第422話 アミアンの権力と、シャルトルの助言
フランスは、アキテーヌの城の、自分の部屋でたまごちゃんに、帽子をかぶせたりして飾りつけしていた。
「たまごちゃん、冷えるといけないから、暖かくしつつ、おめかしもしましょうね~。かわいいでちゅね~」
フランスの目の前にある、たまごちゃんは、立派な白い殻をかがやかせて、そこに鎮座している。
健康的な色だ。
機嫌も良いにちがいない。
オーベロンとタイターニアの子であるたまごちゃんは、いつもはフランスの胸元にしまわれているが、アキテーヌの城に帰ってからは、フランスの部屋に立派にふかふかのたまごちゃん専用ベッドを用意されている。
ただし、これは昼間に使う用のベッドだ。
夜は、赤い竜、白い竜、さらには青い竜の翼で守るようにして、一緒に眠っている。
アミアンがとなりで真剣な顔をして言う。
「服まで着せるなら、顔を書いちゃだめですか?」
「え、顔かぁ。たまごちゃん、どうでちゅか。顔を書かれるのは嫌でちゅか?」
フランスが、べっちょべちょに甘い声でそう言うと、アミアンがあきれたように笑う。
「お嬢様……」
「子育て気分なの。いいでしょ」
フランスは、たまごに耳をくっつけて目を閉じた。
ふむふむ。
悪い気はしていないような気がする。
「じゃあ、顔描いてみよっか~。ねえ。誰に描いてもらおうかな。わたしとアミアンは、絵心がないからだめだし」
「シトー修道士がいいんじゃないですか?」
「そっか! シトー、物を作るのも、絵を描くのも上手かったわね!」
フランスは部屋を飛び出て、となりの部屋の扉をたたいた。
シトーがのっそり出てくる。
「シトー、わたしのかわいいたまごちゃんに、顔を描いて」
シトーが、何を言っているんだろうみたいな顔をしたあと、フランスの目の前で扉を閉めようとした。
「なんで、閉めるのよ! 顔描いてってば!」
無理矢理扉をこじあけて、シトーの手首をつかんで引きずっていく。
三人で、わあわあ言いながら、たまごちゃんの顔を描いてゆく。
フランスがああでもないこうでもないと言って、シトーがゆっくり描き、アミアンが補助する。
たのしいひとときだった。
結局のところ、アキテーヌでの暮らしの部屋割りは、アミアンが絶大な権力を誇示して独断で決定した。
フランスの部屋の右隣はアミアンの部屋。
フランスの部屋の左隣はシトーの部屋。
シャルトル、ヴラド、イギリスも、完全にここで暮らすわけではないが、アキテーヌの城にいる時は使えるように部屋が用意された。だが、フランスの部屋があるのとは、棟ごと離れた、けっこう遠い場所だった。
ちなみに、ロビンにも部屋を用意しようとしたら、「城になんて住みたくないや、かたっくるしい」と、どこかへ行ってしまった。
部屋割りについて、ひとり権威をふるったアミアンの意見をあらためて聞いてみる。
「シャルトルと、ヴラドと、イギリスの部屋、やたらにここから遠くない?」
「適切な距離感が必要です」
「ダラム卿は?」
フランスが、用意されなかったダラム卿の部屋について言うと、うっかりとかアミアンが言った。
「ダラムは……、ダラム様は、アキテーヌにも邸宅を買われたそうです」
「まあ、さすがね」
で、アミアン、普段はダラム、と呼んでいるのね。
フランスは、にやにやした。
それにしても……。
フランスは、気になったことを聞いた。
「シャルトルと、ヴラドと、イギリスはダメだけど、シトーは隣でいいんだ」
「シトー修道士は、修道士中の修道士ですので。なんなら、シトー修道士が隣の部屋を嫌がっていましたが、護衛もできますし、隣にいてもらうことにしました」
フランスは、思わず近くにいたシトーをにらんで言った。
「なんで、嫌がるのよ!」
シトーが無表情に即答する。
「うるさいから」
「なんですって‼」
シトーがこれ見よがしに耳をふさいだので、近づいてわあわあ言ってやる。
アミアンに「そういうところですよ」と言われて、フランスは、シトーにひとつ大きめにふんと鼻をならしてから、わあわあ言うのをやめた。
「しばらくは、シャルトルーズ商会の方々と、城を二分して使うことになりますし、人の出入りも多いので、シトー修道士がとなりにいれば安心です」
「アミアンと、シトーで、完全な守りね」
そこに扉をたたく音が聞こえた。
アミアンが扉をあけると、シャルトルがいた。
シャルトルが首をかしげて、美しさと愛らしさきわまる仕草で言う。
「フランス、相談事があると聞きましたが?」
「あ! そうなんです!」
シャルトルが、かざりつけられた、たまごちゃんの様子を見て言う。
「ずいぶん……愛らしくなりましたね。たまごちゃん」
「かわいいですよね! 見れば見るほど、かわいくて、目に入れても痛くないんじゃないかと思うほどです」
本当、かわいいわ。
ちゅるちゅるつやつやのたまごちゃん。
フランスは、たまごちゃんを見て、うっとりした。
「……で、相談事とは……」
「そうでした!」
フランスは妖精の国で見た、妖精たちの色々な思いについて、シャルトルに話した。
「妖精も人間も、お互いに寄り添って生きられるといいのですが……。何か、良い方法はないかなと……。かといって、オーベロンが残した扉をすべて開けてまわるのは、お互いにとって良いことのようにも思えないですし……」
人間と交流したい妖精もいれば、そうじゃない妖精もいる。
とっても難しい。
シャルトルは、さして悩みもせずに答えた。
「交流の地を決めてしまえばいいんですよ」
「交流の地を決める?」
「ええ。たとえば、このアキテーヌのどこかに、妖精たちも暮らせる場所をつくるんです。そうすれば、噂が広まって、妖精も人間も、お互いに交流を結びたいものが集まる場所になります。色々と、配慮するべきことはあるでしょうが」
「妖精と人間が、集まるでしょうか」
「土台を作るのは大変かもしれませんが……。人は単純ですからね。不利益なものは受け取りがたいですが、利益になるものは喜んで受け入れる。それは、きっと妖精も同じです」
にやりと笑う、シャルトルは、まさに、大きな商会の商会長、という顔だった。
頼りになる!




