉の裏にあるテンポや間合いが奇妙に噛み合いすぎている。
頭上では警備ドローンの爆発音が響き、壁には跳弾が跳ね返っているというのに、俺を挟んだこの空間は銃撃戦の100倍くらい命の危険を感じさせる修羅場と化していた。
限界を迎えた俺の頭の中で、何かがぶちりと切れた。
「あのさぁ二人とも……今まさに襲撃の真っ只中で銃弾飛び交ってんだけど!? 敵対してるのか息が合ってるのかどっちかにしろバカヤロー!!」
パチィィィン!! パチィィィン!!
地下通路に、見事な二重奏の乾いた快音が響き渡った。
俺はいつの間にか、足元の備品箱からひっつかんだ緑色のビニールスリッパを両手に装着し、綾乃と如月教官の頭を同時に力一杯シバき上げていた。
「「っ……!?」」
一瞬で静まり返る通路。
綾乃は叩かれた頭を押さえ、目を丸くしたあと――ニヤリと不敵に口元を歪めた。
「……生意気ね、進ちゃん。私にスリッパでやり返してくるなんて、いい度胸じゃない」
一方、如月教官はというと、叩かれた頭を信じられないといった様子で押さえ、顔を真っ赤にして叫んだ。
「な、ななな何をするんだ佐藤ーー!! 教官の頭をスリッパで叩く生徒がどこにいる!? 貴様、反逆罪で正座させるぞ!?」
「二人とも銃降ろして退避の準備しろって言ってんだよ!!」
両手に構えた緑色のビニールスリッパ。その滑稽な感触が手のひらに残る中、地下通路の壁面に埋め込まれたスピーカーから、鼓膜を劈くような非常警報が鳴り響いた。
『――緊急事態。重要被験者の逃亡を確認。防衛レベル4へ移行。殺傷兵器の無制限使用を許可します』
ウー! ウー!と、血のように赤黒い警告灯が激しく明滅する。
通路の奥の暗がりから、鼓動を狂わせるような重厚なローター音が湧き上がり、今までの倍以上の数に膨れ上がった警備ドローンの群れが姿を現した。無機質な銃口の先端から、殺意そのもののような赤いレーザーサイトが無数に伸び、俺たちの足元や胸元をチカチカと這い回る。
「っ……! 追撃が早すぎるわね! 部隊、退避ルートを確保しなさい!」
綾乃が即座に隊長としての冷徹な顔に戻り、部下へ迅速な指示を飛ばす。
絶望的な数に俺が息を呑んだその時、如月教官が俺の前にスッと立ちはだかった。凛とした背中で俺をかばうように、アサルトライフルを構える。
「……佐藤、下がりなさい。ここは私が食い止める」
「え……!? 教官、何を言ってるんですか! 一緒に逃げないと――」
「バカ者! 士官である私が基地を捨てるわけがないだろう。それに……」
如月教官はふっと肩の力を抜くと、引き締まった美しい横顔で俺をチラリと振り返り、微かに口元を緩めた。俺が知る限り、教官が今まで見せたことのない、あまりにも穏やかな微笑みだった。
「……地獄のしごきに耐え抜いた私の愛弟子を、こんなところで死なせるわけにはいかん」
「教官……っ!」
「行け、佐藤! 立ち止まるな!!」
如月教官が叫ぶやいなや、引き金を引いた。
轟音。迫り来るドローン群へ、容赦のないフルオートの銃弾が叩き込まれる。空気を切り裂く銃声と、装甲が弾け飛ぶ火花。強烈な爆風と焦げ付くような硝煙の匂いが、狭い通路を暴風のように吹き抜ける。
「行くわよ進ちゃん! 足引っ張らないで!」
「っ……あ、綾乃! 離せ! 教官を残して行けるかよ! 教官ーーっ!!」
「来なさいバカ!!」
綾乃に強く腕を引かれ、俺は非常用エレベーターへと強引に引きずり込まれていく。
閉じかけのエレベーターの重厚な扉の隙間。最後に俺の目に焼き付いたのは、押し寄せる無数の黒い機械の波に対し、たった一人で銃弾の嵐の中へ飛び込んでいく如月教官の孤高の背中だった。
直後――。
ドガァァァァンっ!!
