54話 絶対の死を置き去れ
「……うっ……ひぐっ……ッ……ふえぇぇ……ッ……!」
声すら吸い込まれて消えていくような、見渡す限りどこまでも続く無機質な「白」の世界。レナは冷たい床に丸まり、小さな身体を激しく震わせながら声をあげて泣きじゃくっていた。溢れ出る涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、胸元をぎゅっと掻きむしる。
頭から離れない。消えてくれない。
ほんの数秒前に刻み込まれた、あまりにも残酷な死の記憶が。
(怖い…怖い怖い怖い怖い怖い…痛い…痛いよぉ……ッ!)
これまでも死に戻りを経験してきたが、こんな殺され方は初めてだった。 目の前で上半身と下半身をまっ二つに切断され、血の海に倒れたヴェルナ。 両足を切り落とされ、角をへし折られて頭を履物で踏み潰されたセレスタ。 頭骨を素手で鷲掴みにされ、メリメリと音を立てて砕かれたミア。
そして、両腕両足をあり得ない方向へ折り曲げられ、最後は不可視の刃で胸を刺し穿たれた自分。
12歳の少女の精神が耐えられる限界を、とうに超えていた。
「勝てるわけ……ないよぉ……っ! あんなの、あんな怪物に勝てるわけないじゃん……っ! 痛かった……すごく痛かったぁ……ッ!!」
あまりの理不尽と恐怖に、心がぽっきりとへし折れる。 逃げ出したい。諦めてしまいたい。戻りたくない。もう二度とあんな恐怖を味わうくらいなら、いっそこのまま消えてしまいたい。
「うぅ…うぐっ……ぐすっ…」
膝を抱え、絶望の底で震え続けるレナ。 だが——倒れた仲間たちの姿を思い返していたその時、脳裏に一瞬、ミアの砕かれた顔が焼き付いて離れなくなった。
(……ミアの……お父さん……)
ハッと、レナの呼吸が止まる。
(ミアのお父さんは……あんな奴らに殺されたんだ……)
ミアから里で何が起きたかは以前に聞いていたが、自分が今、直接命を刈り取られて奴らの残酷さを本当の意味で理解した。 あの圧倒的な理不尽。人としての尊厳すら踏みにじられる残酷さ。呼吸を奪われ、身体を叩き壊される筆舌に尽くしがたい激痛と恐怖。 ミアは……こんな絶望を、大切な父親を奪われる形で背負わされていたのだ。
(あんな恐ろしい想いを……ミアは、ずっと一人で……)
ボロボロと溢れていた涙が、少しずつ変わっていく。 恐怖の涙から、胸を突くような切なさと、湧き上がる強い想いへ。
(ダメだ……っ! 私が…諦めちゃ、ダメなんだ……ッ!)
レナはガタガタと震える膝に力を込め、必死に立ち上がった。 袖で乱暴に顔を拭い、自分の両頬を叩く。バチィンッ! と痛烈な音が白い世界に響いた。
(やり直せる私が…泣いて逃げてる場合じゃない……! 甘えるな、甘えるな私っ!ミアのためにも、セレスタさんやヴェルナのためにも……絶対に、また同じ惨劇を繰り返させたりしない……ッ!!)
原因も、対策も分からない。だが「みんなを守る」という強い意志だけが、折れかけたレナの魂を強引に引きずり起こした。
(私がここで思考を止めたら、みんな本当に死んじゃう……! 今、ここで解決策を導き出せば、次の『線』として繋がるんだから……!)
レナは深呼吸を繰り返し、溢れ出る涙を乱暴に袖で拭うと、冷静に原因を分析し始めた。
(落ち着いて……考えるの。何がダメだったの……?)
一つ目。あの二人───カーキ色の髪の男と和服の少女は、自分たちとは住む世界が違う怪物だということ。戦力差なんてレベルじゃない。正面から叩き込んでも指一本で消される。
……つまり、今の自分たちでは絶対、確実に勝てない相手なのだ。
二つ目。倉庫での戦闘が終わった後、旧倉庫街に留まり続けてしまったこと。 そして、あの男の気配がした時、ミアが父親の仇だと気づいて理性を失い、飛び出してしまったこと。
(そうか……敵を倒すんじゃない。あの二人が現れたら……ううん、現れる『気配』がした時点で、戦わずに全力で逃げなきゃいけなかったんだ……!)
