第423話 妖精と人間の交流
フランスはアキテーヌの城で、ヴラドを見つけて聞いた。
「ヴラド、今日は市場の様子を見に行くんだけど、一緒に来る?」
「行かない。今日は、ウリムとトンミムと、競馬を見に行く約束しているんだ」
「また、競馬? 好きねえ」
ヴラドが、満足そうな顔で言う。
「使いどころがなかった、あの金やら宝石やらの使い道を、おれはやっと理解した」
「また、とんでもない金額すらないようにね」
フランスがやれやれと言うと、ヴラドが声を大きくして言い返してきた。
「ほとんど、ウリムとトンミムのせいだぞ。あいつら、熱中しすぎるんだから」
ほんと、やれやれね。
ヴラドったら、ウリムとトンミムと一緒になら、外にも出られるみたいだけれど、出かける先は競馬みたいなものばっかりなんだから。
フランスは、出かける前にウリムとトンミムを、探して、一応言っておいた。
「あ、いた! ウリム、トンミム。ヴラドと競馬に行くんでしょう? 熱くなりすぎて、前みたいに、すっからかんにならないようにね」
全部、ヴラドのお金で遊んでいるんだし。
すると、ウリムが六つある目を、くりくりっと愛らしく輝かせて、親切そうな声で言う。
「ヴラドは、あのためこんだ金銀財宝を失うべきなんだ」
トンミムが、六つある耳をふんわりさせて、つぶらな瞳を笑顔にのせて言う。
「そうだよ、フランス。ヴラドが、ふらふらと仕事もしないのは、あの金銀財宝のせいだよ」
「え……」
ウリムとトンミムが、ふたりそろって楽しそうに、腕を天につきあげつつ、歌うように繰り返し言う。
「すっからかん!」
「すっからかん!」
す、すっからかんに、させようとしているのね……。
フランスは、アキテーヌについてからのヴラドの様子を思い出しながら言う。
「た、たしかに、ヴラドは、寝て食べてごろごろしてばっかりだけど……」
ウリムが、フランスの言葉に、うんうんとうなずきながら言う。
「そうでしょ? 何か足りないくらいが、楽しく生きるコツさ! お腹がすいたらキイチゴを探すのだって、一生懸命になるし。見つけて食べたら、楽して手に入れたのより、ずっと美味しい!」
うーん。
そ、そう言われると、そうだけど。
トンミムが、すごーく優しい声で言った。
「すべてを失って、気づくこともあるよ」
すごーく優しい声なのに、なぜか、ちょっとこわかった。
「すっからかん!」
「すっからかん!」
「……」
フランスは、「すっからかん」を連呼しながら、ヴラドの部屋に向かって歩いて行く、ウリムとトンミムの愛らしい尻を見送った。
ウリムとトンミムは、最近、ヴラドにつきっきりだ。
もしや、みちびきの石としての、仕事の対象を、ヴラドに狙い定めているのだろうか。
「まあ……大丈夫よね……、……多分……」
*
フランスは竜の姿になって、背にアミアンとシトーをのせ、市場に向かった。
シャルトルと相談しながらはじめた、アキテーヌの中心地からははずれた場所にある新設の市場だ。
いくつか、簡単な小屋が立ち並び、商品が出されている。
大規模な市場じゃない。
商品も多くはない。
しかも、やりとりは、今のところ、物々交換だ。
それでも、馬車停めには、けっこうな数の馬車や、馬や、ロバが、停められている。
小さな市場だが、けっこうにぎわっている。
統一感のないテントや小屋が並んでいるが、ゆったりとした開けた場所でやっているからか、明るく清潔感があった。
フランスが竜の姿であらわれても、誰も驚いたりはしない。
この市場をつくって、はや一ヶ月。
もはや、白い竜が来ることは、珍しくもない出来事として受け入れられている。
それどころか、今や、元聖女フランスが、アキテーヌ女公であり、また一体何があったのか白い竜の姿まで手に入れた、ということはもっぱらそこらじゅうで噂されている周知の事実だった。