視界のすべてを白く塗り潰すほどの凄まじい爆炎が上がり、地下通路全体が地鳴りのような衝撃とともに崩落していく。
「教官……嘘だろ……教官あぁぁぁぁっ!!」
俺の喉を引き裂くような悲痛な叫びは、完全に閉ざされたエレベーターの金属音によって、残酷なまでに遮断された。
エレベーターが軋みながら地表へ到達すると、そこは地下施設の外縁に位置する廃ビルの中だった。待ち受けていたのは、重装甲と泥にまみれたゴツいオフロード車両――レジスタンスの移動拠点だ。
「全員乗ったわね!? 発車しなさい!」
綾乃の鋭い号令とともに、装甲車は耳をつんざくエンジン音を立てて廃ビルを飛び出した。
背後の遠くで、崩落する地下基地から真っ黒な煙が夜空へ立ち上っているのが窓越しに見える。車体は追撃の銃弾を分厚い装甲で弾き返しつつ、荒涼とした闇夜の荒野へと突き進んでいった。
激しく揺れる車内の後部座席。俺は両手で頭を抱え、ガタガタと震えを抑えきれずにいた。
「俺のために……教官は俺をかばって……あんな……あんなのってないだろ……っ!」
絞り出すような俺の嗚咽に、車内は重苦しい沈黙に包まれる。
「……静かにしなさい」
ふう、と長い息を吐き、綾乃がタクティカルヘルメットを脱ぎ捨てた。
抑え込まれていた黒髪が、サラリと肩にこぼれ落ちる。彼女はサイドポケットをごそごそと探ると、コトッと音を立てて冷えた缶コーヒーを取り出し、俺の汗と泥にまみれた頬にそっと押し当ててきた。
「……冷たっ」
「質問も後悔も、アジトに着いてから。今はいろいろありすぎて、頭が追いついてないでしょ。……少し休みなさい」
薄暗いオレンジ色の車内灯に照らされた綾乃の横顔は、銃を構えていた時の冷徹なリーダーの顔ではなかった。あどけなさの残る、俺の知っている「幼馴染の綾乃」そのものだった。
不器用な優しさで差し出された、少し凹んだ缶コーヒー。受け取って一口飲むと、冷たくて甘苦い味が口いっぱいに広がり、俺のパニックになりかけていた意識を強引に現実へと繋ぎ止めた。
どれくらい走っただろうか。
装甲車が荒廃した都市の瓦礫を抜け、山間の隠された広大な地下トンネルへと滑り込んでいく。
「ここが、私たちの本部……レジスタンス『黎明』の地下アジトよ」
トンネルを抜けた先に広がっていたのは、巨大な廃ドックを改修した要塞都市のような地下キャンプだった。
山積みにされた無数の物資、火花を散らして整備される重火器、そして足早に行き交う大勢の人々。無機質なAIの管理下では絶対に感じられなかった、泥臭くて熱を帯びた「人間たちの生きる気配」がそこには満ちていた。
『進様、周囲の通信プロトコルを検知。この施設は旧政府軍の軍事要塞を再利用した強固なネットワーク構造を有しており――』
ピコーン、と間の抜けた電子音とともに、ヤマダが俺の端末からホログラムを出して機械的な解説を始める。
「ヤマダ、今は空気読んで静かにしてて」
『了解しました』
綾乃にピシャリと制圧され、ヤマダは瞬時に姿を消した。
装甲車が停車し、重い音を立ててハッチが開く。
綾乃は立ち上がると、俺に向かってスッと、かつてのように手を差し伸べてきた。
「ようこそ、進ちゃん。……ここからが、あなたの本当の戦いよ」
差し出されたその手を取り、装甲車から降り立ちながら、俺は涙を乱暴に袖で拭った。
死んだと思っていた幼馴染との再会、命を懸けて自分を逃がしてくれた教官の尊い犠牲、ヤマダの存在、そしてこの狂った世界の秘密――。
(教官……あなたの命を賭した教え、絶対に無駄にはしません……!)
俺はもう、逃げるだけの情けない存在じゃない。
胸の奥で煮えたぎるような決意を固め、悲しみを背負いながら、俺は『黎明』の奥へと力強く足を踏み出した。
最後までお読みいただきありがとうございました!
如月教官の「壮大な茶番劇(佐藤をレジスタンスへ送り込むための自爆演出)」を、100%本気で受け止めて涙を流す佐藤の純粋さが光る(?)脱出劇となりました。教官、演技派すぎます……。
スリッパでのツッコミ、胸元のハエ叩き、そしてヤマダへの激しい女の嫉妬と、新ヒロイン・綾乃のキャラも全開でお届けしました。
次回、レジスタンス『黎明』のアジトで明かされる世界の真実とは――!?
続きもどうぞお楽しみに!