目的は仇を打つことだ。しかし、今の実力で挑めば返り討ちに遭って全滅するだけ。生き残らなければ、真相を暴くことも、未来を掴むこともできない。
(次の周回でやるべきことは……ひとつだけ)
レナは立ち上がり、強く拳を握りしめた。瞳に固い決意の光が戻る。
(敵の気配を感じたら、迷わず『逃げる』。そして……お父さんの仇を前にして正気を失うミアを、私が何としても全力で止める……!!)
原因と解決策を魂に深く強く刻み込んだ瞬間、その決意に応えるかのように、白い世界が眩い光に包まれ、急速にホワイトアウトしていった。
◇
「はぁ……はぁ……やった、の……?」
ハッと正気に戻った瞬間、レナの視界に広がり崩れ去る巨大な魔獣の巨躯と、倒れる黒フードの男たちの姿があった。
レナ自身には、死に戻りをした記憶も、あの白い空間で誓った決意も、何一つ残っていない。ただ港で魔獣を倒した直後の達成感と、微かな胸のざわつきがあるだけだった。
「レナ!気持ちはわかるけど、いきなり魔法発動するなんて!制圧できたから良かったけど…」
短剣を鞘に納めながら、ミアが呆れたようにため息をつく。
「ご……ごめん。つい…」
「にひひっ、流石にびっくりしたけど、無事制圧できたから良かったじゃん」
ヴェルナが笑いながら近づいてきて、セレスタもズレたベレー帽を直しながら「連携も完璧でしたね!」と微笑んだ。
いつもと変わらない日常の会話。 しかし次の瞬間——。
ズキンッ!!!!
頭蓋骨を内側から叩き割られるような激しい痛みがレナを襲った。
「……ッぐ!?」
思わず頭を押さえたレナの視界が、ぐにゃりと歪む。そして——
レナの視界に『線』が浮かび上がった。 港の闇の奥から、空間そのものをドロドロと塗りつぶすような、未だかつて見たこともないほど太く禍々しい『どす黒い線』が、自分たちを呑み込もうと蠢いていた。
(な、に……これ……!?)
黒い線から溢れ出す圧倒的な「死」の予感が、レナの本能を狂わせるほどに警鐘を鳴らしていた。
「……あ……」
レナのすぐ隣で、ミアの猫耳が不快なピッチで震え始める。 ミアの水色の瞳が濁った殺意に染まり、路地の闇を見つめながら一歩を踏み出そうとした。
その瞬間、ミアの全身から伸びる『線』が、弾けるように赤色へと変色した。
(ダメ……ッ! あそこへ行ったら……死ぬ……!!)
「ミアぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
レナを動かしたのは、視界を覆う『線』の導きと、ミアを行かせてはいけないという、咄嗟の直感だけだった。 レナは全力でミアの身体へと飛びかかった。
「なっ……が!?」
「逃げて! 行っちゃダメ!!」
ドスンッ! と激しい音を立てて二人は地面へともつれ込んだ。 レナは死に物狂いでミアの身体を押し倒し、闇へ飛び出そうとしたミアの動きをどうにか止めることに成功する。
「な、なにをするのレナ!? 離して!! あいつが……父さんを殺した奴がそこに——!」
暴れるミアを押し押さえながら、レナは涙目で叫ぶ。
「ダメなの! 行っちゃダメなのッ!! 私の線と勘が……あっちに行ったらみんな死んじゃうって!!」
「理由になってないでしょ!? 離してッ!」
ミアを押し留め、ヴェルナたちも驚いて足を止めた。 レナの直感による回避行動——完璧に成功したかに思えた。
しかし——。
「あれぇ? この僕がきたのにもう帰っちゃうのかい?」
(えっ…)
ゆっくりと、見上げる。 押し倒し合ったレナとミアの目と鼻の先。闇の奥からカーキ色の髪を雑に遊ばせた細身の青年が姿を現した。 ベルフェルが、心底つまらなさそうに歪んだ笑みを浮かべる。
「くっははぁ、止めるのが、ちょぉーっと遅かったかもねぇ?」
(あっ——)
