第416話 肉弾戦もいける聖女
フランスたち一行は、明るくなった古い森の中を、あちこち見て回った。
葉陰から、木のうろから、キツネの巣穴みたいなところから、妖精たちが出てきて、あくびしたりしている。
まだ、みんなぼんやりとしているようだった。
フランスたち一行の姿を見ても、何の反応もない。
木の根元にうずくまるように眠っている大きな姿を持つ妖精もいた。
どうやら、小さいものたちから順に目覚め始めているようにも見える。
霧がはれてみると、森には、おどろくほど多くの妖精たちがいた。
森の総意で生かされたと、ドリュアデスは言っていた。だとするなら、ここで眠っていた妖精は、迷い込んだもの以外は、自ら眠りについたのだろうか。森の一員として。
もしや、呪いの森のようになることで、森自体を守ろうとしたのだろうか。
彼らにとっては、家だもの。
あのドリュアデスも、もしやアミアンの母親も、彼らにとっては家族のようなものなのかもしれない。
フランスは、はるかに自分よりも長く生きる、古いものたちについて思いをはせた。
そして、ふと、気になって、となりを歩くシャルトルに聞いてみる。
「シャルトル、あなたが、おそろしいと思うことは、何です?」
シャルトルは一人だけ、おそろしい幻を見なかった。彼女は、小首をかしげながら、何の気なしに言う。
「おそろしいことはありません。別れや、拒絶や、苦しみ。死や、絶望さえ。あるがままです。すべては、わたしに与えられる意味あるもののひとつ。すべては喜びです」
すべては喜び……。
処刑台に立たされても、愛と感謝を言葉にしていたものね……。
ああ、やっぱり、かっこいい。
好き~。大好き~。
大大大好き~!
そうして、動き始めた森の中で、しばらく歩き回っていると、一行は、丸まって眠っている金色の竜を見つけた。
まだ目覚めてはいない。
尾をくるりと自分の体にまきつけて、ぐっすり眠っている。
フランスは、ひそひそと言った。
「これ、わたしたちを襲ってきた金の竜よね」
ロビンがひそひそと答える。
「多分、そうじゃないか? 金の竜が、そう何匹もいやしないだろうし」
「まだ、なんだか、うなされているわね……」
金色の竜は、ぐっと身体をまるめて、うんうん言いながら眠っている。
なんだか、かわいそう。
「こわい幻を見ているのかしら」
「金銀財宝がなくなっちまう夢とかだろ」
「それじゃ、余計にかわいそうよ。あんなに、大事そうに守っていたんだし」
フランスは、金色の竜の近くに行った。
イギリスが、すぐ後ろについてきて言う。
「フランス、あぶない」
「起こしてあげたいの」
イギリスは、やれやれという顔をしてから、赤い竜の姿にかえて、いつでも金色の竜にとびかかれる場所でかまえた。
フランスは、その姿を確認してから、金色の竜の鼻面にちょっと触れてから言った。
「あなたは、癒された」
やっぱり妙に明るい光が心のうちをなでる。
金色の竜が、ぱちっと目をあけた。
間近で、大きな目と、フランスの目が合う。
金色の竜は、しばらくじっとフランスの姿を見たあと、何か思い出したのか、怒ったように大きく吼えた。
すかさず赤い竜が、金の竜の身体を押すようにして、フランスから遠ざける。
二匹の竜は、もんどりうって争い始めた。
どちらも似たような体格で、力は拮抗していそうに見える。
フランスは、みんなと一緒にすこし離れたところから、闘いの様子を見守ったが、どうも決着がつきそうにない。
「互角ってかんじね」
アミアンがフランスのとなりで、のんびり言う。
「これは、長引きそうですね。どちらも、頑丈そうですし」
「よし、女は度胸よ」
「お嬢様……、まさか、殴りにいくつもりですか?」
「竜の姿で暴れるの、ちょっとやってみたかったのよね。しかも、多分、わたしのほうが、あの二匹より大きいわよ、きっと」
フランスは、白い竜の姿に変えて、二匹の争う竜に向かって、主張するように思いっきり吼えた。
おどろくほど、大きくおそろしい声があたりにひびく。
じゃあ、いきまーす!
二匹の竜が、こちらを向いた瞬間、フランスは、どたどたっと勢いよく走った。
四つの足で走るの難しい!
なんか、変だけど、勢いでいくわ!
足が、しっちゃかめっちゃか動いている気がするが、一度走りはじめたら、大きい身体は勢いがついて、止まれそうにない。
赤い竜が、よくない気配を察知したのか、すぐさま逃げた。
金の竜は、なんだかぽかんとした感じで、こちらを見ている。
フランスが、突っ込むぞ、という意味をこめてもう一声吼えると、金の竜が焦ったような顔で、逃げ出そうとする。
フランスは、勢いづいたまま、金の竜に向かってつっこみ、一緒になって転げた挙げ句、金色の背にのしかかるみたいにした。
あれ、小さいわね。
金の竜は、白い竜の姿になったフランスよりも明らかに小さい。
簡単に、抑えつけられるようだった。
フランスが、金の竜の顔に向かって、叱るように吼えると、金の竜は、勝てないとみておそろしくなったのか、尻尾を股の内側にまきつけるようにして、あわれっぽく鳴いた。
あなたの財宝をとったりしないから、もう、あばれちゃだめよ。
フランスは、そういう意味をこめて、わうわう言った。
すると、金の竜が、必死の様子でうなずく。
通じたっぽい。
体格差がありすぎて、いじめているみたいな気分ね。
それにしても、そんなに怖がらなくても……。
と思ったが、そういえば、これは妖精王の姿だ。この姿だけ見れば、妖精王が怒っている感じにも見えるのかもしれない。
だから、こんなにこわがっているのかしら。
あ、それとも、もしかしてこの子、女の子とかかな?
赤い竜と同じくらいの大きさだし、これが竜の女性サイズということも、ありえる。
フランスがかわいそうになって金の竜の上からどくと、金の竜は、猛然と逃げた。
振り返らず、必死の様子で逃げる。
あっという間に、金色の姿は森の先へと消えてしまった。
……。
すごい。
すごい素早かったわね……。
話でもできないかな、と思ったのに……。
金銀財宝をためこんで、あんな場所にずっといるくらいだし、対人関係は苦手なのかも。
それじゃ、しょうがないか。
やれやれよ。
……。
で、ヴラドは⁉
金の竜がいるのなら、このあたりにヴラドがいる可能性も高いかもしれない。
みんなでヴラドの名前を大声で呼びながら、そのあたりを探し回った。
フランスも、人の姿にもどって、叫びまくる。
「ヴラドーッ! どこーッ!」
「子コウモリちゃんーッ!」
すると、木のうろのなかから、こっちをのぞいている小さな目があった。
やせたコウモリが、こちらをのぞいている。




