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第428話 どんなことも偽らず

 フランスとイギリスは、二人並んで、墓の前に立っていた。

 墓には、エールとマーガレット、ふたりの名がきざまれている。


 ふたりとも、ここで眠っているのね。


 孤児院の裏庭は、静かな場所だった。

 やわらかな草地と、その向こうには、程よく間引きされて明るい林が広がっている。


 そこにひっそりと、ひとつの墓があった。


 昼の陽射しが、墓石をあたためている。

 石にふれると、人のぬくもりのように、やさしい温度があった。


 古い墓だが、ずいぶん丁寧に手入れされている。


 墓の後方に、一本の大きな木が生えていた。三つの柔らかそうな葉が重なってはえている珍しい木だ。


 その木の枝に、ふっさりと生えているのは、マーガレットが、フランシスの耳に似ていると言ってなでていた、あの葉そのものだった。


 あの鉢植え、マーガレットの墓の近くに植えて欲しいと言ったこと、ちゃんとそうしてくれたのね、エール。


 フランスは、ここまで大事に持ってきた、大量の花を墓のそばに置いた。マーガレットは、植物が好きだったから、たくさんの種類の花を持ってきた。


 フランスは、墓の前にひざをつき、友人に語りかけるようにして言った。


「エール、マーガレット、姿が変わってしまったけれど、フランシスだよ。とっても、久しぶり。イギリスも一緒に、会いに来た」


 不思議な感じがする。


 フランスにとって、エールとマーガレットと過ごした時間は、最近のことだ。それなのに、墓は、何年も風雨にさらされて、長い時間ここにあることをはっきりと示している。


「ずっとわたしが恋人に会いに行くために旅しているって言っていたの、覚えている? ちゃんと会えたよ。わたしの恋人って言っていたの、イギリスのことだったんだ。なんだか混乱しちゃうよね。わたし、今のこの時間から、時間を遡ってあなたたちと会った……。不思議な運命で」


 なんとなく、フランシスのときのように話してしまう。


 イギリスは、フランスのとなりで、同じようにひざをつき、じっと墓に見入っていた。


 エール、マーガレットと会えたかな。


 会えているよね。

 一緒に、並んで光のほうへ、歩いていったよね。


 フランスは、その先の道も、すべて明るく優しく、エールとマーガレットを包むものであるよう、長い時間をかけて祈った。


 フランスは、しっかりと祈ってから、イギリスの顔を見上げた。


 彼は、じっと、その目を墓にそそぎつづけている。


「イギリス」


 呼ぶと、イギリスの瞳が、こちらに向けられる。

 陽の光が差し込んで、おどろくほど美しく彼の瞳がかがやく。


 美しい人よね。


 フランスは、そのまま、イギリスに、ゆっくりとすべてを話した。


 過去でフランシスとして見て来たことを、なにもかも。

 すべて、隠さずに話した。


 何かを隠して、良い部分だけを見せるべきか悩んだが、おそらく彼にとってつらいことだろう部分も、隠さずに伝えることにした。


 それが正しい事かは分からない。


 ただ、フランスは、イギリスの前で正直でありたかった。どんなことも偽らず、まっすぐに向き合いたい。誰よりも、そうしたいのがイギリスだった。


 イギリスは、しずかにフランスの話に耳をすませていた。


 エールがずいぶんと最初のころからマーガレットに思いを寄せて、イギリスを裏切っていたことを伝えるのは、ひどく心が痛んだ。


 マーガレットがイギリスに対して、男女の思いを返せてはいなかったことを伝えるのもおそろしい思いがした。


 でも、フランスは、すべて正直に、自分が見たことを話した。


 どんなに耳につらいだろう話も、イギリスは口をはさまず、ただ、じっと聞いてくれた。


 フランスは、気持ちがエールとマーガレットに傾き過ぎないよう、注意深く話し続けた。イギリスに対して、理解して欲しいという気持ちがわずかにも漏れないよう。淡々と、あったことを並べてゆく。


 フランスの思いまで入れ込めば、イギリスには負担が大きすぎる。


 そうして、フランスは、マーガレットの悲しい最後に立ち会っていたことや、彼女の死をかくして、この帝国の端の地に去ったエールについての話をすべて終えた。


「これが、わたしが見て来たすべてよ」


「そうか……」


 しばらくふたりで、じっと墓を見つめる。


 フランスは、その墓に刻まれた年月を見つめながら言った。


「ふたりの行いは、あなたにとって間違いなく残酷だった。でも、真に邪悪な心を持って、そういう行いをしてきたんじゃないということを、わたしは知ってしまった。あなたが眠りについている間、一年は、誰とも結婚せずに待つと、たぶん、はじめて親に向かって意見したマーガレットには誠実さが見えた。それに、あなたが眠りについている間に、あなたの様子を見に行ったエールにも、裏切ってもあなたのことを好きだという気持ちがあったように見える。それが、わたしに見えた、ふたりの姿。ただ、それを知って欲しかったの」


 イギリスは、意外にも、やわらかな声で言った。


「わたしは……、裏切られても、エールのことも、マーガレット姫のことも、嫌いにはなれなかった。ただ……、つらかったんだ」


 イギリスに顔を向けると、彼はフランスに優しい顔を向けて言う。


「話してくれてありがとう」


 やっぱり、いいやつすぎるわ。


 フランスは、あんまりイギリスが優しい気持ちを持っているのを目の当たりにして、泣きそうになった。


 幸せにしたいわ。

 この人のことを。


 誰よりも。


 一緒に、幸せになるのが、自分なら、嬉しい。


 それなのに……。


 フランスは、勢いよくイギリスのとなりで、懺悔するように、祈るみたいにして、手を組み、地に尻までつけてできるだけ身を低くした。


 イギリスがおそれる顔で「なんだっ」と小さく言う。


 フランスは、両肩に乗る浮気という非常に重い石を感じながら、涙目で言った。



「わたし! 浮気したわ! フランシスのとき!」





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