レナが『線』の意味を完全に理解した時には、すでに遅かった。間に合わなかったのだ。怪物の速度は、少女たちの動く時間を遥かに超えていた。
ベルフェルが、パチンと指を鳴らす。 空間が歪み、視界を埋め尽くしていた『黒い線』が一斉に爆発する。
「——」
叫び声すら上がらない。 一瞬前まで生きていた熱が、感覚が、暗転していく。 レナたちの視界は、再び凄惨な激痛と圧倒的な闇の中へと、あっけなく呑み込まれていった。
◇
「……っ……ぁ……あぁぁぁぁぁぁぁッ……!!」
再び、どこまでも広がる無機質な「白」の世界。 レナは冷たい床の上で激しく体を折り曲げ、喉を掻きむしりながら狂ったように叫び声をあげた。
(痛い。痛い痛い痛い痛い痛いッ!! )
全身の肉と骨が一瞬で歪み、潰され、暗転したあの瞬間。二度目の死。思考すら追いつかないほどの圧倒的な一撃によるダメージが死後に遅れてやってくる。痛みのこそないが、命を削られる感覚が幻覚痛のように急激に襲いかかってくるのだ。
「なんで……っ!? 止めたのに……っ! ミアを……必死で止めたのにぃぃぃっ……!!」
膝を抱え、床に頭を擦り付けながらボロボロと涙を流す。 直前で飛びかかって、必死でミアを抑え込んだはずだった。それなのに、敵は自分たちの目の前にいた。一瞬遅かった。たった数秒の遅れが、全員の命をあっけなく刈り取ったのだ。そうして、少女は数分も経たないうちに二度も残酷な死を経験することになった。
「無理だよ……あんなの……! 気配を感じてから動いたって……私たちが動くより、あいつらが来る方が速いんだもん……ッ!!」
少女の心が、絶望に悲鳴を上げる。 追いつけない。文字通り、命をかけても届かない。怪物たちの圧倒的な絶望的な速度と狂気。
「うっ……ひぐっ……ふえぇぇぇ……ッ……!」
絶望の淵で泣きじゃくるレナ。 しかし、涙で霞む視界の奥に、砕かれた仲間たちの姿が何度もフラッシュバックする。 一瞬前まで生きていたミア、ヴェルナ、セレスタ。それが、ほんの一息の間に物言わぬ肉塊に変えられた。
(うっ……ぐっ………ダメだ……泣いてちゃダメだ……ッ! 諦めたら……またみんなが死んじゃう……っ!!)
レナは歯が折れそうなほど強く噛み締め、震える手で乱暴に涙を拭った。
(落ち着いて……考えるのッ! なんでダメだった!? 何が足りなかったの……!?)
激痛の記憶を無理やり押し殺し、冷徹に原因を引っ張り出す。
(さっきの私は……『敵の気配を感じたら逃げる』って決めた。……だからだ)
ハッと、レナは目を見開いた。
(だから……さっきの私には、敵の『気配』が漂ってきたタイミングでしか『線』が見えなかったんだ……! 気配を感じてからじゃ遅い……! 気配が漂ってきた時点で、あの化け物たちはもう目の前に届いてるんだから……!!)
敵と鉢合わせる前に。いや、気配すら漂い始める前に。魔獣を倒したあの瞬間に、一瞬の躊躇いもなく、その場から全速力で離脱しなければならなかったのだ。
(次の周回でやるべきことは……)
レナはガタガタと震える足で立ち上がり、胸の前で固く拳を握りしめた。赤い瞳に宿る不屈の炎が、恐怖を完全に塗りつぶしていく。
(敵の気配を感じてから逃げるんじゃない……! 魔獣を倒したら、気配がする『前』に、何が何でも全員を連れて即逃げる……!!)
その決意を、白の世界での思考と解決策を、自らの魂と次の『線』の導きへ強く強く書き換えるように刻み込む。
その意志に呼応するように、白い世界が眩い光を放ち、急速にホワイトアウトしていった。
◇
「はぁ……はぁ……やった、の……?」
「レナ!気持ちはわかるけど、いきなり魔法発動するなんて!制圧できたから良かったけど…」
短剣を鞘に納めながら、ミアが呆れたようにため息をつく。
「ご……ごめん。つい…」
「にひひっ、流石にびっくりしたけど、無事制圧できたから────」
ズキンッ!!!!