フランスが、竜の背からアミアンとシトーをおろし、人の姿にもどると、半身山羊の妖精がかけよってきた。
「おーい、フランス!」
「ロビン! どう、市場は?」
「今日も、大盛況さ。もう、ほとんど品物は残っちゃいないよ」
「まだ、お昼時なのに、すごいわね」
ロビンが、なんだかほくほくした顔で、フランスの前に手をつきだして言う。
「見てくれよ、これ!」
「あら、お金ね。ついに、物々交換じゃなくなったの?」
「シャルトルに使い方を教わって、軍資金ってやつをもらったんだ。ちょっとずつ稼いだら、家が建てられるらしい!」
ロビンが、ほら、と見せてくれた袋の中身を見る。
大きな金額は入っていない。小さい単位の金ばかり入っている。
ああ、もしかしてこれ、軍資金というか……、釣銭ね。
売買の金額決めは、どうやらシャルトルーズ商会の人間が請け負ってくれているらしい。そこら中に、はかりを持った商会の人間がいて、あっちこっちで呼ばれている。
人間だけが取引で得をしないよう、商会の人間が妖精を補助している、という感じだった。
フランスは、なんだかワクワクした顔でお金の入った袋をもつ友人に、気になって聞いてみた。
「ロビン、もしかして家を建てたいの?」
「そう。母様が住んでいたみたいなやつ」
「いいわね!」
いつだったか、ロビンの夢のなかで見たことがある。
つつましやかで質素だが、ぬくもりの感じられる小さな家だった。
城は嫌だと言っていたが、人間らしい家に興味があるロビンに、フランスは半妖精の人間側の部分を見た気がした。
ロビンが、金の入った袋をつつきながら言う。
「他にも、家が欲しいってやつはいくらかいるみたいで、みんな張り切っているんだ。人間って、家づくりはずば抜けて素晴らしいもんな。城みたいなでかいのまで建てちゃうんだ。ドワーフほどじゃないけど、建築上手の種族だ」
人間は、建築上手の種族!
そう言われると、なんだか良い気分になる。
「ロビン様は、今日は何を売ったの?」
「キノコダンスで生えすぎたキノコ。キラキラ光るし、良い香りがするから、まあまあ高くで売れた」
ロビンと連れだって市場を歩いてみる。
市場に商品を並べているのは、ほとんど妖精たちばかりだ。それぞれ、森から持ってきた、自分たちには不要のものをここで売っている。
きのこダンスのキノコ、羽もち妖精の出すぎた鱗粉、ケルピーの抜け毛、イモじいの糞。
イモじいの糞は、妙に良い匂いがする。
市場で取り扱うものを不要なものと限定したのはシャルトルだった。
「価値あるものを売るのは、商売の良いところも悪いところも学んでからです。まずは、不要なものを売って、何か利益をえられる楽しい場所にしましょう。妖精にとって不要でも、人にとっては珍しいものも多いはずです」
シャルトルが言った通り、不要なものを並べても、人間の国では手に入らないものばかりで、だんだんと訪れる人は多くなった。
たまにもめ事もあるらしいが、なんとロビンがそれをうまい事おさめて回っているらしい。
「今じゃ、善良なるロビン様は、相談役のロビン様ね」
たった一ヶ月で、市場はかなり成長している。
最近は、人間も、妖精相手にパンを売ったり、菓子を売ったり、綺麗な細工物を売ったりしに来ている者もいるようだった。
あっという間に、町でもできちゃいそうな勢いね。
変わる時って、ほんと、あっという間なんだわ。
最初は、妖精の市場や、白い竜の姿に戸惑っていた人々も、あっという間に、新しい当たり前に慣れたようだ。
フランスとアミアンとシトーは、妖精が売っていた山ブドウと、人間が取引している良い香りのパンを買って、三人でそこらに座って、お昼にした。