「……ッぐ!?」
「レナさん!?」
視界がぐにゃりと歪み、世界に『線』が走る。 既に制圧済みのはずなのに、自分たちの足元から嫌悪感を直で刺激するような真っ黒な線が伸びる。
そして、その真っ黒な足元の中、旧倉庫街の裏手へと伸びる一本の細い白い線だけが、眩いほどの光を放っており、たるで『生き延びたいならここしか道はない。今すぐ走れ』と叫んでいるようだった。
(な、に……これ……!? …こんなに光ってる線…見たことない…!?)
今まで何度も救われてきた直感が、狂ったように脳内で『走れっ!走れ!!』と警鐘を鳴らしていた。
(ダメだ……ッ! 喋ってる時間なんて一秒もない! 今すぐにここを離れないと……全員死ぬッ!!)
「逃げるよッ!!!!」
レナは会話の途中で突然、喉がちぎれんばかりの悲鳴を上げた。
「「え……?」」
「理由はいいから今すぐ脱出してッ! みんな、私を信じて逃げてぇッ!!」
「な、なに言ってるの。いきなりどう──」
ミアが困惑して口を開きかけたその瞬間、レナは思考よりも先に動いていた。 困惑するミアの腕を強く掴むと、強引に『白い線』の示す路地へと全速力で走り出したのだ。
「ちょっとレナ!? 離して何なのいきなり——」
「ミア! レナの顔を見て!」
ヴェルナの判断は一瞬だった。レナの尋常ではない顔色と狂気に満ちた叫び声から、ただごとではない絶対的な危険を察知したのだ。
「セレスタ、強化魔術とスモークッ!」
「は、はいッ! 『魔導付与・疾風迅雷』! 『重層煙幕』!!」
瞬時に倉庫一帯が漆黒の煙幕に包まれ、四人の身体能力が跳ね上がる。 強引にミアを引いて走るレナ、そのミアの背中を押してレナのサポートするヴェルナ、そして最後尾を固めるセレスタ。四人は風となり、敵の気配すら生じる前に、白い線の導くまま港の裏路地へと全力で脱出した。
ほんの数秒後。
「あれぇ? 侵入者? ……ん〜?」
煙幕が巻き上がる誰もいなくなった倉庫正面に、カーキ色の髪の男——ベルフェルと和服の少女リリエルがふっと降り立った。
「あら……誰もいないわね。倒された下っ端と魔獣の死体だけだわ」
「う〜ん……今、微かに気配があった気がしたんだけどなぁ。煙幕焚いて一目散に逃げちゃったみたい。……ちぇっ、つまんないの。遊べると思ったのにさぁ?」
ベルフェルはつまらなさそうにあくびをすると、追撃することすら面倒くさそうに肩をすくめた。
「やられた魔獣は一体だけみたいだし、調査は下っ端にやらせよう。この僕がわざわざする必要なんかない。そうだろう?フィフス」
「はぁ、まぁ面倒くさいからそれでいいわ。全く…無駄な時間を使ったわ」
二人の怪物は、追跡することもなく夜の闇の中へと消えていった。
◇
どれほど走り続ただろうか。
旧倉庫街を遥か遠く離れ、港の南側にある水路沿いの暗がりまで逃げ延びた四人は、崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。
「ハァ……ハァ……っ! ハァ……ッ!」
レナは壁に背を預け、荒い息を吐きながら激しく胸を上下させていた。全身汗びっしょりで膝がガクガクと震えていたが、その瞳はしっかりと生きている仲間たちの姿を捉えていた。
(生きてる……)
視線を巡らせる。
息を荒げるヴェルナ。ベレー帽を押さえて怯えるセレスタ。そして、地面に座り込んで困惑と不満の表情を浮かべるミア。
首も、腕も、足も繋がっている。
今のレナは知る由もないが、二度の凄惨な死を越えて、ついに……惨劇を回避したのだ。
「……レナ」
ミアが、納得のいかない様子でレナを見つめた。
「急にどうしたの……? なんで、あんなに焦って逃げなきゃいけなかったの?」
「それはボクも聞きたいかな」
ヴェルナが息を整えながら胸に手を当てる。
「あの時、ボクたちには何も感じ取れなかった。敵の気配すら無かったんだ。でも……君のあの必死な叫びには、命がかかっているような凄みがあった。一体何が視えていたんだい?」
ふたりの問いかけに、レナは震える手で自分の胸を強くぎゅっと掴んだ。胸の奥で渦巻く「絶対的な死」の残香が、涙となって溢れ出してきた。
「……残っていたらね」
レナはポロポロと涙をこぼしながら、ミアの目を真っ直ぐに見つめた。
「絶対に……みんな死んでたの」
「え……?」
「理由なんて分からない……でも、魔獣を倒した後…すぐ…線が現れて……それが今までとは明らかに違って……に…逃げなきゃって…ヴェルナも、セレスタさんも、ミアも……私も……絶対に死ぬって…そう思って…」
レナの血を吐くような言葉には、理屈を超えた圧倒的な重みが宿っていた。 言葉に詰まるミア。ヴェルナもセレスタも、ゴクリと唾を飲み込む。
「怖かった……すごく怖かったの……! でも……みんなが生きててよかった……っ! みんなと……また話せて……本当によかったぁ……ッ!!」
レナはその場にしゃがみ込み、声を上げて泣き出した。それは絶望の涙ではなく、仲間を守り切れたことへの安堵の涙だった。
「……レナさん……」
セレスタがそそっと近づき、泣きじゃくるレナを優しく抱きしめた。 ヴェルナは深く息を吐き出し、夜空を見上げて苦笑いを浮かべる。
「……そうか。君の直感がそこまで言うなら……ボクたちは本当にとんでもない化け物の間合いから、間一髪で抜け出せたんだね」
「ヴェルナ……」
「感謝しなよ、ミア。レナのあの瞬転の判断がなかったら、ボクたちは今頃理由も分からず転がっていたかもしれない。ボクたちはあの旧水道施設の地下で、レナにだけ見える線と直感に何度も助けられてきた。レナの直感は信じられる」
「……っ……」
ミアは言葉を失い、ぎゅっと自分の膝を抱え込んだ。 レナが自分たちを救うためにどれほどの恐怖と戦っていたのか、その震える背中が雄弁に物語っていたからだ。
「ありがと……疑ってごめん…レナ」
ミアの小さな呟きが、夜風に溶けていく。 暗雲立ち込める港町ヴェゼルの夜。 幾度もの絶望的な死を乗り越え、少女たちは繋いだ命とともに、確かな一歩を未来へ踏み出したのだった。
最近、鳴潮が楽しすぎて困ってます。
清宵引きたいけど…心と鎖暝が来るまで貯めるって決めたんやっ…
あぁ…でも……うぅ……引きたい
──その瞬間、「課金」の2文字が脳裏をよぎる。
っ!?いや、しかし…貯金が…
うっ…うわぁぁああああ!!!
「……って、作者さんが頭抱えてジタバタ暴れてるんだけど!?」
「にひひっ、顔を真っ赤にして『決めたんやっ!』って叫んでる割に、画面の『集音』ボタンをチラチラ見て指がピクピク震えてるねぇ。ボクの隠密の勘だと、明日にはもうガチャ石も貯金も跡形もなく溶けてる方に一万ギルかけるよ」
「だ、ダメですよ作者さん! 『心』と『鎖暝』のために貯めるとご自身で誓ったんですから! ここで誘惑に負けてボタンを連打したら、引き当てられなかった時に間違いなく絶望のどん底に叩き落とされます!」
「……意志が豆腐以下だな。もし理性が吹き飛んでカードや口座に手を伸ばしたら、私の氷魔法でその端末ごと頭を冷やしてやる」
「おっと、ミアが本気で短剣に魔力を混ぜ始めちゃったよ。いま固めたら端末ごと粉々に砕け散るねぇ」
「ひぃぃっ!? ミア、待って待って! 端末が壊れたら原稿が更新されなくなっちゃうから!!」
「……ふん。なら、今すぐスマホを置いて机に向かえ。私たちを恐ろしい化け物と戦わせておいて、自分だけ物欲の化け物に敗北するつもりか?」
「うっ……ミアさんの正論が刺さりすぎて作者さんが白目剥いて倒れちゃいました……」
…なんだこれ。




